2 鎧ジカとの一戦
茂みの上に、矢印が出ている。見えにくいけど、鎧ジカがいる証だ。
「いた! 距離にして227m」
「え? 何処?」
「静かに。もっと接近しよう」
僕の合図で、皆は気配を殺しながら鎧ジカに近づいた。
開けた空間の外側まで来た。これ以上、気付かれずに接近するのは難しい。
「よし――じゃあ、ロープ作戦いこう」
「了解!」
僕の合図で、皆が動き出す。武器をまず手にする。
ディッドとダガンは鉄パイプ――僕はまだ剣は抜かない。
僕は用意したロープの一部を持つ。ゾーイとゴーイが両端を持って、左右逆に駆けていく。
ロープの流さは30m。僕とリッドが、その中間地点を持つ。
ゾーイとゴーイは離れた場所から、鎧ジカの後ろに回り込むように移動する。
僕とリッドは二人にロープを送りこみながら、少し距離をとって広がる。
僕とリッドの線を底辺にして、ゾーイとゴーイが三角形を作るように鎧ジカを遠くから囲んでいく。――まだ、気付いてない。
ゾーイとゴーイが合流する。三角形が完成だ。後はこのロープを狭めて、鎧ジカの脚を封じる。
僕は右手を上げた。そのサインに気付き、ゾーイとゴーイが駆け出す。
異変に気付いた鎧ジカが、周囲を見回す。けど、ゾーイとゴーイは交差するように、鎧ジカの横をすり抜けた。
「今だ、放して!」
僕の合図で、リッドと僕がロープを放す。
動き出した鎧ジカが移動しようとして、その脚がロープに絡む。
「いいぞ! 一斉に引くんだ!」
僕とリッドはそれぞれ、ゾーイとゴーイの傍にいってロープを持って引くのを手伝う。急激に迫るロープの輪に、鎧ジカの脚がとられた。
「ブルルルッ!」
鼻息を荒くした鎧ジカが、動こうとするが――ロープに足が縛られてその場に転んだ。
「今だ、やるぜ!」
ディッドの合図で、ダガンと二人で飛び出す。
ディッドは暴れる鎧ジカの頭を一撃、鉄パイプで殴った。
「ブフゥーッ!」
鎧ジカが怒りの鼻息をあげる。が、その胴体をダガンが鉄パイプで殴る。
が、カーン、という高い響きとともに、ダガンの鉄パイプが跳ね返る。
「くそ、なんて硬さだ!」
ダガンの声を聴くとともに、僕は剣を抜きながら飛び出した。
「鎧の部分にはきかねえ! 頭を狙うんだ!」
ディッドが声をあげる。しかし鎧ジカの頭には、立派な角が聳えていた。
鎧ジカは自身の生命の危機を感じ、角をブンブンと振り回して防衛している。
「くそ、こいつ!」
ダガンが背後から殴ろうとするが、振り回した角で鉄パイプが弾かれる。
「動きを止めなきゃダメだ。俺が停めるから、クラインがとどめをさせ!」
「判った!」
ディッドは鉄パイプを角の間にねじ込むと、それを無理やりに引き倒して鎧ジカの動きを止めた。
「今だ、やれ! クライン!」
「おうっ!」
僕が剣を振り上げたその時だった。
「ブルルゥーッ!!」
鎧ジカが大きく暴れる。それは――想像以上の力だ。
抑え込んでいたディッドが浮かされ、飛ばされた。
「――ぐあっ!」
飛ばされたディッドの腹に、暴れた鎧ジカの角が突き刺さった。
「ディッド!!」
ディッドが転がる。そして鎧ジカは急激に立ち上がると、思いきり跳びあがった。
「うわぁっ!」
「ひえっ!」
ゾーイとゴーイ、リッドがロープに引っ張られて地面に飛ばされている。
「この野郎!」
ダガンが鉄パイプで打ちかかった。が、鎧ジカは後ろ足で、ダガンを蹴り飛ばす。
ダガンが悶絶しながら、地面に転がった。
――僕以外……全員が地面に転がっている。
「ブシュゥルルル……」
鎧ジカが、完全にロープから脱して、前足で地面を蹴っている。
その眼は――僕を睨んでいた。
最後の敵である僕に、標準を定めたんだ。
「駄目だ、クライン! 強すぎる、逃げろ!」
ディッドが叫ぶ。
……確かにそうだった。この強さ、想像以上だった。
けど、今、目の前にいるこいつは――僕を逃すつもりがない。
「ブシュゥゥゥ……」
鼻息を荒くして、鎧ジカは頭を下げた。
その角で、僕を突き刺すつもりだ。
こいつ相手には――クローミンクに使った『峡谷の旋風』は使えない。
下から突き上げるには、こいつの戦闘体勢が低すぎる。
上から斬りつけるんだ。けど――よく見ると……角と角の間に鎧がある。
あそこを割ろうと思ったけど、あの防御力では普通に斬っても斬れない可能性が高い。
今――こいつとの距離は325cm。相手は突進してくる。
『出ばな技』を使って、攻撃を入れるしかない。けど、威力が足らない。
どうする? ……瞬間、僕の脳裏に剣舞のある型が閃いた。
『大輪の花引き』――フォーミュラはそう呼んでいた。もの凄く大きな動きの技だ。あれなら――
僕は剣を後ろに構えた。
鎧ジカには僕の剣が見えてないだろう。そして無防備な僕の顔と身体が見えてるはずだ。
「ブシューッ!」
――来る! その距離、220cm。
まだだ! まだ踏み込まない。その距離、180cm!
「クライン!」
周囲から声が上がる。まだだ。まだ動くな、堪えろ――最大の威力を出すために、相手を引きつけるんだ。
距離150cm――まだ!
「クライン、逃げろ!」
「クライン!」
距離80cm――今だ!
「タァッ!」
僕は左足を下げて後退しながら、後ろに構えた剣を大きく振り斬る。
力を入れず、大きな円を頭上で描くように。
剣が――鎧ジカの額に割って入るのが見える。
引く力と刀の重さ、そして力を抜いた振り切る力が、その剣の斬撃力を生んだ。
鎧ジカの額から、顎までを斬りおとす。
剣を振り抜いた後、絶命した鎧ジカが前のめりに倒れてきた。
「う――わあぁっっ!」
慌てて逃げようとするが、鎧ジカが前転するように僕の方に転がりこんでくる。
僕の下半身に、鎧ジカがどっかり乗っかった。
――が、鎧ジカは、それきり動こうとはしなかった。
「お……おい――」
「や……やったのか?」
ゾーイとゴーイが、恐る恐る近づいて、鎧ジカを鉄パイプでつつく。
が、鎧ジカはもう動かない。
「やったーっ! やったぜ、クライン!」
「おれたちの勝利だ!!!」
僕は苦笑しながら、安堵のため息をついた。




