3 初めての――実戦
僕は学校が終わると、すぐにレミールに乗って帰路についた。
「あ! クライン、一緒に帰ろうよぉ!」
「ゴメン、ちょっと急いでるんだ!」
僕は馬車から声をかけるシェリルにそう言って、レミールを森まで走らせた。
泉の傍に到着すると、僕は息をついた。
「やった……僕はやったぞ!」
僕は興奮していた。何故なら――
僕はソクガと戦った時、『剣術』スキルを使ってなかったんだ!
試用スキルの中にも『剣術』スキルは入れてなかった。
けど――ソクガの攻撃は全部、把握できたし、反撃もできた。
これはつまり……
『剣術』スキルがなくても、『剣術』スキルに対抗できるってことだ!
……いや、現実的に考えると、たとえばエルフはスキルシステムを使ってないけど、十分に剣で戦える。それから考えれば、不思議じゃない。
けど、人間の種族で、今やスキルもないのに戦闘職と戦闘する人なんて多分いない。――けど訓練次第では、戦闘スキルを持ってなくても、その上の実力を身に着けることができるかもしれないんだ!
「それにしても――」
重視すべきなのは、今回の僕の『成長の速さ』だ。
「多分、僕がスキルを『試用』できることが大きい……」
これは間違いない。同じ時期に『剣術Lv1』を得たソクガに対して、僕は最初は明らかに向うより劣っていた。
けど、今回はスキルなしでもあいつの動きが全部見えた。実感できたんだ。
僕の方が上だ、と。
別にソクガより強くなるとかは、大した問題じゃない。問題なのは、多分、なんの練習もしなかったソクガに対し、練習をした僕があっさりと抜いたことだ。
これは僕が考えた――
『スキル』を使って正しい動きを身体に教えた上で、スキルを外して素の自身で練習する。
――というやり方が、あってたってことだ。
けど、これは今まで誰もやったことがない練習法に違いない。何故なら、一旦獲得したスキルを外せる人なんかいないからだ。
「……この練習法を使って、僕はもっと強くなる」
そう口にしてみた。が、僕はふと今回のソクガとの戦いで、大きく色んな事が判った実感があった。そうだ。『実戦』!
“――後は、実戦から学ぶことだ”
あの時、フォーミュラはそう言った。
素振りなんかの一人稽古も大事だけど、『実戦』! これ重要だよ!!
僕はそう思いたつと、レミールに乗って家に帰った。
家に帰るとすぐに、ジョー爺さんの処に行く。
「ジョー爺さん、ただいま! あのさ、母さんの小屋の鍵、貸してくれないかな?」
僕はジョー爺さんに言った。ジョー爺さんは驚いていたが、やがて深く笑みを浮かべて、一本の鍵を僕に手渡した。
「奥様の部屋は――ずっと手つかずで開けてませんでした。少し埃っぽいかもしれませんが」
「うん、大丈夫」
僕は笑って鍵を受けとる。と、ジョー爺さんが微笑んだ。
「奥様が――きっとお喜びになるでしょう」
「だと、いいけど!」
僕は走って、敷地の隅ある小屋へと行った。
この小屋は、母さんが生前、自分の道具置きにしていた小屋だ。
鍵を開ける。むっとする埃の匂いがして、僕は中に入った。
薄暗い中で――静かに武具たちが息をひそめている。
壁には色んな甲冑、それに長い槍や巻かれた鎖なんかがかけられてる。
そしてずらりと並んだ、横にかけられた剣。
僕はその中から一本を取り出して、手に取った。
母さんは細身の剣を使うのが得意だった。
僕が開けた扉から、陽射しが差し込む。
手にした剣が、僕の手の中で銀色に光った。
「よし……週末に、モンスター狩りに行こう」
そう呟いた後、不意に気が付いた。
「そうだ、それまでに木剣じゃなくて、実剣も素振りしときたいな。重さに慣れないといけないし――」
そう思って壁にかかった剣を見たが――どれもちゃんと切れそうな剣だ。
「素振り用の――刃を潰してある剣ってないのかな?」
ふと見ると、壁にかけられた剣の下に、丸い筒に放り込んである剣が数本ある。
僕はそれを一本、取ってみた。
見た感じだと判らない。足元に舞い込んできた葉っぱを手にすると、刃に当ててみた。
切れない。あ、これ素振り、あるいは模擬戦用の剣だ。これで素振りしよう。
そう決めた僕は、それから毎日、学校が終わると模擬剣で素振り練習をした。
そしてあっという間に週末が訪れる。
僕はレミールに乗って出発する。目指すのは、低ランクモンスターが生息する、テラン高原。この界隈にいる角ウサギが、メインの獲物だ。
「ブルルルル……」
レミールが足を止めた。
「そっか、これ以上行くと、レミールには危険なんだね。判った、レミールはこの辺で待ってて」
僕はレミールから降りて、高原の草深い地域へと進んだ。
この草むらに隠れて、角ウサギは襲って来る。
学校の図書館で調べたところでは、角ウサギというのは雑食で、人間も襲ってくる。愛らしい外観とは裏腹に、意外に凶暴なモンスターだ。
体長は80cmくらいだが、そのうち30cmが頭に生えてる角。この角は実は刀のような片刃状になっていて、角ウサギというよりは刀ウサギと改名した方がいいくらいだ。
「さて……そろそろいてもいい頃だけど――」
老人が一人で畑作業してるところを襲われて、一旦、傷つけられちゃうと群れで襲い掛かって来る。そして食べられてしまった――という事件もあるような奴だ。雑食で畑の作物も荒らすので、農家の天敵だと言われてる。
「――いたぞ」
白くて丸いしっぽが、くさむらから見えてる。
僕はそっと近づいた。『測量』!
距離は今、5.2m。まだ全然、お互いに危険範囲外だ。
が、そいつは僕に気が付いた。
振り返って、顔を出す。白い顔に、赤い眼。そしてその額から――ギラリと光る銀色の角。確かに……刀のようだ。
角ウサギは近づいてくる。全然、僕を恐がってない。むしろ捕食対象と見做したようだ。……いいだろう。こっちだって、その気なんだ。
僕もそっと近づく。距離は4.8m。4.7、6――
角ウサギが攻撃してくる距離がまだ判らない。僕は剣を抜いて身構えた。
いったん角ウサギが足を止めるが、また近づいて来る。
距離、4m、3.9m――
「何処で来る……?」
そう囁いたのは、3.5mの処。
事前に測っていて判ってるのは、中段に構えて前足を進める場合、僕の攻撃可能距離は170cm。後ろ足を引きつけて踏み込んでも、210cm。
僕の攻撃可能距離が、角ウサギに比べて遠いのか近いのか――
「ギッ!」
280cmの地点で、角ウサギが跳躍した。攻撃可能距離は、向うの方が長い。
「むっ!」
僕は横に動いて、角ウサギの攻撃をかわした。
ちなみに、今は試用スキルのなかに『剣術Lv1』を入れている。
だからそれなりに素早い動きができるんだ。
攻撃が空を切った角ウサギが、再び僕を睨む。
僕も角ウサギに剣を構えた。
考えてみれば、こっちが一方的に攻撃できるわけはないんだ。
けど、想定として角ウサギの攻撃距離は280cmくらい。
ここまでは間合いを詰める。
「ギ……」
角ウサギが、低い唸り声をあげて赤い眼で僕を睨んだ。




