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武技憂気日本大戦  作者: 囲井 鯀
―弐―
36/111

三十四

 一話に纏めようとしたら長くなりました。普段の二倍近く長いです。


 二話に分けた方が良かったかも……。

 川辺川を殺してから二週間経った頃だった。

 オレは雨に打たれながら草原に大の字で横になり、ひたすら夜が明けて雨が止むのを待つ。しかし、夜が明けたからと言って動く気にはなれなかった。

 ただ、己の死を待っていた。無情にも、死の足音は一向に聞こえない。頬を濡らすのが涙か雨かわからぬまま、オレは眠りについた。


「死んでる、のかな? それとも生きてる? もしもーし」


 眠りについてからどれくらい経っただろうか。空模様は快晴と言って良いだろう、日も高く昇っていて雨が止んでいることがわかった。


「あ、起きた」

「うるさい、寝かせろ」

「アタシだって忙しいんだよ、ほら、起きた起きた」


 ごつっと何か硬いもので頭を叩かれる。無視していると、更にしつこく頭を叩いてくるので上体を起こしてオレを殴る犯人を確かめる。


「ちゃお」

「うす」

「……え、スルー? 今の別れの挨拶だよ?」

「え? ま、まあ、そうだな」


 不思議に思い、声の主を観察する。幼い少女で、アホ毛を含めて全長八十五センチ程だろう。やけに小さい人間だったが、別に驚きはしない。知り合いに一人、そういう人間がいたから、おそらくそういう類なのだろう。

 オレの頭を叩いていたものは何かと思うと、少女が抱えている一振りの刀が目に付いた。自分の体よりも大きな刀を大事そうに抱えている。よく見ると、鞘が血で汚れて……!


「お前っ! それはっ!」

「せいかーい、これはね、あなたに殺されかけたあたしの傀儡、川辺川ちゃんの刀だよ」

「お前……」


 上体を後ろに倒し、その勢いで後転しながら起き上がる。深呼吸を繰り返し、新鮮な空気を体に取り込む。


「うんうん、アタシはこの刀は重くて使えないからここに置いておくね」


 確認するように少女は脇に刀を置く。


「ああ、アタシの名前は不知火まことだよ」

「そうか」

「あなたの名前は弐騎継被でいいのかな?」

「……誰から聞いた?」


 この少女、川辺川の事を傀儡と言っていた。まさか、矢掛さんを……?


「逃げられちゃったけどね、言秀とか言うおっさんからだよ」

「言秀さん……?」


 何故……? あの人は今、近畿地方の警備隊として活動しているはずだ。こちらへ戻ってくる予定はないはずなのだが――。


「血の臭いがぷんぷんするおっさんでね、多分何人も殺してるよ。しかもごく最近」

「え、じゃあ言秀……言秀さんは……」


 殺したのか? 警備隊を? 一体、何故?


「アタシは平気だったけど、川辺川ちゃんがね……。頭を踏み砕かれて、殺されちゃった……」


 玩具を失くしてしまったような、親友が遠くへ行ってしまったような、そんな曖昧な悲しみを瞳に浮かべながら不知火と名乗った少女は俯く。


『オレに任せてみては――』

「うるさい! 黙って見ていろ! ぶっ殺すぞ!」

『――――!?』

「うぇ? なにごと?」


 好機と見た悪魔が囁きに来るが、心を強く持って突っ撥ねる。事態をよくわかっていない不知火には黙っていろと睨みをきかせる。


「甘えてたからあいつらが死んだんだろ!? オレが弱かったから、お前の甘い言葉に誘惑されるオレの心が弱いから殺されたんだろ!?」

『仕方なかったんだ……』

「なにが仕方ないだクズがっ! 言い訳するなら引っ込んでろ! どんなのが相手でも、オレが皆ぶっ潰すからお前は引っ込んでろって言ってんだよ!」


 オレが弱いから、言い訳して甘えるほど弱いから、ろくに戦いもせず眺めているだけで、危なくなった時だけ加勢する卑怯者だったから、二人は死んだ。守れなかった。オレは何も守れなかったのだ。


『川辺川は強すぎたんだ……』

「うっせ! だったら最初から出て来い、弱虫が!」

『そして、川辺川を殺せと……?』

「力を見せつけて、脅かして退かせるんだよ! それぐらい出来るだろ、ああ!?」

『そんなこと……』

「出来ないよなあ!? だってお前は――!」


 お前ってやつは、卑怯な手を使ってしか相手を倒せない、卑怯者だもんな。そうだろ!? だってお前は――。


「オレなんだから! お前がオレで、オレがお前だってことはよくわかってんだろ!」


 それが、オレが二週間かけて出した答えだ。弱い、そんなオレが嫌いだから、卑怯でもいいから勝ちたい。殺したい。下に見られたくない。

 跪かせたい。

 そんな思いが、悪魔を作り出したと考えた。

 千夜が言った言葉だ。

 『人の「表と裏」と呼ばれるモノはよくよく観察してみれば、大差ない。人とは汚らしい生き物だからな、当然の事だろう』


『…………』

「……黙ってないでなんとか言えよ」

『…………』


 無意識に目を閉じる。すると、脳裏には穏やかな笑みを浮かべるオレの顔、いや、オレとよく似た顔が浮かぶ。目は妖しく光っているけれど、しかし優しい笑みでオレを見ていた。

 何お前。急にどうしたよ、気持ち悪い。


『やっぱり君はオレだよ……。覚悟が足りないのが残念だけどね……』

「るせー」

『オレの役目はこれからだ……。オレの力、好きに使えよ……』


 そう言うと、オレに似た悪魔の顔が揺らぐ。水面に石が一つ、投じられた時のような波紋を描きながら、ゆっくりと消えていった。


「…………」

「あ、やっと終わった? なにしてたの?」

「ん、ああ。オレの中の悪魔がうるさかった」

「へー、天使は?」

「天使? ……いなかった、な」


 悪魔しかいなかった。目がスゴイ妖しかった。


「これがオレの力……」


 言い知れぬ違和感が胸の中に生まれた感じだった。使い方は頭の中に刷り込まれているのだろう、なんとなく理解する。


「じゃ、アタシから話があるけどいいかな?」

「殺し合い以外なら」

「あはは、しないしない。一方的に殺したりもしないから安心してー」


 無邪気な笑顔で物騒な事を言う。


「アタシって、ほら、忍者でしょ? 見た目からして」

「まあ、そう見えなくも……、いや、わかんねーよ」


 軍服着てんじゃん。忍者って言うか一兵卒だよ。


「んー?」


 不知火は右に頭を傾ける。


「あー?」


 オレは左に頭を傾ける。


「まあいいや」

「いいのかよ」

「まあいいの」


 まあいいらしい。それより早く本題に入らないのだろうか。


「で、忍者のアタシは、知っての通り余命があと僅かなんだよ」

「へー」


 忍者って短命なのか。いや違うから。こいつが特別なだけだから。


「あと何日で十歳になるんだ?」

「えっとねー、三日? 二日かも?」

「そうか、で、オレにどうしろと?」

「弟子にならない?」

「断っていいか?」


 なんで九州の忍者の弟子に四国の英知の結晶ともいえる体のオレが弟子入りしなければならないのか全く分からない。


「あ、これ決定事項ね」

「なんでわざわざ確認したんだよ」

「ほら、両者の同意の上で、ね?」

「ね? じゃねえよ。弟子がそもそも同意してねえよ」


 忍者ってこんなに強引だったのか。知らなかった。


「あ、今弟子って認めた」

「あ、失敗した」


 こいつ、出来る!?


「じゃ、地獄の特訓始めるよー」

「あ、見取り稽古で充分です」

「駄目だよ! 見取り稽古なんて最終日に嫌って言わせるつもりで沢山やるから! 今はアタシについて知ってもらうの!」

「それ忍者かんけーねっすよ不知火先生ー!」


 オレの叫びは真っ青な空に響き渡ったのだった……。

 まだオレと不知火の地獄は始まったばかりである。

 知り合いの小さいのは、信長のことではないです。

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