2 クラスメート
やってきたのは男性教師らしい人物だ。僕は言った。
「はい。天職が剣士のソクガが、木剣を持って非戦闘職の僕にいきなり襲い掛かってきたんです」
「な――てめぇっ!」
ソクガがいきり立つ。が、傍にいたシェリルが言葉を続けた。
「間違いありません、先生! こっちは何もしてません!」
男性教師は訝るような目で僕らを見ると、口を開いた。
「それで――何故、倒れてるのが剣士の方なんだね?」
「あ、僕は木剣をなんとかかわして、鞄で打ったんです」
「……剣士の剣をかわす? そんなことできるのかね?」
教師は疑いの目を持って、僕の方に歩んできた。
「君の天職は?」
「測量士です」
僕がそう言うと、男性教師は少し眼を見開いた。
「君か! 今年の入学性に変わった天職の子がいるとは聞いていたが――」
やっぱり変わってるのか、測量士。
男性教師は僕を見ると、言った。
「ふむ……君のステイタスを見せてもらえないかね」
「はい」
僕はステイタスを見せた。僕の取得スキルは、今のところ『測量』『視像再現』『スキル測量』の三つだけだ。そして試用スキルのスロットには何も入れてない。
「このスキルで、どうやって剣士の剣をかわしたんだね?」
「距離を測量して、当たる所と当たらない所を測れるんです」
「ふむ、なるほど……面白いな、君の能力は」
「もういいですか?」
「ああ」
僕がステイタスをしまうと、教師は顎に手を当てた。
「初日からこんな騒ぎを起こすのは問題だが、今日だけは大目に見ておこう。剣士の君、実用職の子に戦闘スキルで乱暴するようなマネをしたら、今度は即退学だからね。いいね?」
「……はい」
ソクガは不承不承といった体で頷く。が、その後に、凄い目つきで僕を睨んだ。
「じゃあ、各自のクラスに行きなさい」
「は~い」
そこに集まっていた野次馬たちも、先生の声で一斉に散った。
ふと気づくと、シェリルが僕の方を見てる。
「クライン――」
「僕らも行こうか」
「うん……」
僕が歩き出すと、シェリルが横に並ぶ。
「クライン、あたしのために怒ってくれて……」
「あ、そういえばあいつ、君に謝ってないな。腹の立つ奴だ」
「もういいの。――けど、嬉しかったよ、クライン」
シェリルが僕に微笑んだ。僕は苦笑してみせる。
と、シェリルはにっこり笑った。
「けどまさか、剣術の剣をみんなかわしちゃうなんてね! クライン、凄かったわ。ビックリした」
「僕もビックリだよ。自分の天職とスキルについて、春休みの間に研究はしたんだ。――その成果が出たかな」
僕がそう言うと、シェリルが不意に僕の腕をとって、頭を僕の肩につけた。
「やっぱり……クラインって、昔から凄いわ。ふふっ――」
「え? ……昔?」
なんのことかよく判らないが、この体勢はなんだ? 寄り添い過ぎだろ!
と、僕の顔のすぐ傍で、シェリルが眼を輝かせる。
「ね、あたしたち同じクラスなんだよ。よかったね!」
「あ、うん――そうだね」
そうしてクラスの教室に入る。と、クラスメートたちの眼が一斉に、僕の腕にがっしり腕を絡めているシェリルに向いた。
男子たちは驚き。――女子は、赤くなったり、怪訝な顔をしたり。
「シェリル、ちょっと――くっつきすぎだよ」
「そっか、そうね。え~と、あたしの席はどこかな~」
シェリルはクラスの反応などお構いなしに、黒板に前に貼られている席表に目を移した。
……そうなんだ、シェリルってこういうとこあるんだよ。全然、人のことを気にしないというか、マイペースなんだ。
というか、ちょっと男子の視線が痛い。……シェリルって、自分が凄い可愛いって自覚がどうもないんだ。
「あ、クライン! あたし、クラインの斜め前だよ! けっこう近く!」
シェリルが嬉しそうに声をあげる。ちょっと――
見慣れてる僕でも、その笑顔の可愛さにバスンと、撃ち抜かれた気がした。
「う、うぅ……」
「なんというか……ダメージが――」
傍にいた男子が数人、やられてる。――まあ、無理もない。
と、僕はその様子を見ている視線に気づいた。
ソクガだ。少し離れた席で、こっちを見ている。と、僕の視線に気づくと、あからさまに不快そうな顔をして目を背けた。
「――おい、クラインって言ったよな。お前、大した奴だな!」
そう突然、声をかけてきた奴がいる。
……なんか、見覚えがある。
「あ……君は確か『建築士』の――」
あの天職授与の時、一番で天職授与された奴だ。
僕がそう言うと、彼は歯をみせてにかっと笑った。
「そうそう! よく覚えてたな!」
「一番だったからね、印象的だったんだ」
「そうか。いや、入学初日で暴れるお前ほど印象的じゃないだろ」
彼はそう言って笑った。オレンジの髪を短く刈り込んだ彼は、活発で明るい印象だ。
「オレはペンター、よろしくな」
「僕はクライン。僕は別に暴れたかったわけじゃないんだけど――」
「けど、剣士の剣を防ぎきるなんてすげぇよ。オレ、感心したもん」
ペンターがそう言って笑う。と、不意に別の声が背中からした。
「確かに……驚きのパフォーマンスでした。測量士というのは、案外、運動能力が必要なのでしょうか?」
その声がして、ペンターが少し立ち位置をずらす。と、ペンターの陰から、男子生徒の姿が現れた。
黒い前髪が伸びすぎていて、目が全然、見えない。ちょっとうつむきがちに声をあげた男子生徒は、さらに口を開いた。
「あの場で先生に『距離を測量して』と言ってましたが――測量士のスキル使ったということですか?」
「あ、わりぃ。こいつはケリル。天職が『経理士』の、オレの幼馴染なんだ」
「ど、どうも……」
僕はケリルに、ちょっと挨拶した。
「あの――相手との距離を瞬時に測れて、それで相手の攻撃できる距離にいつつ、攻撃してきたらかわす……ということをやったんだ。『測量士』の測量を、応用したんだよ」
「なるほど。君はなかなか頭の回転が速いタイプですね。とても好感がもてる」
ケリルはそう言うと、前髪を垂らしたまま、にぃと笑った。
……ちょっと恐いんだけど――悪い奴じゃあないんだろう。
と、ペンターが口を開く。
「実はオレ、お前が『測量士』だって聞いて興味あったんだよ」
「え、そうなの?」
「オレは親父が大工で、できたらその跡を継ぎたいんだけどさ……さらに大きな建物を自分で創ってみたい――って、ちょっと思ってるんだ。そういう時にはさ、絶対、測量って必要だろ? だから、将来、一緒に仕事するかもな、って興味持ったんだ」
ペンターはそう僕に言った。
……そうか。実用職のなかでは、僕の天職に興味もってくれる人もいたんだな。
「ボクは経理士が天職ですが、計算や書類の読み込みが好きなんです。計算能力を活かして、将来、建築関係の仕事に就くかもしれませんね。そうでなくても、事務職は何処にでもいますから」
ケリルはそう言うと、ちょっとにっと笑った。多分、事務職が天職なのが自慢なんだな。将来、仕事に困らない、人気の天職だって聞いてるし。
ふと気づくと、30人ほどのクラスの中で、もうグループができ始めている。
見ると、戦闘職と実用職で分かれて、それぞれ固まってる感じだ。
シェリルは女子の戦闘職のグループのなかにいた。
……そうか。この段階でもう、こんな風に分かれるんだな。
ともかくも、僕はペンターとケリルと仲良くなった。
けど……僕はただの実用職――非戦闘職でいるつもりはないんだ。
実は僕はある事実に気が付いて、興奮していたんだ。




