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泣きむし測量士は、剣聖になりたい! ~非戦闘職がギリギリの戦いに臨む時~  作者: さとうはるか


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3 買い取り価格


 鎧ジカを倒した……と、思った途端、膝から力が抜けて僕は地面に座り込む。


「あ――あれ?」

「大丈夫、クライン?」


 リッドが寄って来て、肩を貸してくれる。――いや、倒れてる場合じゃない!

 僕は思い出した。ディッドが負傷したことを。


「ディッド! ――大丈夫かい!?」


 僕は声をあげながら、リッドに助けられながらディッドに歩み寄った。

 ディッドは座り込んだまま、苦笑してみせる。


「……なんでもねえよ、このくらい」


 そう言ってるディッドの顔色が――明らかに悪い。出血のせいだ。

 僕はディッドの傍に座り込んだ。


「傷を見せて」

「……気にすんな――」

「そんなわけいかないだろ」


 だが、その腹の手をどけて出血量を見た途端、僕は息を呑んだ。


「ディッド、こんなに深い傷が!」

「チッ……ヘマしちまったな――情けねえ」


 ディッドは苦笑する。と、僕を静かに見つめた。


「クライン……お前は大した奴だ。俺は――お前に会えてよかった。それだけは確かに言えることだ……」


 ディッド――


「――ちょっと! 何、死ぬ前に言い残すみたいな雰囲気出してるの! 死なせたりしないからね!」

「そうは言っても……お前――」


 僕はディッドに傷口に手をかざした。


治癒(ヒール)!」


 ディッドの眼が驚きに開かれる。


「クライン……お前、治癒魔法が使えるのか?」

「本当に、先週くらいから使えるようになったんだ。『試用』スキルのスロットが二つに増えててさ――念のために、『治癒』を選んどいて本当によかった」


 僕は息をついた。これは本当の気持ちだ。


「そう……だったのか――」


 ディッドは拍子抜けしたのと、安堵した気持がないまぜになった顔をした。

 ディッドの傷が治る。よかった、もう大丈夫。


「ディッドはもう大丈夫。――ダガン! 君も怪我してるだろ?」

「ああ……カッコ悪ぃが、腕を骨折した」


 ダガンが腕を右腕を左手で抱えるようにして歩いて来る。


「鎧ジカの蹴りが来たとき、咄嗟に腕でガードしたんだ。蹴りだったから、反応できたんだろうな、角の攻撃だったら、多分、やられてたと思う」

「そうか……拳闘スキルが反応したんだね。けど身体に当たってたら、肋骨くらい折られてたってことか」


 僕はそう言いながら、ダガンの折れた腕にも治癒を施した。


「う――く~沁みるなぁ……」

「ちゃんとまっすぐにした状態で治癒したから、これで大丈夫なはずだよ」


 僕らはやっと、全員が安堵の笑みを浮かべた。――と、リッドが口を開く。


「いやぁ……しかし、凄かったな鎧ジカ。こいつ、強かったよね?」

「うん……けど、トミーの話だと、鎧ジカでもEランクだ」

「え? 下から二番目? そんなに弱いって扱いなの?」


 ゾーイが驚きの声をあげる。僕はそれに答えた。


「けど、よく考えたら、こいつは例えば火とか毒とか吐かないし、再生能力が凄く高い――みたいな特殊能力もない。考えてみれば、モンスターとしてはEランクなのかも――」


 僕の言葉に、皆、押し黙る。僕らがあんなに苦労した鎧ジカでも、全然、下のランクなのだ。

雰囲気を変えるために、僕は言った。


「けど、こいつは割合高値で売れるらしいんだ。だから、いいんじゃないかな?」

「そうだな! 今すぐ、売りに行こうぜ!」


 ゴーイも気分を変えるように、声をあげた。


「じゃ――今度は俺の本領発揮だな」


 ディッドが立ち上がると、倒れてる鎧ジカに掌を向けた。


「亜次元収納」


 ディッドの手から光が差すと、巨大な鎧ジカの身体が一瞬で消える。


「えぇっっ!?」


 一瞬だが――確かに見た。巨大な鎧ジカの身体が、ディッドの手の前の空間に、吸い込まれるように消えていった。


「これが『運搬士』である俺の、基本スキルさ。便利だろ?」

「う、うん! 凄いや、ディッド!」


 僕は本当に感心した。なんて便利なんだ、運搬スキル。

 ――今度、狩りに行った時、僕も使おう。


 そうして僕らは、トミーの店に行った。


「おう、クライン。珍しいな、今日は友達づれか?」

「うん。見てほしいものがあるんだけど」


 僕はディッドに目線を送る。と、ディッドが掌をかざし、鎧ジカを出した。


「おぉっ! お前、まさか――本当に鎧ジカを狩ってくるとはなぁ! 驚いたぜ」


 トミーが心底、驚いた声を出した。僕は言う。


「買い取ってくれるんだよね?」

「ああ、いいぜ。しかしこりゃあ――」


 トミーは台の上の鎧ジカをしげしげと見る。


「頭部以外に、ほとんど傷なし……凄腕の剣士でもいたのか?」

「クラインがやったんだよ!」


 リッドが声をあげる。あ――なんか、ちょっと余計な感じ。


「あ、いや……ロープで足をからめて弱らせてたから、たまたまいい処に当たったんだよ。ほんと、運がよかった」

「そうか! お前――ついてるな!」


 トミーがにっこり笑う。


「そうだな……若い牡ジカか。俺が解体する手数料も差っ引いて――10000ワルド」

「おぉ…」

「――と、言いたいところだが、お前ら六人か。サービスで12000ワルドにしといてやるよ」


 トミーがそう言って、にっと笑ったのを見て、僕らは歓声をあげた。


「それじゃあ、解体するから待ってな」

「あ、トミー! 僕ら、そいつの腹の革が欲しいんだけど」

「ん? そうなのか? しかしそれを使用するには、なめさないといけないぜ」


 トミーの言葉に、ゾーイとゴーイが声をあげる。


「教えてもらえれば、おれたち自分たちでやるけど!」

「おれたち、天職が製造士なんだ」


 ゾーイとゴーイが口を揃えてそう言った。そうだったのか。


「お、そうなのか。それじゃあ……解体するところも見るか?」

「「うん!」」


 トミーについて、ゾーイとゴーイは奥の部屋に行く。

 ディッドは苦笑いをしながら言った。


「俺はちょっとグロいのは勘弁だぜ」

「そうか、二人は製造士だったんだね。ディッドが運搬士で、ダガンが拳闘士。――リッドは?」


 僕はリッドに訊いた。と、リッドがにこにこしながら答える。


「おれはまだ天職授与されてないよ」

「リッドは今年12歳。天職授与は来年だな」


 ダガンがそう言い添えて、リッドの頭に手を置く。

 そうか、リッドは僕より年下だったんだ。まあ、よく考えれば背も低いし、不思議じゃない。


「おれ、カッコいい天職が欲しいな~。剣士とか、魔導士とか」

「天職は家系を受け継ぎやすいからな、お前だったら調理士だろ」

「そうかなあ……まあ、おれ料理人嫌いじゃないから、それでもいいけど」


 リッドはそう言って笑った。どうやら――リッドの親は料理人だったらしい。

 そんな話をしていると、トミーが奥から出てくる。


「ほい、より分けた革と、角、それに肝心な鎧だ」

「わぁ、ありがとう、トミー」

「それと――買い取り金な」


 トミーが差し出したお金に、僕らは目を輝かせた。


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