3 視像再現
「そうだね。私たちの言葉にあるのだが――『稽古は裏切らない』というのがある。日々の努力が、ちゃんと強さになる、という事だ」
「あ、あの! ――僕にその素振りや型を教えてください!」
僕はがそう言うと、エルフは静かに微笑んで頷いた。
――と、僕はふと思い出した。
そう言えば僕のスキルに、『視像再現』ってのがなかったか?
「あ、ちょ――ちょっと待ってもらえます?」
僕は測量士の取得可能スキルの中に、『視像再現』ってのがあるのを想い出して、ステイタスをオープンした。やっぱりある。
……どうしよう。ここで最後のスキルポイントを使って、『視像再現』を取得してしまうのがいいのか? ――いいや! いずれにせよ、測量士に有用なスキルなんだろうし。
「スキル『視像再現』を取得! で、発動!」
……何も起こらない。いや、どうしたらいいんだ? 視像を再現っていうからには――見たものを再現できるんじゃないの?
「え~と、さっきの戦いを再現!」
……できない。よく見ると『ライブラリー』という場所に、何も入ってない。
「あ――何もない。見たものを、ただ再現できるんじゃないってことか……」
「どうかしたのかい?」
美人エルフが訊いてくる。僕はちょっと慌てた。
「あ、僕の力で見たものを再現できるみたいなんですけど…まだ何もなかったんです。――あ、これか! 『録画』ってボタンがある」
僕は視界の隅にある赤丸のボタンを押した。
特に変わった感じはないが、美人エルフの方を見てみる。
「それで……今、記憶してるのかい?」
美人エルフが間近で微笑んだ。物凄い破壊力だ。
こんな笑顔を記録できたら――そうドギマギしてると、赤丸だったボタンが『停止』という白の四角になっている。僕は一旦、それを押してみた。
「あ……これで視像が記憶できたのかな?」
見ると、ライブラリーに美人エルフの笑顔の項が入っている。
「これで再現できるのかな? 『再生』」
美人エルフの項目を選んで、『再生』ボタンを押す。
と、僕の傍の光のスクリーンに、美人のエルフの笑顔が大きく映し出された。
「それで……今、記憶してるのかい?」
美人エルフがさっきの言葉を繰り返す。
と、傍にいた美人エルフが驚いた顔をした。
「あ、今、再現できたのかい? 見せてもらえないか?」
「あ、いいですよ。こっちにどうぞ」
美人エルフが隣に、くっつくように来る。わわ。
美人エルフが僕の光スクリーンを覗き込んでいる。そこには美人エルフの顔。
「これで再現できるみたいです」
僕はもう一度、『再生』を押した。
「それで……今、記憶してるのかい?」
画面の中の美人エルフがそう微笑みかける。
何回見ても、素晴らしく美しい笑顔だ。
「ほぉ……これが君の能力か、凄いな。『測量』といい、実はかなりの高度な光学魔法の結晶だ」
「そうなんですか」
全く自覚はない。無論、光学魔法なんて知らないからだ。
と、美人エルフが笑った。
「凄いな。判らなくても使えるというのは。スキルシステムも大したものだと本当に感心する」
「あの――これで素振りや型というのを記憶しようと思いついたんです」
僕がそう言うと、美人エルフがふと真面目な顔になった。
「なるほど……そうすると、その素振りや型をずっと再現できる記憶として保持できるわけか。それに私も自分の剣の振りがどんなものか、客観的に確認できる。――面白い、やってみよう」
「お願いします!」
そう言うと、僕は少し離れて美人エルフの全身が見える位置に立った。
美人エルフが剣を構える。
「先ほどは後ろ足を踏み込む形を見せたが、基本の素振りは、前足を進める形だ」
そう言うとエルフは剣を前に中段に構えた。さっきの後ろに構えるのと形が違う。
そこから前足を一歩踏み込みながら、剣を上段に振りかぶる。
後ろ足を引きつけながら斬り下ろす。
「基本の上から斬り。基本の振りは九本ある」
そう言った後に、エルフは素振りを見せてくれた。
上下左右、それに斜め右、左、斜め右下、左下からの切り上げ。そして最後に中段からの突き――が素振りの型だった。それを各数本ずつ振ってくれたのだ。
エルフが素振りを終えると、僕は『停止』ボタンを押した。
「どうだい? うまく記憶できたかい?」
「できてると思うんですけど――」
ライブラリーに入っているエルフの立ち姿の記憶を選んで、再生してみる。
と、映像の中でエルフの素振りが再現された。
「おお、私の太刀筋がはっきりと再現されている。凄いな」
「うまく記憶できたみたいです。これを参考にして、練習してみようと思います」
「しかし……少し小さいな。もう少し大きな画像にできないのか?」
エルフに訊かれたので、僕は少し光の画面を見てみた。
普通、ステイタスウィンドウの画面は大きくしたりはできないはず。
けど、これはどうだろう?
僕は画面の端と端を持って引っ張ってみた。と、画面自体が大きくなる!
「あ! 画面が大きくなった!」
「いいじゃないか。どこまで大きくできるんだい?」
「広げてみます」
僕は限界まで光の画面を広げると、最終的に画面は1m50cm×1mのサイズまで大きくなった。
「これが最大みたいですね」
「これくらい大きいと、細かい手の内まで見れるな。――なんだか、私が映し出されて恥ずかしい気もするが」
美人エルフがそう言って、微笑む。
「じゃあ、少し素振りの仕方を教えておこう」
「お願いします!」
そう言った後に、美人エルフは僕に九本の素振りの仕方を指導してくれた。
指導には画面内のエルフの姿を指し示して、その刃筋や握りなども教えてくれた。
しばらく指導を受けて、さすがに疲れた。
エルフが微笑んでいる。
「フフ……さすがに疲れたかな」
「はい。けど――凄く勉強になるし、楽しいです」
「そうか。君は…剣が好きなんだな」
エルフはそう言って笑った。
そうか――僕は、剣が好きなのか……。
改めて、その事に気が付いた。
「それじゃあ、最後に私の流儀に伝わる剣舞の型を見せよう。これは少し長いからよく見ておくといい」
そう言うとエルフは、まっすぐに立って、剣を身体の真ん中に立てた。
その形だけで、ピリッとした空気が伝わる。
僕は『録画』ボタンを押して、エルフの動きを凝視した。
静かに構えると思ったら、その剣は片手で持たれてくるりと翻る。とすぐに身体を回転させて剣は横になびく。一歩、物凄く低い体勢で踏み込みと同時に突き――
そんな複雑な動きを見せながら、エルフは剣を持って舞う。
物凄く美しく、それでいて芯の強さがある。ダイナミックに動く箇所と、静謐な瞬間が入れ替わりで訪れ、こちらの眼を奪う。
やがてエルフは、元の形のように剣を身体の中心に立て、剣舞を終了した。
僕は停止ボタンを押して、思わず拍手した。
「凄いです! とても綺麗で、それでいて強かった! 感動しました!」
本当だった。剣舞を見ていて、胸が震えた。
エルフは微笑んだ。
「この剣舞の型――『緑森の風』は33の技で構成されている」
「えぇっ!? 今の動きが、全部、技だったんですか?」
「そうだ。今度はゆっくりと、技の名前を言いながら舞うから、それも記憶しておきなさい」
「はい!」
そう言うと、エルフはまた剣舞を披露してくれた。今度はゆっくりだ。
「これは――『峡谷の旋風』。そして『注ぐ木漏れ日』――」
次々に技の名前を言いながら、さっきと同じ剣舞を舞うが、それもまた美しかった。僕はその動きを、しっかりと目に焼き付け、記憶した。
そうして気づくと、辺りは薄暗くなってきていた。




