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武技憂気日本大戦  作者: 囲井 鯀
―参―
107/111

四十

 来た道を戻っていくと、当たり前のように座っている黒い少年を見つけた。

 私が近づくと、少年もこちらに気付いたようで、手をひょいと挙げてきた。


『やあ、帰ってきたのかい』

「うん」


 私は腰の十手を抜き、十手の先で壁をなぞる。

 ……ここで良いだろう。


「えーっと、『創造式八大地獄・等活ノ編』」


 この白い回廊は『世界』の歴史で形作られたもので、その長さは無限らしい。

 無数に存在する時計は国を表しているようで、動いている時計と止まっている時計が存在する。

 日本帝国は近畿地方を中心に悪い気が広がり、それが戦乱の世になることを促したそうだ。

 歴史的には、戦争が終わる頃、近畿の地で大量の命が消えたという。

 それによって、日本帝国は立ち直るか、それともこの『世界』が消えるか。


 横を見ると、回廊が二股にわかれており、一つは行き止まりになっていた。

 行き止まりの壁には、黒い少年が背中を預けていた。


「……その壁は何?」

『もし、君が選択を間違えば、この壁が残り続けて、分かれ道は消えることになるよ』

「……世界が終わるってこと?」

『そうともいうね』


 世界が終わる。

 私は世界を救いたいのか、どうなのか。

 私はどうしたらいいのか。

 自問自答し、心を決める。


 人が多く死ぬ、と言っても、日本に残る命はかつてのように多くはない。散発的だが、騒乱も起きて命が失われていくことも多々ある。

 しかし、ある時それが無くなるのも確か。

 私は歴史的に、それが無くなる最後の時期を探しだし、その真っただ中にある世界へ戻ることにした。


 そこで、戻る前に聞かなければならないことがあるのを思い出した。

 私は黒い少年に再び視線を向ける。


「ねえ、『零』ってなに?」


 参幅霧が結局聞き逃した、『零』についての説明、だったか。

 黒い少年は私の質問に対し、少し首を傾げた。


『「零」は世界を滅ぼすんだよ』

「なんで? どうして? どうやって?」

『君は幼児なのかい』


 無表情の悪口は正直辛かった。

 と言うか、悪口って本人の前で言って良いものだろうか。

 ……それは陰口か。


『「零」は一つの世界として定義されているんだよ』

「へー」

『…………。一世界に同一の超能力は一つしか存在しないというルールがあるのは知ってるよね』

「まあ……」


 知識としては頭の中に入っている。……と思う。

 どこかで聞いたような憶えがあるだけなので、多分貰った記憶のどちらかが聞いたことがあるのだろう。


『これから君の行こうとしている世界を仮に第一世界とすると、「零」は零世界とでも仮定しようか』

「わかりやすくていいね」

『そうかもね。第一世界は自然と生まれた世界だね。ビックバンで宇宙が生まれたのと同じくらい自然だ』


 淡々と少年は言ってのける。

 だが、そんな未だに不自然か自然かもわからない現象を自然と言ってしまうことに、私は少なからず驚いていた。それともただの知識不足だろうか。


『だけど、零世界は人為的に創られた世界なんだよ。芸術家が一粒の水滴に大きな世界を見出すぐらい、不自然な世界の生まれ方なんだ』


 全く凄そうな話し方をしないが、多分凄い話なのだろう。

 そもそもたとえがよくわからないのは私のせいだろうし。


『流石にこれ以上は面倒だから、色々省いてわかりやすいように結論を言うと、零世界が完成すれば、第一世界は零世界に飲みこまれて、消えるんだね』

「……完成してないの?」

『そう、君がここに留まり続ければ、完成はしない。第一世界も大きく傷付くだけで済む。……だけど、君がここに留まり続ければ、今、第一世界で生きている生命は「零」以外、全て、滅ぶと考えておいた方が良いよ』

「……だったら、行かなきゃ」


 私のせいで多くの罪のない命が死ぬのは嫌だ。

 ただの自己満足だと言われるかもしれないが、ただの自己満足で多くの命を救うことが出来るのなら、死んでしまっても構わない。ああいや、それだけの覚悟がある、と言うだけで、本気で死んでしまってもいいと思っているわけではないが。

 黒い少年は頭を振り、無感情な調子で語り始めた。


『君が「零」と接触してしまえば、「零」が完成に近づくことはわかりきったことだよ。最悪、君は「零」と接触した瞬間、殺されてしまうかもしれないんだよ。あれほどの異物が世界に留まり続けられたこと自体が奇跡なんだよ。実際、日本帝国と言う国はほぼ壊滅状態だし、有り得ない状態でバランスを保ちながら、「零」の隠れ家とされているからね。いつ、保たれていた均衡が破られてもおかしくないんだ。……君が第一世界に戻るという事は、同時に世界を危険に晒す行為と同じ事なんだよ』


 黒い少年は行き止まりの壁に背を預けるのを止め、一歩前に出た。

 私は右手の十手を握り直す。


『それでも、行くのかい』

「うん。行く」

『君に世界が救えるのかい』

「私だけじゃ無理だけど、私を助けてくれる人がいるって、そう信じてるから」

『助けてくれる人がいなかったらどうするんだい』

「いるよ。だって、私は『参』、……ううん」


 私は言葉を区切って、再び壁の方へ向き直る。


「私は、『参之段朱音』だから。二人から貰った、大切な名前があるから」


 だから、たとえ一人でも平気だ。


『ふうん……』

「じゃあ、行くね」

『まあ精々、怪我には気を付けるといいよ』


 それだけ言うと、黒い少年は再び行き止まりの壁に背を預け、口を開こうとはしなかった。


 私はそれを確認し、右手の十手を頭上に掲げる。


「『創造式地獄』、行きます」

 八大地獄についてはウィキペディアを参考にしました。

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