3 からんでくるソクガ
皆と鎧ジカを狩りに行く約束をしたので、僕はトミーに鎧ジカの居場所を聞きにいった。
「なに!? お前、鎧ジカを狙うのか? お前じゃあ危険だ、やめとけ!」
「僕だけじゃないんだ。他に五人いて、戦闘スキルを持ってる人もいる」
嘘はついてない。トミーは僕の話を聞いて、少し息をついた。
「ふん……まあ、そういう事なら――鎧ジカはイカタ山で見つけやすいって聴いてる。けどな、あいつの外皮は凄く硬いにも関わらず軽い。だから防具の素材として高価で買いとられるんだ。で、肉も実は美味い。もし狩れたら、まず俺のところに持ってこい。必要な解体をして、肉を買い取ってやる」
「うん、頼むよ!」
僕はトミーの約束をとりつけ、上機嫌でうちに帰った。
その一週間は、とにかく熱心に剣と拳闘の素振りに励んだ。
少しでも鎧ジカ戦の前に、強くなっておきたい。
そんな思いが僕を突き動かしていた。
そんなある日、就寝前に僕はふと何気なくステイタスを開いてみた。
「考えてみたら――もっと色んなスキルも『試用』できるんだよな……」
そう。まったく忘れてたけど、実は『火炎魔法』も使える。
けど鎧ジカを倒すのには、火炎魔法はあまりよくなさそうだ。素材が悪くなってしまう。
――と、僕はある事に気付いて、ベッドの上で跳び起きた。
「こ――これは!」
見ると、『試用』スキルのスロットが、二つに増えている!
「うわ! なんで今まで気づかなかったんだろ! いつから? いや――まあいいけど……」
これは凄く大きな成長だ! 何故なら僕は鎧ジカ狩りの際に、『剣術』ともう一つのスキルを使えることになる。
「もう一つは――やっぱり…あれかな」
僕はそれでも、その日から色々考えた。
学校でも、なんか対鎧ジカ戦のことを考えて、ペンターたちに声をかけられてハッと気付いたりしてる。
そんななか、帰ろうとする僕を呼び止める声がした。
「クライン……」
振り返ると――シェリルだ。
胸の前で両手を組んで、僕に向かってゆっくり歩いて来る。
僕は待った。シェリルが悲し気な顔をして、僕に言った。
「クライン……あたし――何かクラインを怒らせるようなことした? のかな」
もう、泣きそうな顔になってるシェリルに、僕は首を振って見せた。
「何もしてないよ。シェリルは悪くない」
「けど……ちょっと前から――あたしのこと避けてるよね?」
そう問われて――答えに詰まる。
確かにそうだった。
僕とシェリルじゃ、不釣り合いすぎる。そう思って、もうシェリルを遠ざけるように振る舞っていたからだ。
「僕と君とじゃ……釣り合わないんだよ」
僕は視線を逸らして、そう口にした。
「どうして? あたしが戦闘職で、クラインが実用職だから? そんなの関係ないじゃない! あたしは別に戦闘職に就きたいわけじゃないし――それに、クラインは実用職かもしれないけど、強いじゃない!」
シェリルが必死な顔でそう言う。
――もう、言ってしまおう。シェリルに、本当のことを。
「シェリル、僕はね――中等部を卒業したら、家を追い出されることになってる。そしてクロスフォードを名乗ることも禁止されるんだ」
シェリルの顔が、驚きに変わる。
「……だから、いずれ僕は貴族じゃなくなる。君が忌み嫌った、下層街の少年たちと、今は仲良くさせてもらってるんだ。僕はいずれ……彼らの側で生きることになるから」
「そんな! 忌み嫌ってなんか――」
そう言いかけたシェリルを、僕は静かに見つめた。
僕の視線の意味が判ったらしく、シェリルの顔が何かを悟る。
「さよなら」
僕はそれだけ言うと、シェリルに背を向けた。
――これでいい。これでいいはずだ。
「――うっ……くぅ……」
小さな泣き声が後ろから聞こえる。けど僕は――そのまま立ち去った。
しかし、事はそれだけで終わらなかった。
「――おい、クライン。ちょっと話があるんだがな」
翌日、そう言って僕の席に寄ってきたのは、ソクガだ。
いつもそうだが、僕に憎々し気な視線をぶつけてきてる。
「僕は別に、君と話すことないけど?」
「なんだと!」
いきりたつソクガを、取り巻きが制した。
と、ソクガが僕に言う。
「お前、シェリルを泣かせたろ!?」
「……君には関係ないだろ」
僕がそう言うと、ソクガはいきなり僕の胸倉を掴んで僕を席から立たせた。
「ふざけんな! 関係あるから、てめぇに言ってんだろうが! アンバー家とブラッド家が、親戚になる可能性だってあるんだよ!」
「……それって、君がシェリルと結婚するって意味?」
僕が胸倉を掴まれたままそう訊くと、ソクガは顔を赤くして僕を突き放した。
「そ、そうさ! オレはな、父さんにアンバー家のことも話したんだ。父さんは乗り気だった」
ソクガは自慢げにそう話す。
「あ、そう。じゃあ好きにすればいいんじゃない? 僕には関係のない話だ」
「関係あるって言ってんだろうが! シェリルを泣かせるような奴は、オレは許さねえ。おい、クライン、土下座して謝れ。そしたら許してやる」
「なんで、僕が君に土下座するわけ? 話が見えないんだけど?」
僕がそう言うと、遂にソクガは怒って拳を振り上げてきた。
「てめぇのそのスカした態度が気に入らねえんだよ!」
拳で僕に殴りかかって来る。――が、ダガンより、全然、遅いし大振りだ。
僕はサッとかわして、横から前のめりになったソクガをちょっと押してやる。
「うわぁっ!」
前につんのめるソクガが、空いてる生徒の席に突っ込んで、机と椅子をなぎ倒す。
その物音に、クラス中の視線が集まった。
「ほら、騒ぎになるから、もうやめなよ」
「うるせぇ! てめぇ……思い知らせてやるぞ――」
ソクガが急に、剣を持ってないが剣の構えをとる。
と、そこから剣を握った形の縦拳を打ち込んできた。
これは鋭くて速い! さすが、天職・剣士だ。
が、僕は後退しながら、その拳を左前手で払い落す。
ソクガの体勢を崩しながら、僕は右拳をソクガの腹にぶちこんだ。
「ぐええっっ!!」
ソクガが呻いて、床に倒れる。
「ぐ……ぐぅぅぇぇ――」
結構、キツめのが腹に入った。ソクガ自身が動いてたから、あいつのスピード分まで、威力になってしまったんだろう。
「あ――」
ふと気づいた。そうか、これが打撃における有効な打法だ。
つまり、相手がこっちに迫る速さを利用すれば、打撃の威力が上乗せされる。
「なるほど……これを意識的に打てるようになれば――」
そう考えて、また気付いた。ダガンがやってた、ストレートをかわしてのフックやボディアッパーは、ダガンがその気になったら、もっと威力がある打撃なんだ。
仲間内だから、ダガンは手加減してくれてるんだな。
「――おい、何をやってるんだ!」
そこに飛び込んできたのは、担任のスマート先生の声だ。
名前の通りスラッとしているが、まだ若く真面目な先生。
その隣にはペンターとケリル。どうやら、二人が先生を連れてきたらしい。僕がソクガに痛い目に合されると思ったんだろう。けど――
「……どういう事だ、これは?」
スマート先生がそう声をあげた瞬間、別の場所からそれに答える声がした。




