2 共同作戦
僕はディッドたちに計画を話した後、ガルバトたちの拠点へと行った。
「あ、お前ら……どうしたんだ?」
ガルバトは、ちょっと不安げな顔を見せる。昨日の今日だ、ビクついても仕方ない。僕はガルバトに言った。
「君たちに、協力したいと思ってやってきた」
「協力? なんの?」
「――昨日、カレンちゃんの様子を見てきた」
僕の言葉に、ロトンが眼を見開く。
「あの子をみんなで助けたい。それが僕らの総意だ」
「そんなこと……俺たちだって、そう思ってるさ。けど――」
「とにかく、話を聞いてくれ」
僕は皆を集めて、ドーマから聞いた治療法の話をした。
「治癒魔法をかけながらだと――治癒薬が半分で済む?」
「完全に半分かどうかは判らないけど、通常より少なく済むらしい。ドーマは不確かな事は言わないと思う。それで30本必要な治癒薬も、15本で済む」
僕の言葉を聴き、ロトンが声を上げた。
「5本なら、家にある!」
「そう。だから後、10本――つまり20万ワルド必要だ」
「20万ワルドにしたって……大金だぜ。俺たちにそんな金稼げるのか?」
ガルバトの不安げな声に、僕は言った。
「稼げる! 鎧ジカは一体6万ワルド以上になる。つまり――鎧ジカを最低、3頭狩れば、薬代ができる」
僕の言葉に、ガルバトもその他のメンバーも眼を見張った。
「鎧ジカってお前らがこの間、狩ったっていう――」
「そうだ。正直、相当に強くて、もう鎧ジカ狩りはやめよう、と言ったばかりだった。けど、事情が変わった。君らには戦闘職が四人いる」
ガルバトと剣士が二人。そして魔導士が一人。
「そしてこっちは僕、ディッド、ダガンの三人。今回は選伐メンバーで、鎧ジカを狩る。――そういう計画だ」
「ぼくの妹なのに……ぼくは留守番なの?」
ロトンがそう口を開いたので、僕は一枚の紙を取り出してみせた。
「他のメンバーにもやってもらうことがある」
「なんだ?」
「ここに描かれてる薬草を、森までいって取るんだ。これはヒリア草といって回復薬に使う薬草だけど、大量にないと作れないらしい。無論、大量に採取しても凄く稼ぎになるわけじゃないけど、この人数で採取すればそれなりになると思う」
僕の言葉に、ロトンは頷いた。
「うん、判った! ぼくはぼくのできる事をやる!」
「へへ……オレたちも一緒だからな」
リッドがそう言って、ロトンに笑いかけた。
ロトンが申し訳なさそうな顔をする。
「悪かった……君には――大変な目に合せたっていうのに……」
ロトンはそう言ってうつむくが、リッドはその肩を軽くポと叩いた。
「カレンちゃん、凄く可愛い子だな。必死になるのわかったよ。オレももう気にしてない」
「リッド……」
ロトンが涙目で、リッドを見つめた。リッドはそれに笑い返す。
「よし、じゃあ、薬草組と狩り組で分かれて出発しよう!」
僕の声に、全員の声がこだました。
そして僕とディッド、ダガン。向うのチームからガルバトと、Lv2剣士のレムナー、Lv1剣士のレブル。そして魔導士のヤムは連れ立って狩り場へと向かった。
「ヤムは何の魔法が使えるの?」
僕は戦力を確認するために訊いた。
ヤムが答える。
「電撃魔法Lv1。一応、単体攻撃と、範囲攻撃使えるよ」
「それは凄い。有効だぞ、これは」
僕は頭の中で作戦を考えながら狩り場であるイカタ山まで来た。
「よし、ここからは『測量』で探索する」
僕はそう言うと、探索項目に『鎧ジカ』と入れた。
ガルバトがディッドに問う。
「何やってんだ、クラインは?」
「測量士の特性で、探索目標を特定できるんだと。煙の中で、お前たちを打ったのも、それを利用した――らしいぜ」
ガルバトが唖然とした顔になる。
「そうだったのか!」
「フフ……まあ、こいつには俺たちも驚かされてばかりだよ」
ディッドは愉快そうに微笑んだが、僕は素知らぬ顔をしておいた。
しばらくすると、視界の隅に反応がある。
「右だ――あっちの森の中にいる!」
僕が右を指さすと、皆がきょろきょろする。
「何処だ? 全然、判らねえ」
「判らなくてもいい。此処からは足取りを慎重に、鎧ジカをうまく皆で囲むんだ」
その距離はまだ320m。僕らは森に向かって移動する。
鎧ジカの矢印、消えたりついたりしているが、まだ追えてる。
「さっき話した作戦通りだ――ガルバト、君が要だ。充分に気をつけてくれ」
「判った」
距離113m。もう、皆にも鎧ジカの場所は把握できてる。
僕とディッドは右から廻りこみ、ダガンとレブルが左から廻り込む。
鎧ジカは不穏な気配を察したらしく、首を振ると、さっと走り出そうとする。
「ヤム!」
僕は声をあげた。魔導士のヤムが、電撃魔法を放つ。
ただし、当てるんじゃない。当てて致命傷にならなかった場合、そのまま逃げられてしまう。
だからヤムには、鎧ジカの手前の地面を撃つように指示しといた。
バシュッ、という音とともに、電撃が鎧ジカの前の地面を穿つ。
ビクン、と鎧ジカが驚いて立ちどまった。いいぞ、作戦通りだ。
その距離、もう15m。僕らは鎧ジカの包囲網をつくっていた。
「いいよ、ガルバト!」
「おう!」
突如、茂みから飛び出したガルバトが、剣でもって鎧ジカに斬りつける。
鎧ジカがその立派な角で、ガルバトの剣を防御した。
「今だ、僕たちも出るぞ!」
僕たちは一斉に飛び出た。狙うのは――鎧ジカの後ろ足だ。
僕は真っ先に駆け付けて、鎧ジカの左後足の膝に斬りつけた。隣では、レブルが右後足の膝に斬りつけている。
そしてディッドとダガンは、鉄パイプで、思い切り左右の大腿部を打ちすえた。
「クェーンッ!」
鎧ジカが悲鳴をあげて逃げようとするが、後ろ足の負傷でうまく動けない。
前にいたレムナーが鎧ジカの頭部に斬りつけるとガルバトが剣を引いて構えた。
「これでどうだ!」
渾身の突きを、鎧ジカの胸に放つ。
僕らは暴れる鎧ジカから少し距離をとり、第二段攻撃に備える。
――が、鎧ジカは胸の傷が致命傷だったらしく、そのまま崩れ――そして動かなくなった。
「やった! やったぞ!」
レムナーが歓喜の声をあげた。
「俺たちで、鎧ジカをやれたんだ!」
レブルの声に、ガルバトも笑った。
ガルバトが僕を見て言った。
「クラインの作戦で、ばっちりだったな」
「悪いけど――あの煙幕襲撃の時に足を狙ったでしょ? あれを応用できるんじゃないかと思って」
「なんだ、俺が実験台だったのか!」
そんな事を言って、ガルバトは大笑いした。
僕らも笑いあう。全員が力を合わせて、一つのことを成し遂げた。
しかも今回は、前の時のような負傷者もいない。
僕も満足のいく結果だった。
「よし、これで一体だ。もう二体――できたら三体、狩りたいところだ。これからが勝負だし、気を引き絞めないと、怪我する恐れもある。みんな十分に警戒して」
「わかった」
全員が引き締まった表情で、頷く。
行ける気がする。僕はそう思い、また測量を続けた。
そして――僕の探索する視界に、新たな鎧ジカの反応があった。




