十六
オレは今、千夜が瓦礫を吹っ飛ばしている様子を丁度良い大きさのコンクリート塊に座りながら、ただぼーっと眺めている。
あ、一瞬こっち見た。話しかけて欲しそうだなー。……ん、雀。こっち来るなよー、うわ、こっち来た。しっし、あっち行け。何? 餌? ないから。だから近づくなって、いや、集まってくるなよ。何なの? 家族? それとも友達? 下りろ。肩から下りろ。いや、頭は流石に拙い。拙いから。
……あ、もういい、もういい。もう、好きにしてください。
「なーにしてんだよ」
その一声でオレの肩や頭にとまっていた雀たちが一斉に飛び立った。
嫌悪感丸出しで振り向くと、竹ぼうきを一本肩に担いだ白髪眼帯で真紅の燕尾服を着た矢掛さんが立っていた。
「隣、いいか?」
「いいですよ」
すすす、となめらかな動きで一人分のスペースを作る。
「よっ、と」
肩に担いでいた竹ぼうきを地面に置き、矢掛さんはオレが作ったスペースに腰掛けた。そして、大きく伸びをした。
「いやー、こうして朝早くに起きるっていうのも、いいもんだね」
「そっすか」
「うん、少なくとも僕は君たちを歓迎してるよ。あ、信長ちゃんほどじゃないけどね。朝の運動なんてしばらくしてなかったから体がなまっちゃって……」
「そっすか」
朝の運動にしてはハード過ぎないだろうか。半分機械のオレや人外に近い人間の千夜は平気だったが、昨日一緒に麦畑を作った十数人の人達は一日筋肉痛に泣き、水も喉を通らないという状況下に立たされていた。
それを見たにも関わらず来たのだから、矢掛さんは相当の変人だろう。
「さて、僕たちも働くかな」
「そっすね」
見るからにやる気の無い二人組だった。
オレと矢掛さんは朝食までの二時間、話しながら周辺の瓦礫などを綺麗に掃除した。うっかり敵に攻められてしまったら、すぐさまこのビルが標的にされてしまうぐらいの出来栄えだった。
……いや、意味無い。むしろ無駄だよ。なんで本拠地の周りを整備してしまったのだろうか? 発案者はオレなのだが。いやしかし、それを認可した無言さんにも非はあると思う。あと千夜。
まあいい。
一度戻るとするか。
「いやー、腹減った腹減った。飯にするか」
「矢掛さん、あんまし働いてないっすよね」
「うぐっ、いや、腹が減ってはなんとやらってよく言うだろ?」
「そっすね」
欠伸交じりにそう返すと、背後から頭を突かれた。頭をさすりながら振り返ると、今度は千夜が肩を叩いてきた。
「ふむ、被もこれと言ったような働きはしていないぞ」
オレの横に並びながら千夜は言う。
「今日はお前が一番頑張ったな」
「む……」
千夜は照れたように顔をそむける。頬が薄い桃色に染まっていた。
「いや、今日はまだ始まったばかりだぞ、被。朝食を食べたら働かなかった分、さらに頑張ってもらうぞ」
「……そうだな」
褒め落とし、失敗。オレと千夜は昨日の朝と全く同じやり取りを繰り返しながら食堂の席へと着いた。




