第十一話 僕たちの決意 1 病床の少女
ロトンが話しながら、涙ぐむ。僕は彼に訊いた。
「それで……リッドを狙ったのか?」
「――違う。ロトンはただ、悔しくて泣いてただけだ。リッドを狙って金を奪うと決めたのは俺だ」
横からガルバトが口を出した。僕は軽く睨む。
「まったく……よくそんな事を平気で思いつくな。どういう神経なんだ?」
「悪かったよ――けど、カレンは俺たちもよく知ってて……可愛い子なんだ。助けてやりたいと思ったんだ……」
「人から奪った金で薬もらって治して、そのカレンって子が喜ぶのか?」
僕がそう言うと、ガルバトははっとなって顔をあげた。
ロトンも改めて気づいたらしく、驚きの顔をしてる。
「やれやれ――けど、僕は君たちの話を完全に信じたわけじゃない。同情をひくための作り話ってこともありえるからな」
「クライン……」
ディッドが僕の顔を見る。ディッドはいい奴だな。完全に、彼らに同情してたんだろう。
「けど、僕は自分で見たものしか信じない。言われてるルールや常識だって、間違ってることが沢山ある。――君の家へ行こう、ロトン」
「え――ぼくのうちに?」
僕は頷いた。
「ディッドとリッドは一緒に来てよ――あとは、解散だ」
僕はそう言って、手を振った。
こっちのメンバーも、あっちのメンバーも戸惑っていたが、やがて少しずつばらけていく。
そして僕は、ロトンに行った。
「じゃあ、行こうか」
そうして僕とディッドとリッドは、ロトンの後をついて街を歩いた。
しばらく行くと、小さな集合住宅が立ち並ぶ一角に出る。
その中の一つに入っていくと、ロトンは声をあげた。
「ただいま。母さん、ちょっと――人が来てるんだ。あげるね」
「あげるねって……お前」
「あがって」
ロトンに促されるまま、僕らは「おじゃまします」と声をかけて、小さな部屋にあがりこんだ。
と中年の女性が出てくる。一目見て判るが、だいぶ疲れてる感じだ。
「まあまあ、こんな狭いとこにこんなに大勢で――どうしたんだい?」
「まあ、いいから」
ロトンはそう言うと、奥の部屋に進む。そのドアを開けると、中にはベッドに寝かされた少女がいた。
「あまり、この部屋で大きく呼吸しない方がいい」
部屋に入る前に、ロトンが振り返ってそう言う。リッドが慌てて、袖口で口を覆った。
「ただいま、カレン」
「お兄ちゃん……」
ベッドに寝ている少女は――かなり頬がこけてやつれていた。
けど精一杯の微笑を浮かべるその顔は、元気な時はきっと素敵な美少女だったことを簡単に想定させた。
「今日は……友達がいっぱいね――」
「こんにちは、カレン。さわがしちゃって、ごめんね」
僕は微笑んで、カレンに話しかけた。
「カレンは……お菓子が好きなの?」
「うん! お兄ちゃんや……仲間といっしょに食べるのが……おいしいの」
カレンはそう言って微笑んだ。
その顔はやつれていたが、それは天使のような笑顔だった。
「そっか……今度は、僕らも一緒に食べたいな。いいかな?」
「うん、いいよ」
カレンがそう微笑む。ロトンは背中を向けて、涙を堪えていた。
「じゃあね、カレン。また来るね」
「うん……」
僕らはそれでカレンの部屋を後にした。
部屋の外では、ロトンの母親がいる。母親はロトンに言った。
「どうしたんだい、いったい?」
「――ちょっと話を聞いていいですか?」
それから僕らは別室に移って、床に直接座った。
「カレンさんの薬が、30本必要って話なんですか?」
僕の問いに、母親は少しロトンを見たが、やがて頷く。
「そうです。多分、肺にたまった瘴気毒を完全に吐き出すのに、30本くらいは必要だろうって薬売りに言われました。わたしも瘴気毒病になったし、周りのも見てるので――そのくらい必要だと思います」
「一本、2万ワルドもする薬は到底、一気に買えない?」
「そうですね……それでなくても、一日一本は飲ませて瘴気毒を吐かないと、あの子はすぐに死んでしまう。――今、ただ命をつなぐために、その薬を飲み続けている状況です……」
治らないのに、延命のために薬を使ってる状態――お金は使ってしまうし、症状はよくならない。一番、悪い状態だ。
「そうですか――今、ストックが何本くらいあるんですか?」
「常に五本くらいは用意してるんですが……それを買うのも大変で――」
そう言うと、母親はうつむいた。
僕らはそれから、ロトンの家を出た。
三人で歩いてると、リッドがぽつりと言う。
「あの子、あんなに小さいのに……可哀そうだったな」
「そうだなぁ……けど、俺たちにできることなんか、ないんじゃないのか? 結局、60万ワルド必要なんだぞ」
ディッドが残念そうに口にする。僕は二人に言った。
「僕はちょっと――何が手がないか詳しい人に訊いてみるよ。それじゃあね」
そう言って二人と別れて、僕はドーマの店に行った。
「おや、今日は手ぶらかい? どうしたんだね」
「ちょっと訊きたいことがあってさ」
僕はドーマに瘴気毒の薬について訊いた。
「瘴気毒病の薬って、そもそも高価なもの?」
「ああ、あれは高価だねえ――あれは中央の方にいる聖人治癒士が作り出すポーションだから値が張るんだよ」
聖人治癒士――そんな職業の人たちがいるのか。
「やっぱり、一本2万ワルドくらい」
「まあ、相場はそうだろうね」
あの母親が特に薬売りに騙されてるとかの可能性はない。
だとしたら――
「やっぱり、重い症状だと、一回に30本くらい飲まなきゃダメな場合もある?」
僕がそう問うと、ドーマはちょっと僕を見て笑みを浮かべた。
「まあ、通常はそうだろうが、実はあたしはもっと効果的な治療法を知ってるんだ」
「え? なに?」
僕は身を乗り出した。
「まあ……結果的には同じくらいの費用かもしれないがね。薬を飲んで瘴気毒を吐かせる。基本的にはこれを繰り返すんだけど、その瘴気毒を吐き出した時、肺は傷つけられてるんだ。これを普通は毒を全部吐くまで放っとくんだが、実は傷ついた肺にすぐ傍の瘴気が入り込んでいる。これを治癒しながら吐き出すと――実は薬は半分で済むのさ!」
ドーマはそう言うと、にっと笑った。
「まあけど、治癒士に治癒も頼むんで、結局その治癒代で同じくらいの金額になったりするかもだけどね。昨今、治癒士の治癒も金がかかるからねえ」
……いや、待て。治癒士なら、僕が引き受けられる。
ということは、必要な薬も30本の半分、15本で済む。
そして、ロトンの家に5本ストックがある。10本あれば、カレンが治せる計算になる!
「10本買うには――20万ワルド……」
「なにかい、薬が必要なのかい? 必要なら仕入れとくがね」
「本当? じゃあ、10本――12,3本お願いします!」
僕の言葉に、ドーマは笑って頷いた。
翌日、僕はディッドたちの処に行く。
皆、どこか沈んだ顔をしている。
「お、クライン。まあ……ある程度、話はディッドから聴いてるんだがな」
ダガンが苦笑いを見せる。リッドがうつむいたまま、ぼそりと呟いた。
「可哀そうだよ……あんな子が、病気で苦しめてられるなんて――」
「じゃあ、助けよう。――みんなで!」
僕の言葉に、皆が驚きの顔をあげた。




