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武技憂気日本大戦  作者: 囲井 鯀
―弐―
46/111

武技憂気日本大戦 Xmas.ver No.1

 予定にはなかったのですが、時間が出来たので『クリスマスイブ特別編』です。病院時代の被ですね。

 知らない方たちも出て来ます。

 まあ、外伝なので登場人物にはその名前は現れることは無いでしょうが。

「……やけに寒いな」


 オレは寒さで目を覚ますと、身震いをしながら布団を掛け直した。時計を見ると、まだ六時にもなっていなかった。

 病室の窓から外の景色を見ると、真っ黒な空を見ることが出来た。

 空からは白い光が幾千も零れ落ち、大地を真っ白に染め上げている。

 中庭を見下ろすと、何人かはしゃぎまわっているのが見えた。


「雪、か」


 このあたりで雪なんて珍しい。

 そう思いながらベッドから這い出て、いそいそと寝間着から厚着に着替える。今日は特に予定という予定が無いので、中庭でおとぎ達と遊ぶことにした。


「被ー! あそぼー!」


 どたどたと廊下を走りながら、一人の少女がオレの病室の扉を勢いよく開けた。やはりと言うべきか、小鳥であった。八十センチほどしかない身長で、一生懸命背伸びをしながらオレの手を引っ張っている。


「待て待て。急がなくてもオレは消えない」

「いいから早くー」

「わかってる」


 オレは机の上からマフラーとミトン、そして革帽子を引っ掴むと、小鳥に連れられ中庭へ降りた。

 中庭へ行くと、もうすでに足首まで雪が積もっていた。


「これは……」


 相当積もったな、とオレは感心しながら足元の雪を踏む。ギュッギュッと独特な音がした。


「……ふっ」


 ギュッ、ギュッ。


 ギュッ、ギュッ。


 べしゃっ。


「冷たっ!?」


 右頬に雪の塊がぶつかった。その冷たさに思わず声を上げる。足元を踏み鳴らしながら右を向くと、雀とおとぎが面白そうに笑っていた。

 どうやら、彼女たちが投げたらしい。


「ニノー! あそぼー!」


 雀が必死に手を振っている横で、おとぎがぐるぐると腕を回している。楽しそうな奴等だなー、と眺めていると、おとぎの口から恐ろしい言葉が飛び出てきた。


「ほらニノ、避けろー!」


 ごばっ!

 オレの足元に積もった雪がいつの間にか吹き飛んで無くなっている。


「……おい、おとぎ」

「んー? どうしたー?」

「冗談にならないから流石にそれは――」


 ぼふっ!

 どざざ! と植木に積もっていた雪が零れ落ちる音が聞こえた。


「うーん、当たらないなー?」

「当てるな! 雪玉が凶器と化してるぞ!」

「あはは! ニノ、いいこと言うー!」


 嬉しそうに雪玉豪速球を投げるおとぎ。その少し離れた位置で、雀と小鳥が雪だるまを作っていた。また、病院の看護師たちが中庭の真ん中を陣取るもみの木の飾りを始めていた。


「いや、オレ、クリスマスプレゼントが両親へ会うための片道切符とか嫌だからな」

「大丈夫、大丈夫!」


 轟ッ! と顔の横を雪玉が通り過ぎていく。雪玉が巻き起こした突風がオレの周囲の温度を数度下げていった。


「何処がだよ……」


 思わずため息を吐く。暑くもないのに、背中に嫌な汗を掻いてしまっていた。それを自覚したせいなのだろうか、悪寒が走る。


「ほらほらー、避けてるだけじゃつまらないよー」

「それはお前の都合だろ」

「そうかもねー。おりゃ!」

「うお……っ」


 オレはマフラーで口元を隠しながら上半身を捻り雪玉を避ける。


 そもそも、鬼の亜人であるおとぎに体を動かすことで勝てる筈が無いに決まっている。オレとおとぎの間だからこれは『じゃれ合い』で済まされているけれど、例えばおとぎが雀にオレにしていることと同じような事をすれば、ただ事では済まされない。

 幸い、おとぎもそういう事はちゃんとわかっているので、オレにしかこういったふうにじゃれつかないのだけれど、しかし最近はエスカレートしている気がする。


 ストレスが溜まっているというか、おそらく欲求不満なのだろう。なんだかんだであいつも思春期なのだ。心が複雑化してくる自分に戸惑っているのだろう。


「やれやれ……」


 少しばかり遊んでやるか、とオレは顔面に突き刺さるように飛んで来た雪玉を両手でどうにか受け止める。

 ……おい、顔面で両手を受け止めちまったぞ。何だこの雪玉は?


「お? やる気になったね?」

「いや、経った今失くしたぜ……」


 鬼だ……。文字通り鬼だ……。流石鬼の亜人だこの野郎。

 オレは鼻血を拭きながら雪玉を避ける。


「うー、つまらないぞー被ー」

「うるせえ。一発殴らせろ」

「出来るならどうぞお好き、にっ!」


 おとぎは軽めに雪玉を投げた。それは、目視してから避けられるほどの速さだったので、オレは避けずに手でそれを弾き飛ばそうと右手を上げる。


「いただき!」

「は?」


 目の前の雪玉が四散し、中から雪玉が勢いよく飛び出してきた。あまりのことにオレはどうすることもできず、鳩尾に雪玉をもろに喰らい後ろに吹っ飛んだ。


「ありゃりゃ? やりすぎたかな……」

「…………」

「おーい、ニノ? 平気?」


 動かないオレを心配したのか、恐る恐るおとぎが近づいてくる。


「被どうしたのー?」

「あれ、ニノ!? 大丈夫!?」


 静かになったことに気付いた小鳥と雀も駆け足で近づいてくる。そのせいか、おとぎはあわあわと挙動不審になってきた。


「どどど、どうしよう! ニノ、死んじゃったかな!?」


 おい、どんな心配の仕方だ。あと立ち止まるな。もっとこっち来い、殴れねえだろ。


「大丈夫なんじゃないの? ニノのことだし、どうせうっかり寝ちゃってるだけだよ」

「被ー、起きてるー?」


 こっち来いと念じていると、何故かおとぎではなく小鳥が近づいてきて、オレの頬をつつく。

 とりあえず寝たふり。


「被寝てるよー」

「なんだ、寝てるだけか……。良かった」


 安心した様におとぎは息を吐く。おい、そこは気絶なんじゃないのか?


「でしょ?」


 でしょ? じゃねえよ雀。お前はオレを何だと思っているんだよ。そんな、何処でも寝れるような奴じゃねえから。

 あ、痛い。背中が痛い。雪がコートから滲みてきてない? 大丈夫なのこれ?


「とりあえず起こさないと寒そうだしな。オラ、ニノ起きろ」


 ごすっ。


「ごふぉ!」

「あ、起きた」

「お、おま……!」


 なんでまた腹殴るんだよ? 一瞬お星さまが見えたぞ?


「てめ……、ぜってえ、後で殴る……」


 オレはおとぎに殴られた腹を押さえながら立ち上がる。


「いや、ごめんね。まさかそこまで痛がるとは……」

「馬鹿野郎。オレじゃなかったら三十回ぐらい死んでたぞ」

「あはは……。うん、反省します……」


 がっくりと肩を落としながらおとぎは言う。


「まったくだ」


 オレはおとぎの頭を小突きながら雪だるま達へ向かって歩く。

 大から小まで、様々な表情の雪だるまが中庭に生まれ、まるで暖かい家族の様に微笑みながら子供たちが遊ぶのを見守っていた。

 気付けば、雪は脛まで積もっていた。


「…………」

「どったのニノ、笑っちゃって?」


 雀がオレの顔を覗き込む。オレはマフラーで口元を隠しながらその問いに答えた。


「いや、本で読んだことがあるだけだけど、雪ってこんなに冷たいんだな、って」

「うん、そうだね。とっても冷たい」


 雀は寒さで赤くなった指を庇うようにしてポケットに手を仕舞いながらオレの横に立った。

 オレ達の後ろではことりとおとぎがまた新たな雪だるまを作っているような声が聞こえてくる。


「でも、冷たいのに、雪はこんなに綺麗だよ」

「ああ、綺麗だ」


 全てを真っ白に染め上げ、まるでこの世界の汚い部分を全て覆い隠そうとしているかのように積もっている。なのに、これほど美しい景色が目の前に広がっている。

 とても綺麗で、とても美しくて、眩しいほど輝く景色が広がっていた。

 オレはそんな白い世界から視線を外し、隣に立つ雀を見る。


「……かまくらってあるだろ?」

「かまくら? ……ああ、雪で作った家、だっけ?」

「まあ、そんなもんだな」


 オレは辺りを見渡す。さっきオレとおとぎが遊んでいたところが丁度良いか。


「あそこに造るか」

「あそこ? うん、ちょうどいい広さもあるみたいだね」

「だろ?」


 オレ達は他の子供たちも呼んで、皆で協力してとても大きな『かまくら』を造ったのだった。






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