十五
「ふわぁ……。よく寝た」
窓の外を見ると、ちょうど夜明けのようだった。
それにしても、さっきの夢はなんだったのだろうか。キャベツを食べていただけなのに、何故かトマトのお化けに追われて……。そういえば最近トマトを食べていなかったのかもしれない。
「時間は十分あるな」
いつかトマトを食べようと心に決め、脱衣所へ向かう。汗で濡れた寝間着と下着を洗濯かごに放り込み、洗面所の隅に新しい着替えを置いておく。
浴室は簡素な造りとなっており、冷水しか出ないシャワーと膝を抱えて入るぐらいの幅しかない湯船があるだけの、なんともさびしい空間だった。しかし、こうして体を洗えるだけでもありがたい。
「…………。ふう、気持ちいい」
オレは放心状態のまま、しばらくシャワーを浴びながら突っ立っていた。
控えめな音でオレの部屋の扉がノックされる音がした事によって、オレの意識は戻った。シャワーを止め、浴室から出る。着替えの横に置いてあったバスタオルで全身の水分を隈なく拭き取る。
こんこん、と、もう一度扉をノックする音が聞こえた。
「今着替えてるんで」
「失礼するぞ」
「そうか」
前言撤回。控えめではなかったようだ。
ワイシャツのボタンを閉め、着替えが終わったので脱衣所から出る。千夜はご丁寧に、扉の前で待っていてくれた。
「よう」
「うむ、では行くぞ」
「そうだな」
千夜は相変わらず、ショッキングピンクのジャージで上下を固めていた。いつも通り黒い髪をまとめずにおろしていた。
「今日も畑仕事か?」
「いや、昨日被が働いてくれたおかげで、今日は周辺の瓦礫の除去だ」
「そうか」
頑張らなければよかった。あからさまな力仕事じゃねえかよ。
しかし、キャベツに釣られたオレもオレだろう。対価に見合わなくても、キャベツ一玉あれば満足なんて、自分でも馬鹿らしく思える。
オレ達が寝泊まりしている廃ビルのフロントに出た。朝早いので、誰とも会っていない。割れたガラスの扉から外へ出る。相変わらず、瓦礫が散乱していた。ちなみに、畑、こと麦畑は何故か山を背に作られている。ここから出雲大社と逆方向に進めば山なので、ちょうどいいから、と近くの堀川とかいう川から水を無理矢理ひいて麦畑を作ったのだ。勿論水をひいたのは千夜だ。
近く、と言っても、此処から麦畑までの距離はここから出雲大社への距離の数倍はある。
こつ、と靴のつま先に拳大のコンクリート塊が当たる。オレはそれを拾い上げ、まじまじと見つめた。
「確か食べられないんだよな……」
「当たり前だ。被は何を言っておるのだ?」
「独り言だ」
「悪い癖だ、治したまえ」
「そうだな」
そうだ、千夜は障害にもなっているんだった。




