表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武技憂気日本大戦  作者: 囲井 鯀
―参―
104/111

三十七

『お前の使命は黒い少年を殺し、彼の持つ本を奪い、持ち帰ることだ』


 誰かが言ったこの言葉。

 自分の名前すら思い出せないのに、この言葉だけは鮮明に脳髄に焼き付いているように感じられる。


「殺したじゃない。奪ったじゃない……」


 私は立ち止まり、右手を握り閉める。

 手を開くと、手の平にうっすらと血が滲んでいた。

 全然痛くもないのに、涙が出てきた。

 私は涙を拭い、歩き始める。


「私は、黒い少年を殺した。殺して、本もちゃんと奪ったじゃない」


 なのに、黒い少年は、頭もないのに『僕を殺すことはできない』と言っていた。

 しばらく前まであやふやだった記憶がまた、蘇る。


『お前は…………だ』


 せめて、名前を憶えていてほしかった。

 私の存在は、黒い少年を殺す事のみのために存在しているようで、ただそのためだけに生きているくせにそれすらも出来ないようで、ひたすら惨めになってくる。


「はあ……」


 もう、死んでしまいたい。

 名も無い人間など、生きていないに等しいのだ。

 ここがどこかもわからないし、ひたすら白く、何処までも続く回廊は何処か不気味でもあった。

 頭がおかしくなりそうだ。


「…………」


 いつの間にか立ち止まっていた。

 私は何と無しに左手の十手を見つめる。


「…………」


 ああ、死んでしまいたい。





 ブチリという音が聞こえた。

 次の瞬間、壁を叩く音が室内(・・)に響き渡る。


「誰がタコ助だオラァ!」

「うひゃあ! すいません!」


 私は自分の首筋に十手の先を突き立てたまま、目だけで声のする方を見ると、狐型の亜人の少女と赤毛の長身の青年が殴り合っていた。


「てめえ、悪口だってわかってて言っただろ、ああ!?」

「だって凧がどこにもいなかったんだよ!」

「知るかアホ!」

「取りこまれたのはどっちだよう!」

「がふぅ!」


 見事に決まった斜め下からの右ストレート。青年が天井に突き刺さる。


「…………」


 私は騒ぎが収まったのを確認し、両手で十手を握り直し、息を吐く。

 そして、そのまま首を貫いてしまおうとした刹那。


「わー!」

「――――ぅ!?」


 少女の悲鳴と共に右から肩を殴り飛ばされ、大した悲鳴も上げられずに私も青年の仲間入りを果たした。


「あの凶暴女……」

「…………けほっ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ