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武技憂気日本大戦  作者: 囲井 鯀
―参―
109/111

四十二

 結局、灰色の集団は謎の鉱石で出来たドームの中に閉じ込めた。

 地面を掘って出られないように、地面の下も塞いだので、球体の中に閉じ込めた、と言うべきかどうなのか。

 空気穴は空けてあると思うので、窒息死することは無いだろう。

 私は一度頷き、辺りを見渡す。


「悪の親玉は高い建物に居たがるって参幅霧が言ってた……」


 正確には、参幅霧の記憶がそう告げていた、だが。

 私は適当に頭を振ってから、五十メートルの壁が見える程度の高度まで上昇し、再び辺りを見渡す。


 どうも、自分の隣にある建物が一番高いらしい。


「なんか、つまらないなー」


 三冬なら、ここで亜人の方の耳を触りながら唸っている所だろう。参幅霧は私と同じように不満を口に出すかもしれない。

 だが、今はそんなことはどうでもいい。

 私は高度を下げ、広めのベランダに飛び降りる。


「おおー……」


 部屋に入ると、その大きさに開いた口がしばらく塞がらなかった。

 外からはわからないほど、大きかった。

 いや、近すぎてわからなかった、か。窓から差し込む月明かりがこの部屋の大きさをわかりやすいぐらい物語っていた。

 ここから向こうまでの、端から端までの距離がありすぎる。

 部屋の中央に光が集まらないせいで、迂闊に中へ入れない。……というわけではないが、ほんの少しだけ躊躇われた、のかな?


「わーっ!」


 大きな声を出してみる。声は音となり、広い部屋の中で反射しながら、私の元に帰ってきた。

 私は木霊が消えるまでしばらく待つ。


「…………」


 フロア内に、私以外に人が四人いる。

 四人が四人とも、部屋の中央に集まっているようだ。

 私は何度か殺気を向けてみて、あちらから攻撃が来ないのを確認する。


 確認して、私がついさっき降り立ったベランダへと戻ろうとした矢先、背後から何かが高速で飛んでくる音がした。

 私は振り返りながら右手で掴み取る。


「……氷?」


 私は人の頭ほどある氷を水に創り変えながら、氷が飛んで来た方向に目をやる。そこから、殺気がこちらに向けられていた。

 馬鹿にしたような女の声がした。


「へえ、参って氷、知ってんだ」

「む、馬鹿にしないでよ!」


 私は叫び、声のした方を指差す。

 そして、息つく間もなく突っ込んだ。


「んなっ!?」

「ちょっ!」

「きゃっ!?」


 私が窓際から部屋の中央にまで行くのに一秒とかからなかったが、その間に三人ほどその場から飛び退いたようだった。

 残った一人は、体全体を白く輝かせながら、迎撃の体勢に入っていた。


「はっ!」


 私は左頬に『西』の刺青をしている長髪白コートの男の拳を紙一重で避け、肩幅に開いたその両脚の間、男の股下をぬるりと潜って後ろに回り込む。


「隙だらけだよ!」


 適当に、男の背中を肘で殴り飛ばす。

 若干振り下ろし気味に決まった肘により、白い輝きを失った男は床を抉りながら滑り、しまいには床に穴を開けて下の階に落ちていった。

 私は男が不運のあまり命を落としてしまっていないことを祈りながら、首に刺さるようなちりちりとした殺気を放つ元凶に目を向ける。

 そこには、青く燃える様な闘気を放つ短髪の少年がいた。左頬には『東』の刺青をしている。

 少年は怒気を孕んだ殺気をこちらに向けている。


「お前、白虎を!」

「正当防衛と過剰防衛。この二つって、似すぎて困るから、全部過剰防衛扱いの正当防衛でいいと思うんだ」

「……はあ?」


 わけがわからない、と言外に語る少年。

 私は彼を視界からことなく、背後に迫る氷を目に見えない塵に創り変える。

 私は振り返ることなく、氷を飛ばす女に言った。


「氷飛ばす事しかできないんだ?」

「な……っ! 馬鹿にして!」


 私の挑発に乗った女は一直線にこちらへ向かってくるようだった。


「玄武、寄せ! それは挑――!」


 私は少年の顔面を両脚で蹴り飛ばしながら、ベクトルを創り出して玄武と呼ばれた女に向かって山なりに飛んでいく。


「挑発だってことぐらい、わかってるわよ!」


 少年に向かって叫ぶ玄武。だが、少年が私に蹴り飛ばされたことを理解しての台詞なのだろうか。


 結局、私すらも見えなくなっていた玄武は私の蹴りで壁に埋まった。


「てめぇ、玄武まで……」

「ごめんね、急に顔、蹴り飛ばしちゃって。丁度いいところに丁度良い顔があったから、つい、ね」

「は!? はあ……?」


 いきなり敵に謝られたことに少年は戸惑っているようで、闘気や殺気が失せた。

 私はその隙を縫って、彼の背後に回る。


「私、急いでるから」

「なっ! ま、待て!」


 だが、そう叫ぶ彼から一切の殺気も闘気も感じられないのは、恐怖のせいだろうか。自ら望んで殴られたいと考えているわけではないとわかる。

 あの二人は良い脅しになったな、と密かに考えつつ、彼が無意識のうちに守っていたであろう上り階段へと向かう。


 だが、私の予想は以外にも、ずっと隅で怯えていた少女によって裏切られた。


「駄目!」

「え?」


 一瞬にして、広い室内が赤に染まった。

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