三十一
「くそ……」
九重さんの登場が遅すぎる。おかげで、オレまで戦う羽目になってしまったではないか。非戦闘員なのに。
相変わらず川辺川は殺気を振りまいている。先ほどと違うのは、右腕が欠損しているのと、殺気と共に怒気もオレ達に向けているという点だ。
怖いので逃げ出したいのだけれど、背中を見せたら殺されそうだし、背中を見せなくても足元から殺される。
「四方山、後は任せても良いよな」
「今ここで殺してあげるから逃げる必要はないよ」
「お前と話してねーよ、川辺川」
「僕は君と話しているんだ」
「そうか」
「だから殺す」
おいおい、話が噛み合ってないぞ。
「――『チェンジ・防』」
川辺川の右腕が飛び、持つ刀は真っ直ぐオレの首を狙って刃を突きたててきた。オレは皮膚を極端に硬化させることで首が切断されるのを防ぐ。
それを確認した四方山は慌てて赤い軌跡を残しながら飛び出す。
「『大水・轟』」
オレの四方に水の大槌が現れる。おそらく、打撃の衝撃によって内側から攻撃しようという算段だろう。
脳震盪起こしたら洒落んなんないぞおい……。
「四方山ぁ! オレに構わずそいつを殺せぇ!」
「誰がお前に構うか!」
「――――っ!」
後頭部に強い一撃。それは一瞬でオレの意識を刈り取った。白く染まっていく視界の中でオレは更に脚に力を込め、倒れまいとした――。
『超能力は多々あれど、しかし全てが全て、違った種類のものだ。だが、その全てがまた、同じ性質を持っていることも確かである。その性質とは、進化すること』
真っ白な回廊だった。目も眩むような真っ白な回廊。
『ステージが上がる、とでも言うのかな。上がる前では出来なかったことが上がった後では出来るようになっている。もしくは、別のものへと変化する』
カチカチと時計の針が時を刻む音が聞こえる。見ると、回廊の壁や天井はずらりと無数の時計で埋め尽くされていた。
『例えば、微風程度の風しか生み出せない風遣いが、トルネード級の風を起こせるようになったり』
そして、目の前に立つ真っ黒な少年。透き通るような白い肌の上から、真っ黒な服を着ていた。黒い革のジャケット、黒いだぼだぼのズボン、黒い革帽子、黒い革手袋、そして、脇に抱える黒い革表紙の分厚い本。この真っ白な回廊に不釣り合いなほど白く、黒い少年だった。
『例えば、コップ一杯の水を動かすのがやっとな水遣いが、海を割ることが出来るようになったり』
曖昧な声を発する少年。ひょっとすると少女に見えるそれは、頭に直接響くような声で話す。声に抑揚は無く、感情はこもっていないように感じられた。
『例えば、君は何の超能力を持っていないのだけれど、訓練次第で何か超能力を会得できるかもしれない』
何だと?
「本当か?」
『可能性はないわけではないよ。そんなことより今の話はちゃんと聞いていたのかい? 僕は不安でたまらないよ』
「まあ、なんとなく聞いてたな」
ていうか、誰だろうこの子。それに、一体ここは何処だ? 少し肌寒い程度だから、避暑地か? おい、今は冬が近い季節だった気がするぞ。
『まあいいよ。ここからが本題だよ、弐騎継被君――』
黒い少年は男です。
真っ白な回廊は、限られた人しか入れない精神世界、みたいな。うっかり入れますが、帰るには黒い少年の許可が必要になります。




