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武技憂気日本大戦  作者: 囲井 鯀
―弐―
35/111

三十三

「くそっ! くそっ!」


 九重さんの大剣を握り、力で無理矢理制御しながら無理な体勢と勢いで川辺川に向けて大剣を振るう。一撃振るうごとに砂埃で周囲が見えなくなるがすぐさま大剣で空を裂き攻撃する。

 大剣の重量に負けた手首は何度も折れたり外れたりしたが、無理に回復させ攻撃を続けさせる。


「川辺川ぁぁぁああああ!」

「あまり動かないでくれるかい。殺し辛い」

「うああああああああああ!」


 遂に手から大剣が抜け飛ぶ。明後日の方向へ飛ぼうとする大剣を川辺川の首へ向けて蹴飛ばす。川辺川はそれを軽く水で防いだ。

 皮膚を硬化させ、斬撃を防ぐ。



『君が弱いからだよ……』



 頭の中に、そんな声が響く。


『君が弱いからあいつらは死んだんだ……』


 低く、くぐもったような声がオレに語りかける。


『あいつらは君が殺したも同然なんだよ……』


 頭の中に下卑た笑いが響く。

 オレにどうしろと言うのだろう。それに絶対こいつは悪魔だ。乗っ取られて、川辺川を殺した後に矢掛さんも殺しに行くに決まっている。理性を保つためにオレは考えるのをやめない。


「『大水居合十八番・芽吹(メブキ)』」

「――――!」


 全身を鋭い痛みが襲う。しかし、どうにかオレの身体は原型を保ってくれたようだ。洒落にならない。しかし、何もできない。

 川辺川が圧倒的過ぎて、打開策が全く思いつかない。


『川辺川だけを倒したいんだろ……?』


 まあ、そうだけど……。硬化している間は動けないし、動いたら血だまりになるしで手も足も出ない状況だ。


『ほんのひと時だけ、オレに意識を委ねれば願いを叶えてやるよ……』


 悪魔の囁き。わかってはいる。駄目なのはわかっている。こいつに意識を渡すのは駄目だ。駄目だけれど……。


 打開策が思いつかない。


『迷う位なら賭けてみろよ、君の希望にさ……』


 オレの希望……。ゆっくりと目を閉じると、穏やかな笑みを浮かべるオレの顔があった。『川辺川だけを倒したいんだろ……』と妖しく光る瞳でオレを見つめながら言う。これがオレの希望……?



 闇の中に差し込む一筋の光。真っ黒な闇よりも、更に黒く、暗い光。




 気が付くと。

 オレは血だまりの中に佇んでいた。

 右手で九重さんの大剣を握り。

 左手で川辺川の頭を掴み。

 足元には首のない川辺川の身体が横たわっていた。


「あ、あ……」


 右手の大剣が無機質な音を立てながら零れ落ち、左手の川辺川の頭が生々しい音を立てながら地面に落ちる。


「あ、あああ、あ……っ」


 景色が歪む。


 オレは叫んだ。声の限り叫んだ。地面に膝をつき、天に向かって吠えた。

 最低だ。千夜に人を殺すなと言っておきながら、オレは簡単に人を殺して見せた。悪魔だなんだと言っていたが、あれは間違いなくオレだった。

 オレが川辺川を殺した。

 この手で。この血にまみれた手で。

 目を閉じると、オレの下卑た笑みが鮮明に浮かび上がる。『お前が殺したのだ』と、楽しそうに笑っている。心底、楽しそうに。


 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 嫌だ――!


 誰か助けて!


 オレは逃げ出した。事実から目を逸らそうと、前後不覚になりながらもなりふり構わず走り出した。瓦礫に躓き、顔面から地面に突っ込んでもすぐに起き上がり、すぐに走り出す。中国地方から逃げ出す。全てから眼を逸らし、誰かに殺されることを期待しながら、死に物狂いで走る。


 オレは、飲まず食わずでも生きられる自分の身体が恨めしかった。

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