4 準戦闘職
スマート先生の声に応えたのは――シェリルだった。
「先生、ソクガが一方的にクラインに殴りかかったんです! あたし、見てました。他の生徒も見てます!」
シェリルが赤い髪を揺らしながら、そう訴える。
スマート先生は周囲の生徒を見回すと、生徒の何人かはそれに頷いた。
……よかった。とりあえず、僕が悪いわけではないのは判ってもらえそうだ。
「それで――何故、ソクガの方が倒れてるんだね?」
「あの……ソクガのパンチを避けた時、たまたま僕の拳がソクガの腹に当たったんです」
僕はそう答えておいた。スマート先生は、僕をじっと凝視する。
「――非戦闘職の君が、戦闘職のソクガをやっつけるのは、今回が初めてじゃないな?」
「……はい。だけど――」
僕は抗弁しようとしたが、先生はそれを遮った。
「いい。その事を責めたいわけじゃない。――ソクガ」
「……はい」
ソクガは腹を押さえながら、のろのろと立ち上がった。
「非戦闘職に暴力を使ったりしたら、退学だと前に伝えなかったか?」
「それは……そいつがシェリルを泣かしていたのを見たからです! オレはただ、そういう奴を許しちゃおけないと思っただけです」
ソクガが悔しそうにそう言う。先生はシェリルの方を振り返った。
「シェリル、クラインに泣かされたのは事実かね?」
「……はい、先生。けど――それはあたしの勝手な想いのせいで……クラインが悪いんじゃありません」
シェリルはそう言った。スマート先生は、その答えに深く頷く。
「判った。ソクガも純粋な悪意じゃなかったのなら、今回のことは私の胸にしまっておく。シェリルもそれで構わないか?」
「……はい」
シェリルが頷く。僕は少し安堵したが、その僕に向かってスマート先生は言った。
「クライン、君はちょっと来なさい」
僕はぎくり、としながらも頷いた。教室の外へ出て行くスマート先生の後についていく。
その通り過ぎざま、ペンターが謝るように両手を合わせた。
いや、君らが悪いんじゃないのは判ってる。
僕は首を振った後で、笑ってみせた。
スマート先生は『相談室』と書かれた小さな部屋に入った。僕も続けて入る。
対面するように席に座ると、スマート先生は僕に言った。
「さて……君の話を聞きたいんだが」
「話って――さっき言った通りですが……」
スマート先生は苦笑する。
「誤魔化せると思ってるのかい? 無理な話だよ。いいかい、非戦闘職がどういう状況であれ、戦いにおいて戦闘職に勝つなんてありえないんだ。しかも君は、一度だけじゃない。……君、戦闘スキルを持ってるだろう? ステイタスを見せてみなさい」
――来た。やっぱり……これか。
僕は観念して、手首を差し出してステイタスを見せる。
「――このスキル『スキル測量』の項目に、『試用スキル』というのがあるね。ここに『剣術Lv2』が入っている。間違いないね?」
「……はい。間違いありません」
「これは一体――どういう事なんだね?」
どこまで本当の事を話す? 一瞬、考えた挙句、僕はディッドたちにしたのと同じ説明にした。
「その『スキル測量』はスキルを『試用』できるスキルらしくて、それで『剣術』を『試用』してるんです」
「つまり君は、戦闘スキルを取得できるんだな?」
「……けど、天職のような補正はありません。あくまで仮というか、やっぱり試す――のが、本来のスキルだと思います」
僕の説明に、スマート先生は僕の眼を覗き込むように問うてきた。
「……君はどれくらい、他のスキルを『試用』できるんだね?」
ここが要だ。ここで「ほぼ全てのスキル」などと答えたら、多分、大変なことになる。
「……限られた数で――その中で一番取りたかった『剣術』を選びました」
「限られた数というと、具体的にどれくらいだい?」
「剣術、拳闘術、弓術――あと、魔法が二、三種だったと思います」
僕は焦る気持ちを抑えながら、そう答えた。
「『思う』――というのは?」
「『剣術』を取得したら、もう候補の表示がされなくなってしまったんで」
スマート先生は興味深そうに頷いたが、さらに問いを重ねてきた。
「どうして今まで、戦闘スキルを取得できることを黙ってたんだね?」
「あの……入学してから、『スキル測量』のスキルを取得して、そういうスキルだと気づいたんです。今さら戦闘職クラスに変更もできないだろうと思って――」
この言い訳で……どうだ?
内心、焦る気持ちはあったが、スマート先生は微笑んだ。
「そうか。君自身も、その『測量士』という天職に戸惑ってたんだな?」
「はい」
「転職の中には、例えば運搬士のように上級職になってから戦闘スキルを取得できるものがあったりする。ある条件を満たすと実用職でも戦闘スキルと取得することが可能なケースがままあるんだ。恐らく、君の測量士もその類だろう」
「そうなんですか」
僕はホッとした様子を見せた。実際、先生がそれで納得してくれたからだ。
「だから、君が戦闘スキルを持ってることは、別に隠すようなことでもない。そういう天職は、『準戦闘職』という扱いになるんだ」
「そうなんですか」
……そのこと自体は、僕も初めて知った。そうなのかぁ。
「君の登録を『準戦闘職』にしておこう。そうすれば授業によっては、戦闘職クラスの授業を選択することも可能だよ」
「そうなんですか――ありがとうございます」
僕は素直に頭を下げた。……もし、戦闘職クラスに入って訓練できれば――もっと強くなれるかもしれない。
スマート先生は、微笑して言った。
「君の天職はレア職だ。判らないことも多いだろう――何か迷ったり困ったことがあれば……遠慮なく相談するんだよ」
「判りました、先生」
僕はスマート先生に礼をした。
先生の話はそれで終わり、僕は教室に戻る。少し注目されてた気もするが、僕はなんだか気が軽くなって気分がよかった。
学校が終わり、僕は帰路につこうとするシェリルを追いかけた。
「シェリル!」
シェリルが振り返る。なんだか――微妙な表情だ。
「シェリル、その――さっきはかばってくれて…ありがとう」
僕は素直に礼を言った。シェリルは首を振った。
「なんでもないよ。ただ、ありのままを言っただけ――それに、ソクガにこれ以上、大きな顔されても……あたし困るし」
シェリルはそう言って苦笑した。
「クラインに言われて……あたし、自分の矛盾に気が付いたの。ソクガみたいに貴族だからと言って威張るのは凄い嫌いだったんだけど――けど、じゃあ自分はその貴族だってことに……やっぱり依存してる」
シェリルはそう言うと、微笑しながら僕の方を見た。
「そう考えるとね、下層街の子供たちと親しくしてるクラインって……やっぱり凄いんだなって」
「――僕は別に……」
そうせざるを得なかったから、そうなっただけだ。
けど――
「今回の件でさ、知ったことがあるんだ」
僕がそう言うと、シェリルは少し驚いたように顔をあげた。
「なに?」
「測量士ってさ、『準戦闘職』なんだって」
「え?」
呆気にとられるシェリルに、僕は続けた。
「だからね、実は『剣術』スキルと取得できたんだよ。ずっと黙ってたけど」
「そう……なの?」
「うん。だから――希望で、戦闘職クラスの授業も受けられって、先生に教えてもらったんだ。……一緒に授業を――受けられると思う」
僕はそう言った。シェリルが驚いた後に、微笑んだ。
「そう……なんだ」
その微笑みがあまりにも可愛くて――今は、一緒にいたいんだと…思った。




