二十
こんこん、と二回ドアがノックされた。
「起きろ、被」
「起きてる」
「む……、それはすまなかった」
いつもより小一時間早く、千夜がオレの部屋のドアを開けた。いつもより小一時間早く、オレはベッドの脇のカーテンを開けた。いつもとは別に、濁ったねずみ色の革のつなぎを着た千夜が部屋に入ってくる。
「似合っているか?」
千夜は部屋の真ん中で、一度くるりと一回転しながら質問する。
「ジャージの方が良かった」
「そうか。しかし、無言殿の命令なのだ、許してくれ」
「そうか」
ショッキングピンクのジャージの方が千夜らしさを表していた気がする。いや、何を着ても似合ってしまうのは否定しないけど。千夜らしさ、というのは内面の話だ。……千夜ってそんなに頭の中がピンク色だったか?
ゾッとした。
「どうしたのだ? 顔が少し青いぞ?」
「いや……」
オレはベッドに腰掛けながら欠伸をする。千夜もそれにならい、オレの隣に腰掛ける。
千夜が自然な動作でオレの肩に頭を乗せてきた。
「もうすぐ出発するのでな。もう少しだけ、一緒に居させてくれ」
「……そう、だな」
千夜は身体を密着させるように近づき、頬をオレの肩に擦り付ける。ふわりと千夜の匂いがした。
くくっ、と千夜が笑う。
「どうした?」
「いや、この一週間で沢山の思い出が出来ただろう? 嬉しさのあまり、つい、な」
「オレも同じだ。凄く楽しかったし、嬉しかった」
「ふふ、被のおかげだぞ」
「……オレの台詞だよ」
ベッドに寝たきりで、意識もないんじゃ生きていないのも同然だ。そんな状態で、こんな気持ちには絶対なれはしないだろう。千夜には感謝してもしきれない。
こんなオレが千夜に感謝の気持ちを伝えようとしても、ちゃんと伝えられるかわからない。だから、たった一言。この一言にオレの気持ちを全て込めよう。
「なあ、千夜」
「なんだ、被」
「その……、なんだ……」
言おうとしても、変なところで照れが入ってしまう。言いたいことをすぱっと言える千夜や信長が羨ましい。
羨ましがってるだけじゃ、人間成長出来ないけどな。今、この時ぐらい、一人で頑張ってみるか。
心を決めて、一度深呼吸して心を落ち着かせる。よし、オレならいける。
「今までありがとな」
言ってから、ちょっと焦る。これでは、もう二度と会えないような気がしてならない。別れの言葉ではないか?
「あ、っと……。これからも、世話になる、な」
探り探り出した言葉に千夜は吹き出した。笑うことは無いだろう。
「被も変わったな。嬉しいぞ」
「うるせえ」
「――私からも、今までありがとう。この戦争が終わったら、一緒に日本を周ろうな」
普段は見せないような笑顔を見せながら千夜はオレに抱きついてきた。千夜の不意打ちに負け、そのままベッドに押し倒される。
こいつ、こんな顔出来たんだ……。
「ん、ああ……」
「さては照れてるな?」
千夜は楽しそうに指でうりうりとオレの頬をつつく。
「さてね」
馬鹿、それ以上だよ。
なんでこんなに可愛いんだよ、アホ。
やっぱり千夜は、ショッキングピンクのジャージが似合うと思う。九州から帰ってきたら髪を短く切ってもらおう。




