三十九
「俺からやるもんはない」
「ないの!?」
「なくても友達になれるだろ? と言うか、物貰って友達になるって法則自体おかしいだろ。友達料金前払い、ってか?」
何を言っているかよくわからないが、参幅霧はとにかく不機嫌だった。
全身で不満を表す三冬を退け、参幅霧はこちらにやってくる。
「俺とお前はもう友達だ。いいな?」
「うん、友達」
参幅霧のことは苦手ではないので、素直に頷けた。不思議と混乱もない。
「だが、友達として、お前の非常識っぷりはどうも気に食わん」
「ぅえ?」
いきなり私のナニカを否定された。
そんなこと言うなよー、と三冬が野次を飛ばすと、参幅霧はこのままじゃこいつが可哀相だろ、と三冬に言い返す。
「……私、可哀相?」
「ん? ……ああ、超可哀相。俺達に似て顔は良いのに中身が未熟すぎて超可哀相」
「…………」
凄い投げやりっぷりに何も言えなくなってしまって、どうしていいかもよくわからなくなってしまう。
私が首を傾げていると、参幅霧が私の額に右手の人差し指の腹を当ててきた。
その温もりに、どきりとする。
「俺の記憶をお前に見せる。そしたら、お前も何かわかるんじゃないか?」
「…………」
目を瞬かせて参幅霧を見る。
それをなんと受け取ったのか、少しだけ私の額に当たる指に力が込められた。
次の瞬間、記憶の渦が私の頭の中に押し寄せてきた。
鮮やかな色の泡や、薄らぼけた色の泡。まるで記憶の鮮明さを表しているようだった。モザイクのような記憶が私の頭に溢れかえる。
だが、すぐに参幅霧によって整理されたのがわかった。
「ほぁああ……」
「変な声だすなよ……。幼児か」
「ご、ごめん……なさい」
私が謝ると、参幅霧はぷいと横を向いた。
嫌われてしまったのかと、悲しくなる。
だが、違ったようだった。
参幅霧は手招きで三冬を呼ぶ。
「ほら、三冬。お前もやれ」
「やたっ!」
三冬は嬉しそうに手を叩くと、こちらへやってきた。
鼓動が速くなるのがわかる。
「ちょっとごめんねー」
「ん……」
三冬も参幅霧と同じように私の額に指を置く。
そして、息つく暇もなく記憶が渦となって接触面からあふれ出てきた。
驚きのあまり、小さく悲鳴を上げてしまう。
「ちゃんと記憶の整理もしろよ」
「りょうかーい」
参幅霧の時と違って、作業が乱暴だった。
だが、私はそのことには特に文句を言わずに、されるがままに頭の中を弄らせた。
「……へー、同じ参同士だと、こんなこともできるんだ」
「集中しろ、集中」
「はーい」
しばらくして、三冬による記憶の整理が終わった。
一度に沢山の情報が入ってきたので、頭がクラクラする。
私が小さく呻きながら頭を押さえていると、見かねた参幅霧が私の頭を軽く叩いた。
「おら」
「いっ!?」
軽い音からは全く想像でいないほどの頭痛に襲われた。
身体がその場に崩れ落ちる。
「ちょっ!? 何やってんの凧!」
「荒療治」
「あ、なんだよかった」
全然よくない。
死にそうなほど頭が痛い。
いっそ死んでしまった方が楽になるのではないか?
「……………………」
だが、心の底から死にたいと思う程ではなかった。
あの時よりも、ずっとずうっと苦しくて辛いのに、どこか嬉しい自分がいた。
何故だろうと考える。
すると、頭痛が酷くなり、思わず苦笑いを浮かべてしまった。
ほんの数分前までは、こんな苦しみなんて知らなかった。
数十分前は、理由もない、ありもしない苦しみにただただ逃げようとしていた。
今の私は、生きている。
生きているという事を実感できている。
痛みでぼうっとする頭でも、それぐらいはすぐにわかった。
そして、気付く。
痛いって、生きてるってことなんだ。
「……うふふ」
「あ? どうした、痛みで頭がおかしくなったか?」
私が笑みを零すと、不思議そうに参幅霧が言った。
すると、三冬が目を剥いて参幅霧に食ってかかる。
「やっぱ痛いんじゃん! なにやってんの!」
「おう、荒療治は痛いんだよ」
「あ、なーんだ」
「やれやれ……」
参幅霧が頭を振り、こちらを向いた。
大丈夫か、と視線で問いかけてくる。
三冬は声に出して私の体調を聞いてきた。
「うん。痛いけど、平気」
私は少し強がって立ち上がる。
「……っとと?」
くらりと立ちくらみがした。
じゅくりと痛みが増し、頭から血の気が引いていく。
一瞬視界が白くなり、気が付けば、あの回廊に立っていた。
「…………あれ?」
あたりを見渡しても、先程の広間はなく、三冬も参幅霧もいない。
さっきのは、夢だったのだろうか。
そう思うと、少し寂しくなった。
だが、三冬の香りがして、どきりとする。
「三冬っ?」
振り向いても、誰もいない。
だが、私の腰にある一房の髪の束を見つけた。
きゅん、と胸が締め付けられる。
「三冬……」
そっと、三冬の髪を撫でる。
ふわりと三冬の香りが漂ってきた。
ああ、大好きな三冬の匂い……。




