2 ディッドたちとの訓練
ペンターの言葉は――僕には、少し重すぎた。
「いや……シェリルと僕とじゃ――不釣り合いすぎる」
そう言った僕を、目を丸くしてペンターが見てる。ケリルは前髪が長すぎて、目がどうなってるのか見えない。――まあいいんだ。
僕は帰ってから素振りと剣舞を続ける日々を送った。
そして週末――僕はとりあえず角ウサギを10匹狩ると、少し考えた。
「もう……今のレベルでは、角ウサギでは練習相手にならないな」
それだけ、自分が強くなったんだ。――それだけは、自覚した。
だからと言って、浮かれるほどじゃない。先はまだ長いんだ。
また商店街に行き、トミーの店に行って肉を売る。
僕は訊いてみた。
「ねえ、トミー。角ウサギよりも高く買う肉って何?」
「そうだなぁ……ま、とりあえず鎧ジカ、それに火炎イノシシ――かな」
鎧くらい硬い鹿? それに――火炎を使う猪?
明らかにヤバいモンスターだ。けど、それらだと肉ももっと高くなるのか。
「おいおい、妙なこと考えてるんじゃないだろうな? 角ウサギはFランクだけど、鎧ジカはEランクだぞ。お前みたいな小僧じゃあ……大変だぞ」
大変――てことは、勝てない相手じゃないってことだよね。
僕はドーマの処にも行って、2000ワルド稼いだ。
そして翌日は、ディッドたちの処に行く。
ディッドたちに、どういう訓練をしてるのか訊いてみた。
「そりゃあ模擬戦さ! ま、致命傷になんないように、棒でやってるんだけどな」
「よし、じゃあ僕もやってみるよ」
そして僕は、木剣でディッド以外の四人と模擬戦をやった。
背の低いリッドは、年も幼いためか打ち込みも甘い。打ち込んだ後に自分がふらついて隙だらけになる。
ゾーイとゴーイは機敏な動きが特徴的な二人だ。結構、強いと思ったが、測量スキルを使い、誘っておいてからのかわし斬りでとりあえず勝利。
そしてダガンだが――
「デカいな……」
体格が大きく、間合いが僕より有利だ。
向かい合うと、ダガンは棒を片手でこちらに向ける。
「へへ……オレもクラインとやってみたかったんだよ」
ダガンはそう言って笑った。と、急に眼が真剣になる。
ダガンは一気に入って来る。――本気の打ち込みだ!
「くっ!」
僕はかろうじて、それを後退してかわす。ダガンの大振りの棒が、僕の前をかすめる。よし――ここで反撃!
と、思った瞬間、何か気配がある。
ダガンが身体を旋回させたかと思うと、いきなり後ろ回し蹴りが僕を狙って来た。
「な――」
ギリギリのところでかわせた。僕のお腹の表面を、蹴りがかすめる。
僕は素早く横移動し、棒をダガンの首元で止めた。
「あ~、やられちまったかぁ。いけると思ったんだがなぁ」
ダガンが笑いながら、そう声をあげた。
僕はそれに返す。
「いやぁ……ビックリしたよ。急に武器以外の攻撃が来るんだもん」
そう言うと、ディッドが笑いながら口を開く。
「ダガンは俺たちの中で、唯一の戦闘職なんだ」
「え? 戦闘職? 何なの?」
僕の問いにダガンが笑いながら答える。
「オレの天職はなあ……『拳闘士』なんだよ」
『拳闘士』――それは戦闘職とはいえ、ある種の不遇職と言われてる職業だ。
剣と魔法が趨勢のこの世界で、敢えて素手で戦う拳闘士はイレギュラーだ。
剣士はなりたてでも、大体、モンスター狩りをできるのに対し、拳闘士がモンスターを狩れるのは、大体、レベル5から――と言われている。
おまけに拳闘士は就職にも不利だ。王宮を護衛する護衛職や、兵士としても拳闘士は人気がなく、あまり採用されない。よほどの強さがないと、評価されないという話だ。
そういう事情を僕が知ってるのを悟ると、ダガンは苦笑した。
「ま、そういう顔になるよな。おまけに親に捨てられた孤児ときてる。これで、いい処に就職しようってのが、そもそも無理な願望だ」
「いや……そんなことは――」
僕がそう言いかけると、ダガンは手の平を向けた。
「いいんだよ、気ぃ使うなって。そういう事でくさってたオレを、ディッドが一喝したのさ。『お前の人生、天職だとかスキルだとか、孤児だとか――そういう生まれや環境で全部決まるのか? じゃあ、お前自身はどこにいるんだ?』ってな」
ダガンはそう言って、ディッドを見る。
ディッドは静かに苦笑しただけだった。
そうか……このグループは、ディッドの生まれや境遇を跳ね返す――という志に惹かれて集まったメンバーなんだ。
「だからオレは、ここで訓練を積んで――王宮護衛兵になるのが夢なんだ」
「うん。なれると思う――真面目な話。武器術を使うとみせて、体術も織り込んでくるなんて、なかなかない戦闘スタイルだ。きっと評価する人がいる」
僕がそう分析したままを話すと、ダガンは喜色を浮かべた。
「ほんとか! なんか、クラインにそう言われると、本当にそんな気がしてくるから嬉しいぜ」
「おためごかしじゃないよ。王立武統学院は何より実力主義だって聞いてるけど、王宮警護職もそれに準じる実力主義だ。本当に実力さえあれば――夢じゃない、と思う」
僕は本気で言った。ディッドがそこに口を開く。
「ま、何になるにしたって、実力を上げるのはいずれ将来のためさ。みんな、クラインの実力も判ったろ。こいつは大した実力の持ち主だ」
その言葉を聴いて、ゾーイが口を開く。
「それにしてもさあ、おれたちのスピード勝負にも対応しちゃうんだからなあ。クラインの剣術スキル、やっぱり凄いよ」
「そう言えばクライン、どうして非戦闘職なのに戦闘スキルがとれるんだ? ……まあ、そういう天職だと言われりゃあ、それで終いなんだけどさ」
ディッドの疑問に対して、僕は用意しておいた回答をした。
「僕のこの『測量士』という職業の固有スキルに、『スキル測量』っていうスキルがある」
「スキル測量?」
「スキルそれ自体の働きを『測量』する――そういうスキルらしい。それで、『試用』――試し運転みたいな形で、僕は戦闘スキルを使えるんだ」
僕の説明に、ディッドがさらに質問を投げかける。
「え! それじゃあ、他の戦闘職のスキルを『試用』し放題なのか?」
「ううん。試用できるのは一つだけだし限りもある。ただ、これは試用――固定じゃなくて『外せる』んだ。だから僕は、剣術アリの状態とナシの状態を作れる」
僕がそう言うと、皆、ポカンとしてる。
「え~と……アリの状態の意味は判るよ? けど、ナシの状態の意味あるの?」
ディッドがそう訊いてきた。僕はそれに答える。
「そこなんだ! 実はスキルがない状態で訓練をすると、その後にスキルを入れたら、それまでよりよく動けるんだ。つまり、ナシの状態で訓練すると、成長の度合いが高い――というのが僕の結論だ」
「え? それって、オレたちがやってるような模擬戦か? けど、それは普通だろ」
ディッドの驚いた顔を見ながら、僕は言った。
「僕が自分に課したのは『素振り』。それにモンスター狩りだ」
「……『すぶり』ってなんだ?」
皆が首を傾げてる。無理もない。僕もそうだった。
「素振りっていうのは、基本の剣の振り方を反復練習すること。その時は、特に何も打ったりしない」
「え? 何も打たないのか? ……それで剣が上手くなる?」
ディッドは納得しかねるらしい。けど、僕は言った。
「間違いなく、素振りを繰り返すことが上達への道だ。ただ、僕はスキルを入れた素振りと、入れてない素振りの双方を試すことで、スキル持ちの時はより力を入れない素振りをするんだと気づいた」
「力を入れない!? だって、戦ってる相手を倒すために、力を入れるだろうによ!」
ディッドが反論する。けど、僕は冷静に説明した。
「実はそうじゃないんだ。スキルを持つってことは、無駄な力を入れず、適切な身体の使い方で戦えるようになるってことだ。無暗に力を入れて剣を振ってたら、まず疲れが早いし、狙いが外れた時に無防備になりやすい。実は力を入れずに武器を扱うって、大事なことなんだ」
僕がそう言うと、黙って聞いていたダガンが「それだ!」と、声をあげた。




