第十話 抗争 1 天性の剣士
その週から僕は、スマート先生の紹介で戦闘職の授業に出られることになった。
「なんでこいつが、戦闘職のクラスにいるんだよ!」
ソクガが不満げな声をあげる。と、スマート先生はにこやかに言った。
「クラインくんは、調べた結果、準戦闘職だと判りました。皆も仲良くするように」
「準…戦闘職だと――」
ソクガが顔を歪ませる。
と、いきなり僕にくってかかった。
「てめぇ! まさか、本当は剣術スキルを持ってた――とかいうんじゃないだろうな!」
「まあ、そんなとこ」
僕は澄まして答えておいた。
「てめぇ……よくも騙しやがったな! まあいい、戦闘職クラスに来るって事は、模擬戦もやるってことだ。正々堂々、お前をぶちのめしてやるぜ」
「じゃあ――模擬戦やってみようか?」
僕はソクガと模擬戦をやってみた。
ちょっと考えて、僕は敢えて『剣術Lv2』を試用スキルにいれないでおいた。
素の状態で、どこまで剣術スキル持ちと戦えるか、確かめてみたかったのだ。
「行くぜ! ウラァァッ!」
……ひどい。剣術スキルを持ってるとは思えないほどの無駄な力みと大振り。
スキルを持っていてもこうなるって事は、本人の性格や資質にスキルの使用法も大きく影響を受けるということなんだろう。
僕はちょいちょいかわして、空いてるとこを適当に打つ。
「痛っ! てめぇ! 正々堂々と勝負しやがれ!」
「いや、だから勝負してるじゃん」
どういう頭の構造をしてるんだ、コイツ?
僕は面倒になって、小手を思いきり打った。
「痛っ! くそ……」
ソクガが木剣を取り落とし、勝負が決まる。
よく判った。僕はスキルを使わなくても、剣術Lv1のソクガと同等以上に戦える。
……やっぱり、スキルがなくても戦えるんだ。フォーミュラの言ってたことは間違いじゃなかった。
そんな想いを抱いてる僕に、声をかけてきた奴がいた。
「クライン――一手、お相手願えるかな?」
見ると、優等生でイケメンのラミスだ。単なる優等生なだけではなく、クラスで一番の剣の使い手だと話はきいていた。
「おい、ラミスがいったぜ」
「こりゃ、見ものだな!」
クラスの注目が、一気に僕らに集まる。
ラミスは爽やかに笑った。
「どうかな?」
「――僕でよければ」
僕らはそう言って、木剣を持って対峙する。
――これは……。
全然、ソクガとは違う、比較にならない隙のなさと圧力だ。
――手加減して戦える相手じゃない。
そう判断した僕は、ひそかに剣術Lv2をセットした。
「じゃあ――行かせてもらうよ!」
ラミスが来る。まずい、まだ心の準備ができてない。
僕は慌てて後退する。その鼻先を、木剣がかすめた。
「うわ……」
ヤバイヤバイ、ヤバイ! 『測量』を使うのも忘れてるぞ!
『測量』! ――距離265cm。
こっちの有効間合いは210cm。多分、向うも同じ。
距離220cm――少し入って誘う。
来ない。と、思っていたら、一気に急襲してくる。
こっちのタイミングをずらして、しかもこの思い切りの良さ!
「くっ!」
打ち込んできた面を受け、返す刀で胴を打ってくるのをさらに防ぐ。
離れ際に面を打つが、防がれる。
再び距離260cm。上手い――ラミスは今まで戦った相手のなかで、一番『上手い』。ラミスの端正な顔に、少し笑みが浮かんでる。余裕なのか?
誘っても中々、入ってこない以上、これはやはり『出ばな』を狙うしかない。
僕は木剣を構えなおした。
向うも中段で静かに構える。
そのまま接近しあい――切先が触れあう距離、200cm。
ラミスの切先が、僕の木剣を僅かに押してくる。
もうどっちも有効距離だ。けど、ラミスは打ちかかってこない。
「――ダァッ!」
僕は打ち込んだ。が、その瞬間、ラミスが打ち込んでくる。
まさか! 『出ばな』を狙ってたのは、向うもか!
しかも僕の木剣は僅かに逸れて、ラミスの頭頂部に届かなそうなのに、ラミスの木剣は僕の頭頂部に当たりそうだ。このまま打ち合えば、確実に打たれる。
「くぅっ!」
僕は打ち込みの途中で頭を逸らすと同時に、相手を打つのではなく、相手の木剣を弾くことに変えた。
ラミスの木剣が逸れて、僕らは至近距離でぶつかる。
「いやあ、今のは取れると思ったんだけどねえ。やるねえ、クライン」
「そっちこそ」
にこやかな笑顔で言うラミスに、僕は驚愕を禁じえなかった。
――彼のような人が、天性の資質から天職を得た人なのだろう。生まれついての才、生まれついての『剣士』だ。
「はい、そこまで~!」
授業終了の先生の合図があり、ラミスは軽く笑った。
「あ、残念。クラインから一本取れなかったな」
「いやぁ……危なかったし――完全に押されてた。ラミス、強いよ」
僕がそう言うと、ラミスが爽やかに笑う。
「クラスの中で一本取れなかったの、クラインだけだ。――今度は、取らせてもらうからね。フフ……楽しみが増えた」
ラミスはそう楽し気に言うと、歩き去っていった。
「楽しみ――か」
彼は戦う事を『楽しみ』、と思えるんだろう。
僕は正直、苦渋の選択ばかりしてきて、戦いが楽しいだなんて思ったことはない。
あれが天職『剣士』の本物だ。
――けど、僕は僕なりに強くなるしかない。
「――ね、戦闘職の授業出てたんでしょ? どうだった?」
授業が終わると、シェリルが僕のところに来て訊ねる。
「うん……ラミスと模擬戦やった」
「え!? それでどうなったの?」
「う~んと、時間切れ。けど――強かったなあ……」
僕は思い返して、ちょっとため息を洩らした。
が、シェリルは言う。
「ちょっと! ラミスと互角だったってこと? だけどラミスって、学年でもトップの剣技って聴いたよ。凄いじゃない、クライン」
「そうかあ、学年一か……なるほどね――」
僕が改めて感心してると、シェリルは別のことを訊いてきた。
「ね、クラインはその試用スキルってやつで、魔法は使えないの?」
「使えるよ。現に治癒魔法を試用スキルにしてる」
本当は色んな魔法使えるけど、試用スキルとして入れてるのは治癒魔法――という体でいくことにした。
「そうなの!? ね、じゃあ今度、魔法の授業受けようよ。きっと役に立つよ」
「そうだね……うん、考えとく」
僕がそう答えると、シェリルが嬉しそうに微笑んだ。
週末、僕は改めてクローミンク狩りにいってみたが――
――今度はいくら測量を使っても見つからない!
どうやら、最初に狩ったクローミンクが簡単に見つかったのは、相当に運が良かったらしい。しょうがないので角ウサギを狩る。
そして日曜日にディッドたちのところに行くと――妙な雰囲気だった。
「どうしたの? みんな」
「――リッドが…街の北の連中に拉致られた」
苦虫を噛み潰すように、ディッドがそう口にした。




