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武技憂気日本大戦  作者: 囲井 鯀
―参―
106/111

三十九

「俺からやるもんはない」

「ないの!?」

「なくても友達になれるだろ? と言うか、物貰って友達になるって法則自体おかしいだろ。友達料金前払い、ってか?」


 何を言っているかよくわからないが、参幅霧はとにかく不機嫌だった。

 全身で不満を表す三冬を退け、参幅霧はこちらにやってくる。


「俺とお前はもう友達だ。いいな?」

「うん、友達」


 参幅霧のことは苦手ではないので、素直に頷けた。不思議と混乱もない。


「だが、友達として、お前の非常識っぷりはどうも気に食わん」

「ぅえ?」


 いきなり私のナニカを否定された。

 そんなこと言うなよー、と三冬が野次を飛ばすと、参幅霧はこのままじゃこいつが可哀相だろ、と三冬に言い返す。


「……私、可哀相?」

「ん? ……ああ、超可哀相。俺達に似て顔は良いのに中身が未熟すぎて超可哀相」

「…………」


 凄い投げやりっぷりに何も言えなくなってしまって、どうしていいかもよくわからなくなってしまう。

 私が首を傾げていると、参幅霧が私の額に右手の人差し指の腹を当ててきた。

 その温もりに、どきりとする。


「俺の記憶をお前に見せる。そしたら、お前も何かわかるんじゃないか?」

「…………」


 目を瞬かせて参幅霧を見る。

 それをなんと受け取ったのか、少しだけ私の額に当たる指に力が込められた。


 次の瞬間、記憶の渦が私の頭の中に押し寄せてきた。

 鮮やかな色の泡や、薄らぼけた色の泡。まるで記憶の鮮明さを表しているようだった。モザイクのような記憶が私の頭に溢れかえる。

 だが、すぐに参幅霧によって整理されたのがわかった。


「ほぁああ……」

「変な声だすなよ……。幼児か」

「ご、ごめん……なさい」


 私が謝ると、参幅霧はぷいと横を向いた。

 嫌われてしまったのかと、悲しくなる。

 だが、違ったようだった。

 参幅霧は手招きで三冬を呼ぶ。


「ほら、三冬。お前もやれ」

「やたっ!」


 三冬は嬉しそうに手を叩くと、こちらへやってきた。

 鼓動が速くなるのがわかる。


「ちょっとごめんねー」

「ん……」


 三冬も参幅霧と同じように私の額に指を置く。

 そして、息つく暇もなく記憶が渦となって接触面からあふれ出てきた。

 驚きのあまり、小さく悲鳴を上げてしまう。


「ちゃんと記憶の整理もしろよ」

「りょうかーい」


 参幅霧の時と違って、作業が乱暴だった。

 だが、私はそのことには特に文句を言わずに、されるがままに頭の中を弄らせた。


「……へー、同じ参同士だと、こんなこともできるんだ」

「集中しろ、集中」

「はーい」


 しばらくして、三冬による記憶の整理が終わった。

 一度に沢山の情報が入ってきたので、頭がクラクラする。

 私が小さく呻きながら頭を押さえていると、見かねた参幅霧が私の頭を軽く叩いた。


「おら」

「いっ!?」


 軽い音からは全く想像でいないほどの頭痛に襲われた。

 身体がその場に崩れ落ちる。


「ちょっ!? 何やってんの凧!」

「荒療治」

「あ、なんだよかった」


 全然よくない。

 死にそうなほど頭が痛い。

 いっそ死んでしまった方が楽になるのではないか?


「……………………」


 だが、心の底から死にたいと思う程ではなかった。

 あの時よりも、ずっとずうっと苦しくて辛いのに、どこか嬉しい自分がいた。

 何故だろうと考える。

 すると、頭痛が酷くなり、思わず苦笑いを浮かべてしまった。


 ほんの数分前までは、こんな苦しみなんて知らなかった。

 数十分前は、理由もない、ありもしない苦しみにただただ逃げようとしていた。


 今の私は、生きている。

 生きているという事を実感できている。

 痛みでぼうっとする頭でも、それぐらいはすぐにわかった。

 そして、気付く。


 痛いって、生きてるってことなんだ。


「……うふふ」

「あ? どうした、痛みで頭がおかしくなったか?」


 私が笑みを零すと、不思議そうに参幅霧が言った。

 すると、三冬が目を剥いて参幅霧に食ってかかる。


「やっぱ痛いんじゃん! なにやってんの!」

「おう、荒療治は痛いんだよ」

「あ、なーんだ」

「やれやれ……」


 参幅霧が頭を振り、こちらを向いた。

 大丈夫か、と視線で問いかけてくる。

 三冬は声に出して私の体調を聞いてきた。


「うん。痛いけど、平気」


 私は少し強がって立ち上がる。


「……っとと?」


 くらりと立ちくらみがした。

 じゅくりと痛みが増し、頭から血の気が引いていく。

 一瞬視界が白くなり、気が付けば、あの回廊に立っていた。


「…………あれ?」


 あたりを見渡しても、先程の広間はなく、三冬も参幅霧もいない。

 さっきのは、夢だったのだろうか。

 そう思うと、少し寂しくなった。

 だが、三冬の香りがして、どきりとする。


「三冬っ?」


 振り向いても、誰もいない。

 だが、私の腰にある一房の髪の束を見つけた。

 きゅん、と胸が締め付けられる。


「三冬……」


 そっと、三冬の髪を撫でる。

 ふわりと三冬の香りが漂ってきた。


 ああ、大好きな三冬の匂い……。

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