4 クローミンクとの戦い
トミーの言葉に、僕は疑問が沸いた。
「傷なしって――どうやって捕まえるの?」
「頭部はいいんだ、使わないからな。だから頭部だけを狙って仕留める」
トミーは笑いながらそう言った。簡単そうに言うけど――そりゃあ、難題だ。
週末、僕は教わったクローミンクのいる山へと向かった。
「――さて、測量!」
一帯を測量してみる。ただし『索敵対象』の項目に『クローミンク』と入れる。これで角ウサギのように、視界に入れば反応があるはずだけど――
と、反応があった! 茂みの上に矢印が立っている。
距離――370m。僕は気配を殺しつつ接近する。
矢印が移動する。気づかれたか? いや……けど、クローミンクは獰猛で、角ウサギも捕食対象だという。僕が近づけば――僕を餌と見るはずだ。
距離43m。もうすぐ傍だ。
そろり、と茂みからクローミンクが姿を現した。大きなイタチだ。体長193cm。
――美しい。光沢のある純白の体毛だ。凄く美しい生き物だ。
けど、その美しさと反するように、赤い目つきは鋭く、その爪は長く伸びていた。
「シャァァァァッ!」
立ち上がって、僕を威嚇する。怯えた獲物を仕留めるスタイルなのだろう。
けど、僕は怯えない。剣を抜いて構えた。
距離12m。立ち上がったクローミンクは、驚いたことに人のように二足歩行で近寄って来る。体高は157cm。僕より少し低いくらいだ。尻尾が寝てる分、体長に比べると短くなってる。
両手はだらんと垂らしているが、その手には三本の長い爪が伸びていた。
爪の長さは42cm。研いだ刃物のように鉄色に光っている。
「ルルルルル……」
唸っている。歌ってるような、奇妙な唸り声だ。狩りの前に、上機嫌で歌ってるようにすら見える。
と、突然、クローミンクが動いた。その立ち姿を捨てて、四足になる。
「シャアァァァァッ!」
疾風のような速さで駆けてきた。
距離8……6…5、4、3m!
一気に距離を詰めてくるクローミンクに、僕は剣を構えた。
「シャアァァァッッ!!」
距離が320cmの処で、スローミンクは跳びかかってきた。
ミンクの鉄のクローが僕を襲う。
僕は後退して一撃目をかわすが、ミンクはそれを予期していたかのように、逆手の爪を振って来ていた。
「しまった!」
かわしきれない! 右肩が斬られる。
「ぐあぁっっ!」
右肩に三本の爪が喰い込むのが判る。僕は深手を避けるために、さらに後退する。
と、同時に、剣を振り上げる。
「シャッ!」
クローミンクがかわす。しまった――もしクローミンクがかわしてなかったら、胴体を傷つけていた。
とはいえ、本気でかからなければ僕が殺されかねない強さだ。
「ルルルルル……」
クローミンクはしなやかな動きで、僕の周囲を四足で歩く。
距離は340cm――こいつ、人間の攻撃範囲を把握してるのか?
「シャァッ!」
短いジャンプで、ミンクが爪を振ってくる。
僕はその攻撃を剣で受ける。と、ミンクはもう、元の場所に退いている。
「なんて奴だ……」
こいつ、踏み込みすぎて反撃されるのを警戒してる。
自分の安全距離から、獲物をいたぶって仕留めるスタイルなんだろう。
ゆっくり周回してるかと思うと、急に跳びかかってきたり、身を潜めて足元を狙って来る。
どうする? どうしたら、こいつの頭部だけを仕留めることができる?
――ふと思った。
『剣舞』の型を使えないか?
僕が想い出したのは、『峡谷の旋風』という最初の方の型だ。
身を低く沈めて、片脚を伸ばした後に、その方に身体を移動させて上方に剣を突きあげる型。
あれが――使えるんじゃないだろうか?
クローミンクが飛びかかってきた瞬間に、下から突き上げる。
クローミンクは自分より背の高い僕が、下から攻撃してくるとは思わないだろう。
けど――クローミンクに、僕の頭部の方に跳びかからせることが重要だ。
「お前と同じ構えだ」
僕は構えていた剣をだらりと下に降ろした。
スローミンクが、何か? という顔で一瞬だけ足を止める。
が、また警戒しながら歩き出す。
僕は距離を詰める。その距離310cm――奴の攻撃圏内だ!
「シャアアアァァァッ!!」
好機、とみてクローミンクが跳びかかってくる。
「今だ!」
僕は身を沈めて片足を伸ばす。剣舞の型『峡谷の旋風』!
谷間を吹き抜ける風が、その谷の中で舞い上がるように――
跳んだクローミンクが、頭上に向かって来ている。
その距離が詰まるところで、僕は剣を突き上げた。
「ギャァァァ!」
クローミンクの顎から頭頂部までを、僕の剣が貫いた。
「グル……ルル…ゥ――」
クローミンクが静かになり、その身体がぐったりとする。
僕は息をついた。
「ふぅ……なんとか狩れた――。けど……負傷しちゃったな」
自分の肩を見る。綺麗に三本線が入り、赤く染まっている。
僕は『試用』スキルから『剣術』を抜いた。
無論、10分待って『治癒』スキルを入れるためだ。
その間、改めてクローミンクと見ると、もう人間に近いサイズなのでちょっと恐い気がする。まるで、人が倒れてるようだ。
ここに倒れてるのが――もし、僕だったら。
ふと考えて、倒れてる美しいクローミンクの姿が、一瞬、自分に見えた。
「いやいやいや!」
ブルブルと顔を振った。
そうならないために、もっと強くならないと。
僕は10分経って治癒スキルを試用し、傷をとりあえず治した。
傷が治ったので、やっとクローミンクを担げる。
「……事前に大きさを聴いとくんだったよ」
そうぼやきながら、僕はトミーの店までクローミンクを持って行った。
「おぉぉ!? お前、本当にクローミンク狩ってきたのか!?」
トミーが驚きの声をあげる。と、笑いながら僕に言った。
「そいつは俺の店じゃなくて、向うの服飾屋に行くんだな。レミーナの店だ」
「え、どこ?」
「初回だからな、連れてってやるよ」
そう言うとトミーは、僕をレミーナ洋服店に案内してくれた。
「あらまあ、クローミンク!? 凄いじゃない!」
出てきたのは年齢不詳だけど、結構いってそうなご婦人だ。
かなり派手な格好と化粧をしている。
「こいつ、俺の店に角ウサギの肉とか持ってきてくれてるクライン。驚いたことに、クローミンクを自分で狩ってきたんで、こっちに連れてきたのさ」
「まあまあ、可愛い顔して凄いわねぇ、坊や。ちょっと見せてちょうだい」
そう言うと婦人は、テーブルの上に置いたクローミンクを見始めた。
「まあ! 顔以外まったく傷がない! 素晴らしいわ、坊や!」
「あの……坊やはちょっと――」
僕が閉口した様子を見せると、婦人は我に返って苦笑した。
「あらあ、ごめんなさいね。え~と、クラインくん、だっけ? わたしはレミーナ。よろしくね」
「こちらこそ――よろしくお願いします」




