4 彼らの事情
僕は無言で、ガルバトの横っ面を木剣で殴り倒した。
「ガハァァッ!!」
ガルバトが血を吐いて倒れる。ガルバトに寄り添っていた少年が、恐怖で涙ぐんでいる。だが――容赦はしない。
「ふざけるなっ! 何が汚いマネだと……? 一番年下のリッドを狙って、暴力を加えて金をまきあげて――さらに人質をとって、金を要求したんだぞ! お前らの方が、よっぽど汚いだろうが!」
僕は木剣を振り上げると、その腕が止められて振り返った。
ディッドだった。
「気持ちは判るが――もうよしとけ」
僕はガルバトに向き直った。
「自分のやった事も棚にあげて、よく他人に汚いなどと言えたな! しかもお前はそれから5万ワルドも請求した。しかもこれから毎月、5万ワルド請求したそうだな? 間違いないか?」
僕はガルバトに訊いた。頬の痛みを堪えながら、ガルバトは頷いた。
「……間違いない」
「汚いのはどっちだ! 僕らか――お前らかっ!?」
僕はガルバトを睨んだ。ガルバトが眼を剥く。
少しの沈黙の後――ガルバトが声を洩らした。
「俺たちの方だ……」
「判ればいい。――じゃあ、お前に要求する。明日までに5万ワルド持ってこい。そしてこれから毎月、5万ワルドを僕たちによこせ」
僕の言葉を聴いて、ガルバトは眼を剥いた。
「できないのか!? お前たちの要求を、そのまま返しただけだ。――人に要求できるんなら、自分はたやすくできるんだろうが!」
僕が怒鳴りつけると、ガルバトがうつむいた。
そのこっちを見ようとしないガルバトに、僕は言った。
「払わないなら、払わないでいい。ただし――その時は、お前のメンバーを一人ずつ潰していく。『お前以外の』全員を潰す。お前は強くて大変だから狙わない。……だけど、お前以外のメンバーは全員、足腰立たなくなるまで痛めつける」
僕はガルバトを睨んだ。ガルバトの眼から――強い意志の光が消え……しおれた。
「わかった……払う――払うから――仲間に手は出さないでくれ……」
ガルバトは小さな――消え入りそうな声で言った。
すると傍にいた少年が、泣きながら声をあげた。
「待ってくれ! みんな、ぼくのせいなんだ! ガルバトは……ぼくのために――」
「君は黙って!」
僕は敢えて、少年に声をあげて少年を黙らせた。
僕はしゃがんで、ガルバトに目線を合わせる。
「大事なのは仲間だけか?」
「え……?」
「仲間さえよければ、その他はどんな残酷な目に合わせてもいいと思ってたのか? お前が僕たちにした要求の残酷さが――少しは判ったかって訊いてるんだ」
僕の言葉に、ガルバトの眼が潤んだ。
「わかった……」
「ならいい」
僕はガルバトに手を伸ばす。なにかされるか、と思ったガルバトが、ビクリと震える。が、僕は治癒魔法をガルバトにかけた。
「これは……!?」
「治癒魔法だ、怪我したろ。――他に怪我した人、みんな来て!」
僕は固唾を呑んで、成り行きを見守っていた全員に、そう声をかけた。
ガルバトの膝の負傷を治しながら、僕は言った。
「仲間さえよければ、他はいいなんて……人間がちっちゃいだろ。優しさがあるなら、もっと想像力を広げろよ。別に君らから金をまきあげるつもりもない。君らが僕に手出ししなきゃ、チャラにしてやる。――これでどうだ?」
僕がそう言って治癒を終えると、ガルバトは僕の顔を涙目で見つめた。
「すまなかった……」
「判ればいいんだ、別に」
僕はそれから、2番の小手、3番の両腕――など、連中の負傷を治癒してやった。正直、そんなにひどい怪我人はいない。
「ディッド、いい感じだよ」
僕はディッドにそう笑って見せると、ディッドも微笑した。
ディッドはちゃんと手加減して相手を打ってる。さすがだな。
「……なんなんだ、お前は――? 剣術でLv3の俺を上回って、治癒魔法で治すだなんて……」
そう声を洩らしたガルバトに、ダガンが苦笑しながら口を開いた。
「クラインは、剣聖クレア・ソルの息子だ」
「なにっ!? ……なるほど――それで……」
納得しかけるガルバトを、僕は大声で制止する。
「違う、違う、ちが~うっ!」
「な――何が違う?」
「剣聖の息子だから強いんだ――今、そう思ったろ? 違う! 僕は天職・『測量士』の実用職だ!」
僕の言葉に、ガルバトが不思議そうな顔をする。
「測量士?」
「はい! 聞いたことないですよね~、僕も聞いたことありませんでした~! とにかく! 測量士の個性で剣術と治癒スキルを試用してるけど、僕は天職は非戦闘職! 母の力なんて、受け継いでないんだ」
僕の言葉に、ガルバトは息をつく。
「そ……そうなのか――」
「そう! 君に勝ったのは作戦と『測量』スキルのおかげ! それに戦闘スキルがなくったって、ディッドは今や普通のLv1くらいだったら、余裕に勝てるよ」
僕はそう言って、ディッドを見る。ディッドは照れくさそうに横を向いた。
「強さもそうだけど、勝敗はスキルレベルだけじゃ計れない要素がある。僕ももっと自分を鍛えたいし――もっと強くなりたい」
「強く……か――」
ガルバトが少し遠い眼をした。
僕は、ガルバトの傍にいた少年に、声をかける。
「君、そう言えばさっき、何か言かけただろ? 全部、ぼくのせいだ、とか。それ、どういう意味?」
僕が訊くと、少年は一回うつむくと、涙目のまま口を開いた。
「ガルバトや仲間は――ぼくの妹の薬のために、お金を集めてくれようとしたんだ……」
「はぁ? なんかまた、大変な話がでてきた。まず君の名前と――詳しく話して」
僕がそう促すと、少年はうつむきがちなまま話し始める。
「ぼくはロトン。妹のカレンは、まだ10歳なんだけど……半年くらい前から『瘴気毒病』にかかってる」
それを聞いて――さすがの僕にも少し衝撃が走った。
けど、同時に疑問も沸いて来る。
「瘴気毒病って、確か鉱夫とかがよくかかる病気だろ? どうして、君の妹が?」
「……最初にかかったのは、母さんなんだ。母さんは独りでぼくたちを育てるために、女だけど鉱夫として働いてた。けど、魔晶石鉱脈の傍には瘴気を発する瘴石も多くて、やっぱり母さんも瘴気毒病にかかった」
ロトンは重い口調でそう話す。
「瘴気毒病は瘴気で肺がやられちゃう病気なんだけど、病気にかかると肺の中で瘴気が増えて、外に吐き出す呼気に混じって瘴気が外に出る。だから瘴気毒病になると、傍にいる人も危険なんだ。――母さんは鉱山からの定期的な診察ですぐに病気が判ったから、すぐに治せた。けどカレンは……気が付いたら、結構、症状が重くなっていたんだ」
ロトンはそこで、後悔をにじませるようにうつむいた。
「ぼくがもっと早く気付いてれば……一緒にいて、なんか咳をしてると思ってたのに――」
「それで――そのカレンの薬が必要だって?」
僕は話の続きを促した。後悔を始めても、事態はよくならない。
「瘴気毒病を治すには、肺にたまった瘴気毒を全部吐き出さなきゃいけない。けど、吐き出すための聖治癒薬は高価で、一本2万ワルドする」
「2万ワルド――それが…何本くらい必要なの?」
「30本」
ロトンは言った。事情を知ってるメンバーたちは、残念そうな顔をしている。
「60万ワルド必要ってことか……」
「母さんはカレンの看病もあるから、家でできる内職で家計を支えてるけど、それじゃあ到底、おいつかないんだ」
ロトンはそう言って、うつむいた。
けど、僕はまだ訊きたいことがある。
「それで――どうしてリッドを狙ったんだ?」
「普段は孤児で金なんか持ってないリッドが――菓子を買い食いしてて…『オレたちは鎧ジカを狩った金があるんだ』って自慢してた。この半年間――カレンは菓子なんか食べることができないんだ。それが……悔しくて――」




