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武技憂気日本大戦  作者: 囲井 鯀
―弐―
32/111

三十

 明らかに川辺川の周囲を包む空気が変わった。おそらくそれはさっきと呼べるモノへと変貌していく。

 さっきまでの人形のような川辺川ではなく、人間らしい川辺川がオレの目の前に立っていた。そんな川辺川に少なからず四方山は気圧される。


「……なら、俺も本気でいってやるよ」


 四方山の両腕が赤く、熱を帯びた鉄の様な色に光る。


「そのための上半身裸かい」

「さらしはちゃんと巻いているぜ」


 赤熱する部分が両腕から前腕部のみへと変化する。二の腕は白熱していた。頬が上気し、四方山の体温が上がっていくのがわかる。


「『朱紅赤光(シュコウセッコウ)』」


 四方山の履いていたじーず、えっとそう、ジーンズの膝下が一瞬で蒸発した。それに伴って履いていた靴や靴下も無くなり、脚の膝下が両腕の前腕部と同じように赤熱し、足元の瓦礫は熱を帯びる。

 水対熱。


「――――!」


 嫌な予感がした。慌てて椅子代わりにしていた瓦礫を蹴り後ろへ逃げる。



 爆音。そして熱風。



「熱っ! いってぇ!」


 瓦礫の破片と共に吹き飛ばされながら地面を削る。

 水蒸気爆発なのだろうが、まさかここまでとは思ってもいなかった。

 二人の方をみるといつの間にか間合いを詰めていた。さっきの爆発はこのせいなのだろう。


「『大水・(ツメ)』」

「『血染(チゾメ)』」


 何度か四方山の拳を避けたところで川辺川は反撃する。水で出来た三本の巨大な手が四方山を三方から襲う。四方山は赤い軌跡を残しながら両腕を振い防御する。


「……川辺川ー」

「なんだい」

「お前、なんでずっと柄に手を置いたまま刀振り回さないの?」

「そんな必要、あると思うかい?」

「いんや、全然。むしろ手加減してるだろ」

「…………」

「…………?」


 右頬に違和感をおぼえそっと触る。ぬるりとした感触がした。


「うわ、流石……」


 右手に付いた血を舐めながら呟く。次第に傷が塞がっていく。


「っ!?」


 突如右手がオレの意思に反してオレの目を抉ろうする。いや、右手が、というよりこれは血にまみれて赤く染まった右手が、だ。血だまりに手を突っ込んだわけでも無いのに血で染まっているとなると、これは川辺川の仕業だろう。


「お前、強すぎないか? 雨の日に攻めてこられたらひとたまりもなかったな」

「わかってもらえて結構」


 右手の力が抜ける。血を舐め取ってみると無数の穴が手に開いていた。


「水が体を乗っ取る前に熱で蒸発してしまう、か」


 しかし、全力に近い四方山と全力とは程遠い川辺川では勝負の結果は明白だ。

 そして、川辺川の駄目押しが始まる。


「『大水・奇禍(キカ)』」


 川辺川が抜刀すると同時に、蒸発して少なくなってきた水を補填するかのように水が湧き出る。四方山は目にも止まらぬ速さで飛び退き距離をとる。それに対し川辺川はゆったりとした速度で近づくが、一歩進むごとに川辺川の傍で待機する水が凶器へと変わり、じわじわと数も種類も増えていく。


「――っ! 四方山ぁ!」

「そ、『双腕奇々怪々(ソウワンキキカイカイ)』っ!」


 二人の距離がある程度縮まった途端、川辺川の刀と水が四方山に牙をむく。


「くそっ、『三十パーセント・点』!」


 川辺川のがら空きの背中に向かって右目からビーム光線を撃ちだす。しかし、地面から湧き出した水に威力を絡め取られ川辺川の背中に届く前に消えて無くなった。返す刀で水滴が高速で飛ばされる。

 穴だらけで地に突っ伏すオレの残骸は頭に浮かび、思わず口を開く。

 『十パーセント・面』。


「~~~~っ!」


 高熱を帯びた先ほどより太いビーム砲が口から撃たれる。熱にやられ水は蒸発し、川辺川の背中へ一直線に進んでいく。

 直撃する直前、川辺川は左へ跳び、射線から逃げた。ビーム砲が今度は四方山を襲う。


「ふんっ!」


 器用に腕を動かし、四方山は無理矢理ビーム砲の軌道を変える。その動きは予想外だったのか、川辺川にいくらか威力の落ちたビーム砲が直撃した。視界の隅で川辺川の刀を握る右腕が吹っ飛ぶのを確認しながら一旦さがる。


「げほっげほ! 四方山、怪我は!?」

「助けに入るのが遅い!」


 互いに声を掛けあいながら合流する。


「…………」


 目の前には、無言でたたずむ川辺川が立っていた。消し飛ばされた部分を水で補いながら右腕を引っ付けている。

 彼の右腕からは一滴も血が出ていなかった。


「お前、変な体のつくり――」

「黙れ」

「…………っ」

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