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泣きむし測量士は、剣聖になりたい! ~非戦闘職がギリギリの戦いに臨む時~  作者: さとうはるか


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第九話  鎧ジカ狩り  1 スマート先生の思惑


 僕は、久しぶりにシェリルと肩を並べて歩いた。

 その帰路につく途中、スマート先生とすれ違う。


「あ、スマート先生、どうもありがとうございました」


 僕は礼をする。と、スマート先生は爽やかな笑みを浮かべた。


「うん。なんでも相談してくれていいからね。――恋の話でもいいぞぉ?」


 スマート先生がいたずらっぽく僕とシェリルを覗き込む。

 ちょ――ちょっと慌てた。


「そ、それじゃあ先生、さようなら!」

「はい、さようなら」


 先生に挨拶をして歩き進むと、シェリルが訊いてきた。


「スマート先生となんの話したの?」

「進路のこととか。準戦闘職の話もスマート先生から聴いたんだ」

「へ~、スマート先生、若くてイケメンだから女子にも人気あるんだよ」

「ふ~ん」


 シェリルが僕を上目遣いで見る。


「あたしがどう思ってるか……気になる?」

「いや、別に」

「ちょっと~、なんでよお」


 そう言いながら、シェリルは僕の腕をふざけて引っ張る。

 ――と、それをやめると、不意に僕の腕を抱きかかえるように寄り添って来た。


「シェリル?」

「いいでしょ……最近、冷たかったんだから――」

「うん……」


 僕とシェリルは、しばらく腕を組んで歩いた。



■  ■   ■   ■   ■   ■   ■   ■



 シェリルと腕を組んで去っていく姿を――スマートはじっと見つめていた。


「呑気なものだな――まあ、若いというのは、そういうことか」


 スマートはそう呟くと踵を返し、そつなく帰りの準備をして同僚の教師に挨拶をすると、学校を出た。


 スマートはしばらく歩いていたが、やがて馬車を拾いファートリアまで赴く。

 そこでスマートは一つの薄暗い店に入っていった。


「スマートです」

「……通りなさい」


 フードをすっぽりとかぶった人物が、入り口でそう告げる。

 スマートは奥の廊下へと進むと、扉の前で立ち止まった。緊張した面持ちで、ノックする。


「入りなさい」


 中から声がして、そこにはぐるりと弧を描くテーブルに、十三人ほどの人物が着席していた。全員、灰色のフードをすっぽりと被り、顔が見えない。

 スマートは床に膝をついて、頭を垂れた。


「緊急報告というのはなんだね、同志スマート?」


 その中で、真ん中の人物の右隣に座る人物が声をあげた。年配の男性の声である。


「はい――異端教徒……あるいは、異端教徒に利用されそうな人物を発見しました。まずはご報告をと参上した次第です」


 スマートが声をあげる。


「異端教徒――君の生徒かね?」

「はい。彼はどうやら――天職以外のスキルを利用できるものと思われます」

「なんだって!」


 弧の端の方の人物から、声があがった。


「天職によるスキル制限がなければ――世界は途端に無秩序に帰してしまう。その能力を異端教徒に量産されたら……大変なことになりますぞ」

「どういう生徒なのだね?」


 弧の向かい側から、別の声があがる。


「一見普通の少年ですが……『測量士』という見慣れぬ天職を授与されてます」

「『測量士』?」

「なんだ、それは? 聞いたことがない」


 あちこちから上がる声に応えるように、スマートは口を開いた。


「どうやら『スキル測量』というスキルで、他の職業スキルを取得できるようです。本人は隠していましたが、その可能性はかなり広範囲に及ぶもの――と想像します」

「想像かね!」

「本人を捕らえて、強制鑑定すべきなのでは?」


 その声に対し、スマートは言った。


「その少年は――剣聖クレア・ソルの息子、クライン・クロスフォードです」

「「なんと!」」

「あの災いの……」


 フードを被った長老たちがざわめいた。と、スマートは抜け目のない顔で口を開く。


「乱暴な事をしては相手も貴族の子息。面倒なことになるでしょう、ましてやあの剣聖の息子となると――」

「何か考えがあるのかね、同志スマート?」


 中央に座るフードの人物が、しわがれた声で訊ねた。


「しばらくは様子を見て、監視したいと思います。それほど脅威にならない才ならばよし。そうでない場合は――」

「……よかろう。その者の件はお前に預ける。しかし――できれば、その能力を伸ばすのだ」


 意外な答えに、スマートは驚きをみせた。


「能力を――伸ばすのですか?」

「その才が有用でなければ、異端教徒も食いついてはこまい。そしてもし、我らに利用価値があるなら――相応の手をうつ」


 スマートは頭を深く垂れた。


「承知いたしました! 深い洞察、感嘆するばかりにございます」

「クライン・クロスフォードか……」


 中央のフードの人物は、そう呟くとその姿が消えた。

 それを皮切りに、全員の姿が消える。

 

 一人残されたスマートは立ち上がると、口に笑みを浮かべた。


「フフ……とんだ田舎に押しやられたと思っていたが――彼を利用すれば、俺は出世できる!」


 スマートはそう呟くと、ポケットに手を突っ込んで部屋を後にした。



○  ○   ○   ○   ○   ○   ○   ○



 僕は週末になると、ディッドたちの処へ向かった。

 みんな、鎧ジカ狩りに行くので、熱気がムンムンしていた。


「オレが一撃、加えてやるぜ!」

「お前のへなちょこ打撃がきくかよ」

「なんだと?」


 そんな騒ぎの中、僕はディッドに訊ねる。


「あれ……? 運搬用の荷車は?」


 それをレミールに引かせて帰ろうと思ってたんだ。

 と、ディッドななんなく言う。


「あ、それは俺がいるから必要ない」

「え? どういうこと?」

「ま、獲れてからのお楽しみだな」


 ディッドがそう言って笑うので、僕はそれ以上追及しないことにした。

 イカタ山は案外遠く、僕はレミールを置いてみんなと歩いた。


 のどかな日よりで、みんなくだらない話をしながら、笑って歩いている。

 なんか……ピクニックみたいだ。こんな楽しい時間が、ずっと続けばいい。


 やがてイカタ山が見えてくる。僕はそこでみんなに言った。


「この辺で一回、探索してみる」


 僕は『探索対象』のところに『鎧ジカ』と入れて、イカタ山を眺めた。


「あ――いた!」

「え? どこ? どの辺??」


 みんな目を凝らして探してる。けど、判らないらしい。

 ――実のところ、僕も肉眼ではほとんど判らない。スキルが『いる』って教えてくれてるだけだ。


「僕にも実は判らないんだけど……あの山の中腹辺り。距離にして3、5km」

「そんなの、判るか!」

「まあけど、いるのは判った。もっと接近しよう」


 そう言って僕らは山を登る。視界が樹々に遮られると、もう『測量』はできない。

 

「なあ、クライン、そろそろなんじゃねえの?」


 そうディッドが洩らした時、その視界の先に少し開けた草原がある。

 その中に――鎧ジカがいた。


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