十四
気が遠くなるほど青い空。気まぐれに浮かぶ雲。ぽかぽかとした春の陽気に包まれながら、オレと千夜は花畑の中に作られた道を歩く。向こうで信長が楽しそうに花畑で踊っていた。あんなに回っていて、平気なのだろうか。ふと、横を見ると千夜が嬉しいような、楽しいような表情でこちらをみて微笑んでいた。
あ、こいつ、こんな顔出来たんだ。
「お兄ちゃーん! こっちこっちー!」
前方に見える曲がり角で信長が手を振っている。器用に回転しながら右の道を選択した。ずんずんと先に進んで行ってしまう。
「ふむ、こちらへ行くぞ、被」
「そうか」
しかし、件の曲がり角へ辿り着いた千夜は少し考えてから左の道を選択した。
「ええーっ!? ちょ、ちょっと待ってー!」
「どうした、被。私たちは急いでいるのだぞ」
「そうか」
「そうか、じゃないですよ! お兄ちゃーん! 待ってー!」
「何を立ち止まっておるのだ被。これは一刻を争う事態なのだぞ」
「そうだな」
キャベツ畑は丘を越えた先だ。立ち止まってなんかいられない。
「いや、キャベツ畑なんてありませんからーっ!?」
わざわざ曲がり角まで戻ってきた信長がオレにタックルしながら叫んだ。オレ達はそのままごろごろと転がりながら丘を越え、ついでに転がり落ちていく。
「――ほらっ!」
「ぐえ、――え」
信長に圧し掛かられたまま無抵抗に髪を掴まれ、無理矢理頭をあげさせられた。そして見てしまった。
また同じような、花畑ばかりの景色を。
「…………。…………、で、……す――っ!」
急に信長の言う言葉が聞き取れなくなった。それに続いて、世界はオレを残してぐちゃぐちゃと混ざり合っていく。
ねっとりと黒い空、ぬるぬるとした灰色の地面、心の臓まで突き刺さるような肌寒さが世界を包み込む。
既視感、故に違和感。
「…………、ん?」
立ち上がりながら、ふと気が付いた。
これは夢なのだと。
オレは何を考えるでもなく、ただなんとなく歩き出した。
気が付くと黒一色の世界に変わっていた。浮遊感はないので、ちゃんとオレは立っているのだろう。試しに地面を踏めしめると、ジャリ、という無機質な音が聞こえてきた。
「ニ……のつ………ギ……」
「なんだ」
「…………コ……ウむ……ル」
「…………」
何処からか、オレの名を呼ぶ声が聞こえた。はてな、と首を傾げる。
そこで思い出した。
そういえば無言さんが食堂でオレと千夜の名前を大声で叫んでいたではないか。実際のところは名字だけなのだが、千夜はいつもオレを下の名前で呼んでいるのでそこから推測できるだろう。
「や、ここ夢だから。何言っちゃってんの?」
独りツッコミ。
…………? あれ? おかしくないか? いや疑問形じゃない、これ絶対おかしい。誰だよ、いまのツッコミ。
オレだよ。
「駄目だ! オレ、半分壊れてる! むしろ全壊かも!?」
自我が保てない! 覚めろ夢! 起きろオレ!
オレはがばっと勢いよく飛び起きた。
無言さんから受け取った灰色で無地の寝間着が、脂汗でぐっしょりと濡れていた。履いていたパンツも漏らしたかのようにびしょびしょである。
「……うぉぅ」
どんな夢だったか、すっかり忘れた。
それにしても、被って本当に無愛想ですよね。
外見中途半端に気持ち悪いくせに口数少ないって、敬遠されるタイプですよね。なんでこんな子を主人公にしてしまったのだろうか……。




