第九話 鎧ジカ狩り 1 スマート先生の思惑
僕は、久しぶりにシェリルと肩を並べて歩いた。
その帰路につく途中、スマート先生とすれ違う。
「あ、スマート先生、どうもありがとうございました」
僕は礼をする。と、スマート先生は爽やかな笑みを浮かべた。
「うん。なんでも相談してくれていいからね。――恋の話でもいいぞぉ?」
スマート先生がいたずらっぽく僕とシェリルを覗き込む。
ちょ――ちょっと慌てた。
「そ、それじゃあ先生、さようなら!」
「はい、さようなら」
先生に挨拶をして歩き進むと、シェリルが訊いてきた。
「スマート先生となんの話したの?」
「進路のこととか。準戦闘職の話もスマート先生から聴いたんだ」
「へ~、スマート先生、若くてイケメンだから女子にも人気あるんだよ」
「ふ~ん」
シェリルが僕を上目遣いで見る。
「あたしがどう思ってるか……気になる?」
「いや、別に」
「ちょっと~、なんでよお」
そう言いながら、シェリルは僕の腕をふざけて引っ張る。
――と、それをやめると、不意に僕の腕を抱きかかえるように寄り添って来た。
「シェリル?」
「いいでしょ……最近、冷たかったんだから――」
「うん……」
僕とシェリルは、しばらく腕を組んで歩いた。
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シェリルと腕を組んで去っていく姿を――スマートはじっと見つめていた。
「呑気なものだな――まあ、若いというのは、そういうことか」
スマートはそう呟くと踵を返し、そつなく帰りの準備をして同僚の教師に挨拶をすると、学校を出た。
スマートはしばらく歩いていたが、やがて馬車を拾いファートリアまで赴く。
そこでスマートは一つの薄暗い店に入っていった。
「スマートです」
「……通りなさい」
フードをすっぽりとかぶった人物が、入り口でそう告げる。
スマートは奥の廊下へと進むと、扉の前で立ち止まった。緊張した面持ちで、ノックする。
「入りなさい」
中から声がして、そこにはぐるりと弧を描くテーブルに、十三人ほどの人物が着席していた。全員、灰色のフードをすっぽりと被り、顔が見えない。
スマートは床に膝をついて、頭を垂れた。
「緊急報告というのはなんだね、同志スマート?」
その中で、真ん中の人物の右隣に座る人物が声をあげた。年配の男性の声である。
「はい――異端教徒……あるいは、異端教徒に利用されそうな人物を発見しました。まずはご報告をと参上した次第です」
スマートが声をあげる。
「異端教徒――君の生徒かね?」
「はい。彼はどうやら――天職以外のスキルを利用できるものと思われます」
「なんだって!」
弧の端の方の人物から、声があがった。
「天職によるスキル制限がなければ――世界は途端に無秩序に帰してしまう。その能力を異端教徒に量産されたら……大変なことになりますぞ」
「どういう生徒なのだね?」
弧の向かい側から、別の声があがる。
「一見普通の少年ですが……『測量士』という見慣れぬ天職を授与されてます」
「『測量士』?」
「なんだ、それは? 聞いたことがない」
あちこちから上がる声に応えるように、スマートは口を開いた。
「どうやら『スキル測量』というスキルで、他の職業スキルを取得できるようです。本人は隠していましたが、その可能性はかなり広範囲に及ぶもの――と想像します」
「想像かね!」
「本人を捕らえて、強制鑑定すべきなのでは?」
その声に対し、スマートは言った。
「その少年は――剣聖クレア・ソルの息子、クライン・クロスフォードです」
「「なんと!」」
「あの災いの……」
フードを被った長老たちがざわめいた。と、スマートは抜け目のない顔で口を開く。
「乱暴な事をしては相手も貴族の子息。面倒なことになるでしょう、ましてやあの剣聖の息子となると――」
「何か考えがあるのかね、同志スマート?」
中央に座るフードの人物が、しわがれた声で訊ねた。
「しばらくは様子を見て、監視したいと思います。それほど脅威にならない才ならばよし。そうでない場合は――」
「……よかろう。その者の件はお前に預ける。しかし――できれば、その能力を伸ばすのだ」
意外な答えに、スマートは驚きをみせた。
「能力を――伸ばすのですか?」
「その才が有用でなければ、異端教徒も食いついてはこまい。そしてもし、我らに利用価値があるなら――相応の手をうつ」
スマートは頭を深く垂れた。
「承知いたしました! 深い洞察、感嘆するばかりにございます」
「クライン・クロスフォードか……」
中央のフードの人物は、そう呟くとその姿が消えた。
それを皮切りに、全員の姿が消える。
一人残されたスマートは立ち上がると、口に笑みを浮かべた。
「フフ……とんだ田舎に押しやられたと思っていたが――彼を利用すれば、俺は出世できる!」
スマートはそう呟くと、ポケットに手を突っ込んで部屋を後にした。
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僕は週末になると、ディッドたちの処へ向かった。
みんな、鎧ジカ狩りに行くので、熱気がムンムンしていた。
「オレが一撃、加えてやるぜ!」
「お前のへなちょこ打撃がきくかよ」
「なんだと?」
そんな騒ぎの中、僕はディッドに訊ねる。
「あれ……? 運搬用の荷車は?」
それをレミールに引かせて帰ろうと思ってたんだ。
と、ディッドななんなく言う。
「あ、それは俺がいるから必要ない」
「え? どういうこと?」
「ま、獲れてからのお楽しみだな」
ディッドがそう言って笑うので、僕はそれ以上追及しないことにした。
イカタ山は案外遠く、僕はレミールを置いてみんなと歩いた。
のどかな日よりで、みんなくだらない話をしながら、笑って歩いている。
なんか……ピクニックみたいだ。こんな楽しい時間が、ずっと続けばいい。
やがてイカタ山が見えてくる。僕はそこでみんなに言った。
「この辺で一回、探索してみる」
僕は『探索対象』のところに『鎧ジカ』と入れて、イカタ山を眺めた。
「あ――いた!」
「え? どこ? どの辺??」
みんな目を凝らして探してる。けど、判らないらしい。
――実のところ、僕も肉眼ではほとんど判らない。スキルが『いる』って教えてくれてるだけだ。
「僕にも実は判らないんだけど……あの山の中腹辺り。距離にして3、5km」
「そんなの、判るか!」
「まあけど、いるのは判った。もっと接近しよう」
そう言って僕らは山を登る。視界が樹々に遮られると、もう『測量』はできない。
「なあ、クライン、そろそろなんじゃねえの?」
そうディッドが洩らした時、その視界の先に少し開けた草原がある。
その中に――鎧ジカがいた。




