3 スキル持ちとそうでない者の違い
ダガンは少し興奮した様子で声をあげた。
「そう! それだよ、オレが思ってたのは!」
「え? なにが?」
僕を含め、みんなが首を傾げてると、ダガンが言った。
「みんなと模擬戦をやって、オレが体格でデカいし力も強いから、強い打撃を打てると思われてるけど――オレはむしろ力を入れてないんだ!」
その言葉を聴いたディッドが、眉をひそめた。
「おい、そんなわけねえだろ。喰らうと、滅茶苦茶きくんだぞ」
「けど――オレの感覚としてはそうなんだよ。今までうまく言葉にできなかったけど……クラインに言われて、ようやく判った」
そう言ってダガンは少し興奮した様子で僕を見た。
ディッドも怪訝そうな顔で僕を見る。これは、どうしたものか――
「それじゃあさ、まずダガン、打撃の技を幾つか見せてよ」
「相手は?」
「いや、相手なしで。多分、スキルを使ってるなら、できると思うよ」
「そうか?」
自分でも首を傾げながら、ダガンは身構える。
僕はその間に、『視像再現』スキルの録画ボタンを準備した。
「よし、準備できたよ。やってみて」
「準備って――なんの? …まあ、いいか」
そう言うと、ダガンが拳を突き出す。既に録画ボタンは押している。
「まずは牽制や先制攻撃に使う、ジャブ」
左前の半身になって、ダガンは左拳を繰り出す。
「半歩から一歩踏み出しながら、前手の拳を打ち込む感じ。押し込むよりも、撃った後の引きつけの速さの方が大事」
ダガンはそう言うと、数発ジャブを繰り出した。
と、右のパンチを思いきり伸ばす。
「こいつはストレート。ジャブで牽制して、ストレートで決める。ストレートの方は、相手を撃ち抜くイメージ。ワン・ツーと覚える」
「それが拳闘――殴り合いの技術だね。興味深い。そのまま、ちょっと動いてみて」
僕がリクエストすると、ダガンはさらに数種類のパンチを見せた。
「これがフック。近距離の相手を横から打ち抜く。それと――アッパー。相手の顎を打ち抜く」
ダガンが打撃を披露した後で、僕はディッドに言った。
「ディッド、いつもやってる感じの打撃を出してみて」
「え? 相手もいないところにか?」
「うん。ダガンがやってたみたいに」
ディッドは困り顔をしながら出てきた。
「相手がいないと、感じが出ないんだよな――」
そう言いながら、ディッドは力を込めて、ブンブンと拳を振り回す。
相手がいるように見て、思いっきり殴っていた。
「ようし、いいよ。じゃあ、次は――模擬戦をやってみて」
「判ったけど――どうするんだ?」
「分析だよ」
僕は笑ってみせた。と、ダガンは革製の手袋を持ってくる。
「それは?」
「拳闘用のグローブ。拳の部分に綿が詰まってるんだ」
『拳闘』という見世物が、貴族の間で好まれてるって聴いたことがある。
それ用の防具――ってことか。
そしてダガンとディッドの、拳闘の模擬戦が始まった。
渾身の一撃を連続で繰り出すディッドに対し、ダガンはフットワークを使って軽くかわしながら、隙ができたところに的確に拳を打ち込んでいく。
その実力差は明らかだった。すぐにいいのがディッドの顎に入り、ディッドが地面に倒れる。
「あ~っ! もう無理だろ! やっぱスキル持ちはつえぇよ!」
寝転がったまま、ディッドは悔しそうに声をあげる。
僕は苦笑しながら、声をかけた。
「二人ともご苦労さん。それじゃあ、二人の模擬戦を見返してみようか」
「見返す? え……そんなことできんの?」
ダガンが驚いたように声をあげた。ディッドも身体を起こす。
見ていたゾーイとゴーイ、それにリッドが寄って来る。
僕は『視像再現』のウィンドウから、二人の模擬戦を選択して『再生』する。
と、二人の模擬戦が始まったので、僕はウィンドウを外に出して皆に見せる。
「え! 何これ!?」
「測量士のスキル、『視像再現』っていうスキルの、見たものを再生する能力」
「すげぇ……」
皆が感心する中、ダガンとディッドの模擬戦が再生される。
特にディッドとダガンは、瞬きを忘れるほど凝視していた。
「うわ! 俺、こんな大振りなの?」
「あ~、今、踏み込んで打ったら決まってたなぁ」
二人とも、自分なりに反省があったらしい。
僕はさらに言った。
「ディッドとダガンの戦い方の違いがよく判ったよね? これを踏まえた上で、二人の打撃の『素振り』を見てみるよ」
そうして最初にやった二人の打撃の空打ちを見る。
「――ダガンの空打ちは、力が抜けて鋭さがある。それに対して、ディッドは力強いけど、その後の隙が大きい。そして模擬戦を見て判るように、実は威力もダガンの方が上だ」
僕がそう言うと、ディッドは面白くなさそうな顔で声をあげた。
「確かにお前の言う通りだけどよ……こんなスキル持ちと、そうでない者の差、どうしようもないだろ?」
「どうしようもある!」
僕があげた声に、皆がビックリした。
「この差を埋めるのが『素振り』だ。打撃の場合はなんていうのか判らないけど――つまり、打撃の基本形を力を抜いて反復練習すること。ダガンは空打ちの時に、ちゃんとそれができてる。これを模倣して一人練習を積めば、ダガンみたいな力が抜けた無駄のない打撃をできるはずだ」
僕の断言に、皆、驚いた顔をしていた。僕はさらに言葉を続ける。
「僕はその実証のために、このダガンの打撃練習を一週間、やってみる。そしたらきっと、僕の打撃は――少しは進化してるはずだ」
「なるほど……それで、俺たちには木剣の『素振り』を勧めるわけだな。いいぜ、やってみよう。それで強くなるんなら、なんでもやってみようじゃないか」
ディッド不敵な笑みを浮かべながらそう言った。僕は大きく頷いた。
翌日から僕は、学校が終わると、今までやってた木剣の素振り、剣舞の練習に加えて、ダガンの打撃の練習をするようにした。
準備スキルとして獲得できるなかに、『拳闘』のスキルもある。
けど僕は、敢えてこれは自分の理論を実証するために、取得しないでいた。
スキルを取得しつつ練習すれば、多分、成果は凄くあがる。
けどそれじゃあ、スキルなしでも強くなれるという事の証にならない。
打撃は、純粋にスキルなしで訓練してみようと思ったんだ。
「――ね、クライン。週末とかさ、あいてない?」
僕が訓練の仕方なんかに思考を巡らせていると、シェリルが声をかけてきた。
凄く微笑んでいて、やっぱり可愛い。
けど――
「ごめん。週末は……しばらく空きそうにないや」
「そ……そうなんだ。――なにしてるの?」
シェリルが無理に微笑を維持したまま、そう訊いてくる。
モンスター狩りと、街の少年たちとの戦闘訓練――とか、到底、言えない。
「――なんでもいいだろ」
僕はぼそり、と言った。
瞬間、シェリルの顔色が変わったのが判った。
「そ……そうなんだ――。ごめんね……」
そう言い残すと、シェリルが駆け足で離れていく。
その背中を見ると、赤い髪を揺らしながら、シェリルは教室を出て行った。
――泣いてたのかな? けど……
土台、僕とシェリルじゃ分不相応だ。それを思いきったはずじゃないか。
それを早めに理解した方が、シェリルのためでもある。
どこか胸が痛んだが――そう思って、割り切ろうと決めた。
僕は学校の帰りに、肉屋のトミーの処にいって訊いた。
「ね、鎧ジカほどじゃないにしても、角ウサギより稼げるモンスターっていないの?」
「あん? ああ、肉にしないことを考えるなら、クローミンクとかいいかもな」
トミーの答えに、僕は首を傾げてみせた。
「クローミンクは、毛皮が高級品として買いとられる。ただし傷なしが条件だぞ」




