2 北の少年グループ
ディッドが悲痛な面持ちで言った言葉を、僕は一瞬、理解できないでいた。
「リッドを…拉致……って、なんで?」
「どうやらリッドの奴、金が入ったんで菓子を食べ歩いてたらしい。それで店のおばちゃんに、『そんなに使って大丈夫なのかい?』と訊かれて、『鎧ジカを狩った金があるから、大丈夫』と答えた。――それを北のガキの誰かが聴いてたらしいんだ」
僕は眉をひそめた。
「それで……向うは何か言って来てるの?」
「返してほしければ5万ワルド持ってこい――だと」
「な……」
僕は絶句した。無茶で法外な要求にもほどがある。だがディッドは、さらに言葉を続けた。
「続きもある。『今後は地所代として、月5万ワルドを納めること。条件が飲めない場合、メンバーの安全は保障できない』――ということだ」
……なんて法外な要求なんだ。たまたま今回、鎧ジカを狩ったから金があっただけで、普段からそんなに金を持ってるわけじゃないのに。
「……それで、ディッドはどうしたい、と?」
「相手は15人以上からなるメンバーで、中には戦闘職の奴が4人もいる。ことを構えたら、到底、太刀打ちできない。……クライン、申し訳ないが、リッドを助けるために金を出してくれないか。頼む」
ディッドはそう言うと、深々と頭を下げた。
周りにいたダガン、ゾーイとゴーイも僕に頭を下げる。
「判った。金を出すことを拒否するつもりはない。君に預けよう」
僕はそう言って、懐から1万ワルド出した。
ディッドが悔しそうな顔で、それを受けとる。が、僕はその手が離れる前に言った。
「けど、ディッド、それでいいのかい? ここで金を出して奴らに屈したら――ずっとむしられっぱなしだ。今後の地獄が待っている」
「しかし……他に手がないんだ――」
うつむくディッドに、僕は言った。
「相手のいる場所、主だったメンバーは判る?」
「判るが……お前、まさか――」
「そうだ。こっちから奇襲をかけて、リッドを奪還するんだ」
僕は言った。ディッドの眼が見開く。
「そんな……連中を相手に喧嘩するなんて――勝ち目がない」
「状況によるよ。15人くらいなんだろ? それで、戦闘スキルを持ってるのは4人。逆に言えば、奇襲でその4人を抑えてしまえば、後は非戦闘職。訓練を積んだ、僕らの方が強い」
「そんな……まさか――」
ディッドが驚いていると、ダガンが口を開いた。
「ディッド、俺もクラインの案に賛成だ。どうせだったら戦争しようぜ」
「お……おれたちも、そう思う。せっかく手に入れた金を渡すなんて――おれ、やだよ」
ゾーイがそう言うと、ゴーイも頷いた。
ディッドが眼を見開く。
「お前ら……判った。そこまで言うなら、俺も腹をくくるぜ。――よし、これまでの成果を見せつけてやる!」
「うん。それで――戦闘スキル持ちの四人は、どういうスキルか判る?」
僕の問いに、ディッドは口を開いた。
「まずリーダーのガルバト。こいつが剣士だ。そして残りの二人も剣士なんだ」
「あとの一人は?」
「魔導士。魔法を使うって聴いたことがある。連中は俺たちより年上で、ガルバトは16歳で、高等部に通ってる。スキルレベルは3……だと聞いてる」
「凄くいい情報だ。残りは?」
僕の問いに、ディッドはさらに話を続けた。
「もう一人の剣士は14歳でレベル1の剣士と、15歳でレベル2の剣士。そして15歳の魔導士で、スキルレベル1だって――聴いた話だ」
「なるほど――ガルバト以外は…勝てない相手じゃないと思うよ、ディッド」
僕は言った。ディッドが問う。
「何か作戦があるのか、クライン?」
「うん――まずは、みんなで灰集めをしてもらおうか」
僕の言葉に、皆が首を傾げた。
――そして数時間後、僕とディッドはある高層建築物の屋上にいた。
「此処から見えるあの倉庫――あそこが奴らの根城だ。来いって言われてるのも、あの場所だ」
天井で伏せたまま、ディッドが僕にそう囁く。
僕は屋上のへりから、そっと倉庫を覗き込んだ。
少し高い位置に天窓がある。そこから少し、中の様子が覗ける。
「あの奥にいる奴――あれが、リーダー?」
「そうだ。あれがガルバトだ」
顎がしっかりと張った、かなりの体格の奴だ。
「残りのスキル持ちが見えないかな?」
「なんか、ちょろちょろと動き回ってる。見えるかもしれない――あ、今、見えてるのがもう一人の剣士、レブルだ」
「あのそばかすね」
「ん――その傍にいて笑ってる眼鏡。あいつが魔導士のヤムだ。あ、今、ちょっと横切ったのが、15歳の剣士のレムナーだ」
「なるほど」
とりあえず、遠目ながら顔は覚えた。けど、本当ははっきり『測量』で把握したい。
「なんか、そういう機能ないかな?」
僕は『測量』スキルを立ち上げて、その操作パネルをよく見てみる。
――なんか、『登録』ってのがある。
「これ、使えるんじゃないか?」
僕は『登録』のボタンを押してみる。と、矢印が出る。
「これを対象に合わせて――『登録』!」
と、『登録名』という項目が出てくる。入力しないといけないのか!
じゃあ――リーダーのガルバトを『1』、レベル2の剣士を『2』、レベル1の剣士を『3』。魔導士を『4』に入力して、登録する。
「よし、これでいいぞ。『探索』1、2、3、4!」
探索の項目に登録名を入れると、彼らの頭上に矢印が表示されるようになった。
「よし! これで、かなり有利になった。――本当はリッドの居場所が判ればよかったんだけど」
「なんだ? 何かやってたのか、クライン?」
「うん、少し準備をね――みんなの処に戻って……襲撃開始だ!」
僕の声に、ディッドは頷いた。
――僕らは倉庫傍に隠れて潜んでいる。
「よし、作戦開始だ! 行くぞ!」
僕の合図で、皆が倉庫の扉の隙間、窓から包装紙で灰を包んだ煙玉を投げ込んだ。
煙玉は着弾した途端に破裂し、猛烈な灰を煙を巻き上げるはずだ。
「――うわ! なんだ、これ!?」
「煙たいぞ! 火事か?」
中の様子が騒がしくなる。
「バカ、落ち着け! 敵の襲撃だ!」
……冷静な奴もいるな。あんまり時間をかけられない。
「行くよ、みんな! 作戦は打ち合わせ通りで!」
「判った!」
「了解!」
事前の打ち合わせで、僕はこういう作戦をたてていた。
煙玉で混乱した敵地に飛び込んで、僕はスキル持ちのリーダー以外の三人をまず奇襲する。ビビったその三人を、ダガンが仕留める。
僕は事前にダガンに言った。
「ダガン、これは戦争だから、相手に手加減しなくていいからね」
「……なんだ、知ってたのか」
「判るさ。君がその気になれば、全員、一発で失神させることができるはずだ」
僕がそう言うと、ダガンはにっと笑った。
「ま、そういうことなら――まかしとけ」
「ディッドは、それ以外のスキル持ち全員を叩いて。ゾーイとゴーイはリッドの確保が最優先だ」
僕の言葉にディッドが頷く。そしてゾーイとゴーイも、拳を振り上げた。
「おれたちに任しとけよ!」
「おう、やってやるぜ!」
……大丈夫かな、ほんとに。実際、地下室に監禁されてたりしたら、リッドを見つけ出すのは時間がかかるだろうと思う。
けど、やるしかない。
――それが僕らの打ち合わせ。そして僕は声をあげた。
「じゃあ、全員、突入!」
「「「「オーッ!!!」」」




