二十二
さて、と。オレも着替えて仕事でもするかな。作業着はクローゼットにあると無言さんは言っていた。クローゼットがどんなものなのか考えたことが無かったので、今まで開くどころか探したことすらなかった。自分の部屋なのに。一週間もいるのに。
さて、着替える前にクローゼットを探すか。クローゼットって何だ、クローがゼットなのか? それ、多分ゼットクロー。クローゼットとか四国にいた時には無かったんだけどな……。衣装箪笥ならあったけど。
「ここか?」
ベッドの下を覗き込む。埃っぽいだけで、何もなかった。後で掃除しようと考えつつ、顔をあげる。ベッドに座り部屋を一通り眺めていると、千夜が出て行った半開きのドアから何やら見覚えのある頭が見えた。
二本の尻尾の様に束ねられた長い髪の片割れがドアの隙間からちらちらと見え隠れする。
「…………」
あ、衣装箪笥。もしかしたらこれに入ってるかもしれない。
それっぽいものが入ってた。とりあえずそれに着替えて、鏡の前に立つ。
「うーん……?」
比べてみよう。着替える前。黒い学生ズボンに白いワイシャツ。違う、これ寝間着違う。昨日までの普段着だ。
まあいい。着替えた後。濃い青緑の学生ズボンに、赤いというより紅いワイシャツ。血で染まったのだろうか?
ここで一つ思いつく。
「千夜のつなぎも信長のアレも、作業服なのか?」
「そーなのですよっ!」
派手な音を立てながらドアが開け放たれる。おい、壊れないか?
「それと、アレじゃなくて和服ですよ、お兄ちゃん!」
「そうか」
相変わらず人懐っこい笑みで話しかけてくる。普段は若干垂れ目で幼げな感じなのだが、笑うと更に幼く見える。怒ってもそれ程怖くなさそうだ。
「便利ですよー、色んな所に色んな物を隠せますから!」
「物騒だな」
転んだよな、この前。刺さらねーの?
「平気です!」
うわ、スゴイ不安になる言葉だ。
「あ、そうそう」
思い出したように言いながら、信長は腰の、えっと、たしか巾着とか言うものに手を伸ばす。
「お兄ちゃんたちは朝ご飯の時間ですよー!」
「ん、そんな時間か」
そこで。
唐突に眩暈が襲ってくる。
頭痛がし、吐き気がし、手は震え脚の力が無くなり、オレの身体は床に崩れ落ちる。最初に光が消え、次の瞬間音が途絶えた。自分が何を触っているのかわからなくなり、急速に呼吸が出来なくなってくる。どこが上で、どっちが右で、頭がどこにあるのか、自分が生きているのか、自分が誰なのか、
――――わからなくなる。
真っ白な空間。なんとなく見える視線の先にたたずむ、何か、不思議な何か。よくわからないモノが伝わってくる。不思議な動きをし、消える。
ふっ、と何かが途絶え、黒い世界に引きずりこまれた。
……どこだ。
どこだ、どこに。
どこにある。
オレはどこに――。
……………………。
ドスリ。
「……痛い」
「良かったですね、お兄ちゃんっ! 生きてますよっ!」
ぶっ倒れる、前よりも頭が冴えている感じだ。前髪が邪魔なので近々切ろうと心に決めた。
「ありがとな、信長」
「いえいえ、礼には及びません!」
礼の言葉をかけた時、信長はスゴイ嬉しそうな笑顔を見せた。なんかもう、輝いてた。
まあ、そんなことより、どうやらちゃんと刺し込めたようで安心した。
もう二度と、あんな暗闇を味わうことが無くなると考えると、安堵感からか、涙が零れそうになった。
もう少ししたら被は普通?の男の子になります。




