二十一
「んん、そろそろ出発の時間みたい」
「そうか」
それにしても話し方が変わると人の印象ってがらりと変わるのな。こいつなんでこんなに女の子なの?
「よいしょ、っと」
千夜は弾みをつけて起き上がる。えへへ、とこちらに向けて笑ってから、いつもの千夜に戻った。いつもの、無表情に。
「……なあ、千夜」
「なんだ、被」
千夜はドアノブに手を掛けたまま振り返る。
「誰も……殺さないでくれるか?」
小さな声で、ぽつりと呟く。千夜には聞こえただろうか。
「……優しいな、被は」
「そうか」
千夜はドアノブから手を放し、こちらへ向かって歩いてくる。ドキリと胸が高鳴った。千夜はベッドに座るオレの前まで歩いてくると、そのままオレを力一杯抱きしめながら再びベッドへ押し倒す。
「約束するよ、被」
「ありがとう」
しばらくオレ達は動こうとしなかった。
……千夜の胸って相変わらずまな板だよな。
「千夜、時間」
「……ふう、ずっとこうしていたかったのだがな」
千夜はオレを抱きしめるのをやめた。
そのかわりに。
オレの頬にキスをした。
「愛しているよ、被」
オレの返事を待たずに千夜は起き上がる。そして、ひらひらと手を振りながら部屋を出て行った。一度も振り返らずに。
「返事は帰ってきてから、か」
そういう事だろう。やれやれ、面倒なことになった。
「まったく……」
溜め息を吐いて、起き上がる。
オレは全然、そんなでもないんだけどな。
正直言っちゃうと。
オレは千夜のことは好きでもなければ嫌いでもないんだけどな。
自分に言い聞かせるように、オレは静かに呟いた。




