十八
「失礼します」
「ん、今日は大公も一緒か」
「ええ、被にどうしても、と頼まれたもので」
いや、頼んでない。どうしても、とは頼んでない。ただ、千夜の力が必要だと頼んだだけだぞ。
「うす。いくつか話したいことがあるんで、突然ですが、お邪魔させて――」
「いや、長ったらしい挨拶はいい」
「……そっすか」
慣れていないので、助かる。
無言さんに促されてオレと千夜は無言さんと向かい合う形でソファに座った。
「で、話とは?」
「無言さんの友人、彼女が死んだのはいつごろですか? 出来るだけ詳しくお願いします。これは、何か戦争に関わっているのかもしれない事実だと思うで」
「――――っ! ……待っていろ」
無言さんは立ち上がり、デスクへ向かう。デスクの脇に据え付けられた小さな引き出しから何かを取り出した。
戻ってきた無言さんはそれオレ達に丁寧に渡した。
「ペンダント……?」
しかも、女性ものの。
「あいつが二十歳の誕生日に俺が買ってやったものだ。裏にあいつの命日が彫ってある」
「む、おそらくこれの事だぞ」
千夜が示した部分には、小さく、『322/7/11/SAT』とだけ彫ってあった。
…………。
「……千夜」
「どうした、被」
「早苗さんが心臓発作で倒れたのは?」
「……帝国歴三百二十二年七月三日だ」
千夜は一瞬、不思議そうな顔でオレを見た。しかし、悟ったように真剣な顔つきになる
無言さんは相変わらず無表情だ。
「お前が『間違えて』オレの病室に入ってきたのは?」
「帝国歴三百二十二年七月十二日だ」
「小僧……!」
無言さんは眼を大きく見開き、緊張した様に冷や汗を掻いている。
「戦争が始まったのは、帝国歴で言うなら、何年ごろだ?」
「…………。おそらく、帝国歴三百二十五年ごろから本格的に地方同士が争い始めたな」
無言さんへペンダントを返す。無言さんはそれを震える手で受け取った。
「作為的なものを感じる、と言いたいわけか」
「そうです」
「確かにそうかも知れないな。あの時期には、過去最多の死亡者数をたたき出しておったぞ。平均して、一ヶ月に三万人が死んでいるな」
死に過ぎじゃね?
「うむ、やはり、七月十三日までの一か月間が特に著しいな。平均して一日に百余人、最もひどい時は五百人以上はこの日本で死んでいた」
「そうか」
「ああ、そういえばそうだったな。確かニュースもその話題で持ちきりだったな」
「うむ、突然ニュースキャスターが泡を吹いて倒れた時は日本の危機を感じたぞ」
「毒ガスか、はたまた細菌兵器か……。真っ先に外国からの攻撃を疑った記憶がある」
……二人の話題について行けない。
確かに、オレは千夜の言う、十三日の前日に目が覚めて、その後の一週間はベッドの上で安静に、次の半年間はリハビリと他の患者とのコミュニケーションと社会の一員になろうと必死だった。そのせいで社会の動きをあまり知れなかったという矛盾も生まれてしまったが、しかし教えてくれなかった千夜にも非があるだろう。
関心を持たなかったオレも悪いと思うのだが。
「ふむ……このことを話したのは初めてか?」
「……あ、はい、初めてです」
一瞬遅れたが、返事をする。
「多分、これが最初で最後だと思います」
「…………、そうなるといいな」
何故かにやりと無言さんは笑った。
怖気がした。
「嫌です」
「諦めろ、小僧」
「千夜、オレの言いたいことはわかるな?」
「心得た」
「そうか」
「…………、おい、今の何だったんだ?」
困ったような顔をした無言さんを残して、オレと千夜は部屋を後にした。




