十七
……ツマミって何処にあったっけ。上半身の何処かで多分心臓の近くだから……。あ、多分これだ。
オレは左肩のリンパ管が通っている辺りに親指ほどの鉄片を刺し込む。ピリピリとした感覚がゆっくりと全身に回る。
「準備はいいかー?」
瓦礫の向こうから矢掛さんの声が聞こえる。手を振っておいた。
「いや、わからーん。良いのかー?」
「この瓦礫って何処に運べばいいんですか?」
「あー、えーっとだなー、……何処だ?」
聞こえてる、聞こえてる。
「そこらへんで良いと思うぞ!」
「自信満々ですね」
頭の上にでも落としてしまおうか。なんて事を考えながら一トンを超える重量の瓦礫を抱え上げる。
「く……お……っ」
足にきた。ずりずりと摺り足で前進する。どうやら、矢掛さんの頭の上に落とすのは難しいらしい。いや、それどころじゃないけど。瓦礫を抱えているので前は見えない。思い切って首を捻じり、右方を確認すると矢掛さんがやけに軽そうな瓦礫をひょいひょいと運んでいた。
「…………」
無視を決め込み、方向転換。右手側に進む形で矢掛さんが瓦礫を捨てる場所まで向かうことにした。
見ると、千夜は明らかにオレの抱えている瓦礫よりも大きな瓦礫をひょいひょいと運んでいた。
「…………」
オレは何も見ていない、見ていないぞ。そう、無我の境地だ……。
日が暮れ始め、オレと千夜と矢掛さんの影が茜色の地面に細長く映し出され始めたころ。
「ふぃー、疲れた疲れた」
「矢掛さん、楽そうでしたもんね」
ブチリと肩の鉄片を引き抜き、瓦礫の山の中へ投げ捨てる。大きく伸びると、パキパキと体中から音がした。途端に、疲れが体を襲う。
「疲れた……」
「ふむ、一番働いたのは私なのだが……」
「そうか」
風呂に入って、夕食はそれからだ。汗で体中がベタベタする。腰に巻いたタオルをほどき、それで汗をひとしきり拭う。それを見計らったかのように矢掛さんがやってきた。
「帰るか」
「そうですね」
「いやー、それにしても凄かったな。四国の人間って皆ああなのか?」
「いや、オレみたいに普通の外見のやつもいますし、普通でない外見のやつもいますよ」
中身についてはあえて言わない。
矢掛さんは眼をキラキラとさせながらこちらを見る。
「へー、普通じゃないやつ? サイボーグ人間?」
「それはオレ以外皆一目でわかりますよ」
「おお、顔の半分が機械だったり、腕が機関銃になったりするのか?」
「まあ、そんな感じです」
「そうか……。被、俺がうっかり腕とか頭とか吹っ飛ばされたらすぐさま四国の病院に担ぎ込んでくれ」
初めて矢掛さんがオレを名前で呼んだ。いや、名字で呼ばれた覚えすらないのだが。しかし、そんなことより矢掛さんの眼は本気だ。本気でこんなことを頼んでいる。
その熱意にオレは息を呑んだ。
「えーっと、頭はともかく、致命傷じゃなければいいですよ……」
「本当か! ははっ、ありがとな!」
とても嬉しそうな顔をして、矢掛さんは走りだした。
「ほらー、追い付けなかったらお前の分までキャベツ食べてやるからなー!」
「やめて下さい!」
おそらく、オレが全速力で走る今の状況が千夜に見られていたら、問答無用で取り押さえられていただろう。「無理はするな」、と。
過保護過ぎる……。




