3 治癒に辿りつけ
すぐに二頭目の鎧ジカを、僕らは仕留めた。
しかし、そこから長かった。
――三頭目が見つからない。
「もう、この辺にはいないのかな?」
「もう少し、足を延ばしてみよう」
そう言って、さらに山に分け入るも、僕の視界に探索のヒットはない。
段々、日が暮れて薄暗くなってきた。
「なあ、今日はもうこの辺にしておこうぜ」
ガルバトがそう口にする。僕は即答した。
「ダメだ! できたらカレンが、今日の分を消費してしまう前に、治療をするんだ。そうすれば、余計な治療費をかけなくて済む」
「クライン……」
ディッドは感心したように、僕を見つめた。
「よし、いいじゃないか。とことんやろうぜ!」
「そうだな。あと一体――あと一体なんだ。行くぞ!」
「おう!」
そうして僕らはまたしばらく、山道を行く。辺りはもうかなり暗くなっている。
と、その時、反応があった。
「いた! 右手前方520mだ!」
僕が声をあげると、皆がそっちを向く。しかし、樹々が生い茂るなかで、陽が落ちていて誰も判らない。実際、僕も矢印は見えるが、鎧ジカは確認できない。
けど――
「『測量』の探索機能を信じて、あいつを追いこもう。最後の一体だ」
「よし!」
僕らは近づきながら、距離100mまで近づいたところで、僕は班に分かれて囲うように指示する。
さらに近づく。距離は46m――いた!
かなり立派な角を持つ、雄ジカだ。
全員の矢印を見ると、順調に囲い込みを始めてる。いいぞ、いい感じだ。
正面に立つガルバトは、もう30mくらいまで近づいている。
後は、いつ仕掛けるかだ。――そう思った時だった。
「ブゥフッーッッ!!」
突如、鼻息を荒くした鎧ジカが、走り出した。目指しているのは――ガルバトの方だ。
「ガルバト、身を守れ!」
僕が声をかけると、ガルバトは剣を構える。と、次の瞬間、藪を飛び越えて現れた鎧ジカが、ガルバトに向けて角を振った。
「わあぁぁぁっっ!」
ガルバトが慄きの声を発しながら、かろうじて角の攻撃を剣で受ける。
「ヤム、横から魔法だ! レムナーはガルバトの支援を!」
僕は叫びながら走った。鎧ジカが前に走った分、僕らから遠ざかったのだ。
ヤムの電撃が暗闇で光ったかと思うと、鎧ジカの悲鳴が聞こえた。
「クソッ、こいつ!」
レムナーの声がする。と、キン、という金属音がした。
見ると、レムナーの剣が、鎧ジカの角の攻撃で弾き飛ばされたのだ。
「あ……あ…」
身を守る武器がなくなったレムナーが、恐怖に震える。
そこに容赦なく、鎧ジカは襲い掛かった。
「やらせるかよ!」
その攻撃を受け止めたのは、ガルバトだった。
ガルバトの剣と、鎧ジカの角が、ギリギリと音をたてて軋んでいる。
「追いついた! ダァッ!」
僕が鎧ジカの後ろ足膝に斬りつける。
「キヒーンッ!」
驚いた鎧ジカが蹴りを飛ばしてくる。僕はそれを慌ててかわした。
「これも喰らえ!」
ディッドが鉄パイプで、その蹴り足を打ち付ける。
と、逆方向からダガンとレブルがやってきて、もう一方の脚に斬りつける。
――そこからは、もう一方的な勝負だった。
動けなくなった鎧ジカにガルバトは致命傷を与え、狩りは終わった。
「ふぅふぅふぅ……」
みんなさすがに息が荒くなっている。
けど、僕は言った。
「よし、じゃあこれで戻ろう。まず僕の村に肉屋のトミーの処にいって捌いてもらって、肉を売る。街の武具屋に持っていって換金した後に、ドーマの店で薬を買うんだ」
「わかった」
ディッドが『亜次元収納』を使って、鎧ジカを収納する。
「けど、凄いね亜次元収納って。鎧ジカ三匹分も入るなんて」
「いや、けど現時点ではこれが限界みたいんだな。俺もこんな大荷物入れた事ないから、初めて限界を知ったよ」
そう言って、ディッドは笑った。
肉屋のトミーは驚いていたが、きちんと捌いてくれた。
ファーストリアの武具屋ウィラポンは、鎧部分を合計20万ワルドで買い取ってくれた。なんでも、最後に仕留めた一頭の鎧が、凄くいい状態だったらしい。肉は一体、1万ワルド――三体で3万ワルドになった。
その武具屋の前で待っていた、他のメンバーとも合流し、僕はレミールに乗って急いでドーマの店に行く。
「ドーマ、薬を頂戴!」
「あいよ、何本買うね?」
狩りに参加しなかった他のメンバー――北の少年たち9人と、僕たちの仲間3人が集めた薬草は、合計で一万ワルドになっていた。
「12本だ」
そして僕は24万ワルドを払って、薬を入手する。
そして僕は、ロトンの家へと向かった。
家ではもうメンバーが、僕を待ちわびていた。
中が狭いので、外で待ってるメンバーも大勢いる。
「薬を持ってきたよ!」
僕はそう言いながら、家の中に入っていった。
カレンの寝室には、ロトンとその母親がいる。
「おばさん、薬を12本集めてきました。今から――治療を行いましょう」
「けど本当に……その方法で、足りるんでしょうか――」
「きっと大丈夫だと思います」
僕はそう言って、カレンの傍にいった。
寝ているカレンは苦しそうに、息をしている。
「この前来てくれた……お兄ちゃんね」
「うん、そうだよ。僕はクライン。今からカレンに薬を飲んでもらう。そしたら、僕が治癒魔法をかけていくんだ。苦しいかもしれないけど……頑張れるかな?」
「うん……」
少女は苦しそうななかを、笑顔を浮かべて見せた。
「じゃあ、お母さん、カレンちゃんに薬を」
「は、はい」
母親はがカレンの上体を起こし、カレンに薬を飲ませる。
傍には、たらいを持ったロトンが待機している。
「んく……ぐあはっ!」
カレンが薬を飲むと、すぐに吐き出す。ロトンはそれを、たらいで受け止めた。
――ちょっと驚くような赤さだ。鮮血そのものだ。
いや、驚いてる場合じゃない。
「治癒!」
感触で判る。明らかに、肺が傷ついている。この傷ついた部分を治すと、治癒の効き目がなくなるのが判った。
「次」「はい!」
母親がまたカレンに薬を飲ませる。今度はロトンの代わりに、リッドが別のたらいを持って待機している。またカレンが血を吐いた。
「治癒! ――次!」「はい!」
これを僕らは繰り返した。だけど――明らかに判る。最初に吐いた血の量から、段々、減っていってる。けど、血がなくなることはない。
「12本目……次!」「はい」
残りの本数が少なくなる中――僕らはまたカレンに薬を飲ませた。




