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泣きむし測量士は、剣聖になりたい! ~非戦闘職がギリギリの戦いに臨む時~  作者: さとうはるか


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4 まだ早すぎる


 トミーは全部1000ワルド札で12枚よこした。

 僕はそれを、みんなに2000ワルドずつ配る。


 ――と、ディッドが口を開く。


「なあ……クラインが仕留めたんだから、クラインの取り分はもっと多くていいんじゃねえのか?」

「確かにな――」


 ダガンもそれに頷く。が、僕は言った。


「ちょっと! みんなで狩ったんだよ。僕一人の力で狩ったんじゃない! みんなで均等に分けようよ!」

「……ま、お前がそう言うんなら、な」


 デイッドは苦笑しながら納得した。

 その様子を微笑みながら見ていたトミーが口を開く。


「金になるのはこれからだ。角はドーマの処に持っていくといい。けど、鎧は武具屋だな。残念ながら、この商店街にはない。ファーストリアの武具屋にでも持っていって、買い取ってもらうんだな」

「ファーストリアの武具屋なら知ってるぜ。そこに行こう」


 ディッドがそう言うので、僕らはトミーの店を出ることにした。


「じゃあ、色々ありがとうトミー」

「ああ。……あ、ちょっとクライン、話があるんだがな」

「なに?」


 僕が訊き返すと、トミーが少し黙っている。と、ディッドが口を開いた。


「俺たち、先に出て待ってるぜ」

「あ、判った。すぐ行く」


 そう言ってディッドを見送ると、トミーが真剣な面持ちで口を開いた。

 

「クライン……あの鎧ジカ――本当にお前たちが狩ったものか?」

「え? ……そ、そうだけど」

「誰か、大人の剣士の狩ったものを盗んだりとか――そんな事してないよな?」


 トミーが僕を覗き込む。本気で疑ってるらしい。


「してないよ! 正真正銘……僕が狩った――」

「お前がか……」


 僕は黙って頷く。トミーは言った。


「あいつらは――ファーストリアの下層街辺りのガキどもか?」

「そうだけど……」


 トミーは真剣な面持ちで言った。


「お前とあいつらじゃあ、生まれが違う。そのこと――判ってるか?」

「生まれなんて……そんなの、もうすぐ関係なくなるんだ」


 僕の言葉に、トミーは息をついた。


「ふむ……生まれっていう言い方でピンと来なきゃ別の言い方をするが――お前は特別だ」

「え……?」

「お前は、よくも悪くも特別だ。彼らと行動をともにするってことは。お前の特別な運命に彼らを巻き込むかもしれない。……そんなこと、考えたことあるか?」


 僕は首を振った。僕が特別なんて――全然、そんな風に思えない。


「ま、判らんか。そりゃそうだな。じゃあ一つだけ、大事なことを言ってやろう。立場が違ったとしても……友達は大事にしろよ」

「うん。それなら――保証できるよ!」

「そうか。じゃあ、行け」


 トミーはそう言って笑顔を見せる。僕は少し釈然としない気持ちを抱きながらも、トミーの店を後にした。


 それから近くのドーマの店に行って、角を売る。


「こりゃ、大したもんだね!」


 ドーマはそう言いながら、僕らに1800ワルドくれた。これを一人300ワルドで分ける。


 その後はディッドが知ってるという、ファーストリアの武具屋に向かった。

 正直、移動距離ばかり長くて疲れたが、それでも頑張って移動した。


 武具屋はウィラポンという武具屋で、結構、しっかりとした店構えの大きな店だ。

 店に入ると、ディッドが声をあげる。


「旦那、いるかい?」


 従業員がうさんくさそうにディッドを見ると、奥へ引っ込んでいった。

 出てきたのは、口髭を生やしたおじさんだ。


「なんだ、ディッドか――何の用だ?」

「買い取ってほしいもんがあるんだよ」


 ディッドが軽く笑う。ウィラポンは怪訝な顔をした。


「なんだ?」

「鎧ジカの鎧部分」


 ウィラポンが少し顔を変えて、首を振ってディッドを促した。


「お前だけ、来い」

「お前ら、表で待っててくれ」


 ディドが中に入ってる間、僕らは店の外で待った。

 ちょっと不安がよぎる。……もしかして、買い取りなんて無理、とか。

 凄い安値で買いたたかれるとか――


 考えてみれば商店街のトミーやドーマは、御近所だ。そう無茶なことはできない。し、顔見知りの僕にサービスもしてくれる。

 それに対して、此処は都会だ。色んな人が来て、ひっきりなしに客が来る。

 甘い商売はしてられない――


「――あ、ディッド!」


 ディッドが出てきた。なんか……思わしくない、顔をしている。


「ディッド――どうだったんだよ?」


 ゴーイが訊いた。ディッドは顔を上げた。暗い顔だ。

 ……なんだろう?


「実はな……」


 ごくり、とみんなで唾を呑む。


「――60000ワルドになったぞ!」


 ディッドが声をあげて、僕らは驚きに包まれた。


「本当か!? すげぇ!」

「すげぇ、すげぇよ、ディッド!」


 わっと群がる僕らに、ディッドは笑った。


「ハハ……俺もびっくりしたよ。こんな高額になるんだな、鎧ジカって」


 確かに。クローミンクの倍だ。いや、肉代と角代を含めれば、鎧ジカの方がぐっと高額だ。


「ところで、ウィラポンからなんか話があったのか?」

「いや……鎧部分に傷一つないから、お前らどっかからか盗んできたんじゃないだろうな、って念を押されただけさ」

「なるほど。――で、なんて答えたんだ?」

「俺の仲間で、間違いなく仕留めた――そう答えたさ」


 ディッドは少し誇らしげに言った。

 それから僕らは教会に戻ると、ディッドが皆に10000ワルドずつ配った。

 リッドやゾーイ、ゴーイの双子は、眼を見開いている。


「おれ……こんな大金持つの――生まれて初めて……」

「オレもだ――」


 ゾーイに続けて、リッドが呟く。と、ディッドが言った。


「いいか、急に金を持ったからって、大きな気になってやたら使うなよ。基本的には貯めておいて、本当に将来のために必要な時に使うんだ」


 しかしディッドの言葉を聴くと、ゴーイが言った。


「けどさあ、なくなったら、また鎧ジカを狩りにいけばいいじゃん! もう、金の心配なんかしなくてもよくね?」

「――ダメだ!」


 僕は思わず叫んだ。思いがけない僕の大声に、皆が驚いている。

 けど――これだけは言っとかなくちゃ!


「ダメだ! 鎧ジカを狩りに行くのは――当分、ダメだ!」

「なんでだよ!」


 ゴーイが反発する。だが、僕は言った。


「今回……たまたま鎧ジカが運よく仕留められたけど……本当は危なかった。僕が鎧ジカを狩りに行こうって言った時は、まだ治癒魔法が使える状態じゃなかった。だから全然――危険性をちゃんと判ってなかったんだ」


 僕の真剣な言葉に、皆が注目してる。


「今回、ディッドが負傷したのを治癒できたけど、本当はそんな予定じゃなかった。けど、その甘い見積もりのままだったら……ディッドは死んでたかもしれないんだ」


 僕はそう言って、みんな表情を見回す。と、ディッドが口を開いた。


「俺もクラインの言う通りだと思う。俺も鎧ジカを甘くみて、腹をやられた。もしクラインがいなかったら、そのまま死んでただろう。……残念だけど、俺たちには、まだ鎧ジカは早い」


 ディッドはそう言うと、苦笑して僕を見る。僕もそれに頷いた。


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