第七話 自主訓練 1 仲間入り
僕は木剣で模擬戦をやっているディッドたちに、声をかけた。
「こんにちは」
「誰――お! クラインじゃねえか! ……本当に来たのか!?」
ディッドが驚いた顔で、僕を見る。
――え? 僕が来るイメージなかったってこと?
「あ……来ちゃいけなかった――かな?」
「そんな事ねえよ! けど……本当に来てくれるとは思ってなかったんだ。やっぱり――貴族なんだろうし、俺たちのことなんか相手にしねえかなって」
ディッドはそう言いながら苦笑した。
「そんな事ないよ、正直――プライドばかり高い貴族のクラスメートより、君の方が信用できる人間だって思ったんだ。だから……今日、来てみた」
僕もそう言いながら、照れ隠しに笑ってみせた。
「そうか、そいつは嬉しいな。おい――みんな、クラインに名乗りな」
ディッドがそう言うと、身体の大きな少年が名乗った。
「俺はダガンだ」
続いて、ディッドの隣にいた背の低い少年が名乗る。
「オレはリッド」
そして二人の少年が名乗る。
「おれはゴーイ」
「おれはゾーイ」
髪型を変えてるから、この間は気づかなかったが、この二人は双子だ。
「俺たちは、皆、この教会で育てられてる孤児だよ。戦争で親を亡くしたり、親に捨てられたりと――まあ、事情は色々だけどな」
ディッドがそう言った。僕は頷く。
「実は僕は……クロスフォードの息子だ」
「なにっ!!」
この辺りでは武門の貴族として――そして剣聖が嫁入りした家として、当然、有名だ。だから、もう最初に名乗っておこうと思った。
「道理で……強いわけだぜ――」
身体のデカいダガンが、そう言って肩をすくめる。
「いや、前にも言った通り、僕の天職は――測量士だ」
僕はそう言って、手首の上に現れるステイタスを見せる。
少年たちは覗きに来て、驚きの声をあげた。
「本当だ……測量士ってある。非戦闘職だ」
「これのせいで、僕は三年後にはクロスフォード家を追い出されることになってる」
「なに!?」
またもや、全員が僕の言葉に驚く。僕はかいつまんで、僕と父、兄のアロガンの事情を話して聞かせた。
少し呆然とした状態で、ディッドが口を開いた。
「しかし……天職が非戦闘職だからって、実の息子を追い出すなんて――貴族の家ってのも、大変なんだな」
「家柄の維持は、家の最重要事項だからね。――僕はそれに対し、不適格だと烙印を押されたんだ」
僕がそう言うと、ディッドは息をついた。
「けど……お前は、剣士にこだわりがあった。やっぱり――お袋さんに対する気持ちがあったからか?」
僕は頷く。
「僕の天職は測量士かもしれないけど――剣士に……剣聖になりたいんだ」
「おぉ! さすが、言うことがデカいぜ」
感心したように、ダガンが声をあげる。
そしてディッドが口を開く。
「なるほど、それで俺たちに混ざって訓練したい、と」
「学校では、非戦闘職は戦闘訓練をしないからね。非戦闘職なのに戦えるってだけで、相当、ヘンな眼で見られる」
僕はそう正直に言い、思ってる事を言った。
「だから君たちに混ざって、自分を訓練したいんだ。それに三年後に、一人で生きて行けるように、街や社会の知識も欲しい。――君たちの仲間になりたい」
僕は真面目な顔で、皆の顔を見た。
皆、微笑んでくれてる。
「最初は貴族のくせに――って思ってたけどよ……事情を知ったら、親のいない俺たちと変わりがないって思ったよ。クライン、よろしくな」
ダガンが、そう口にする。他のみんなも、了承したように頷いた。
と、ディッドがリーダーらしく、声をあげた。
「じゃあ、今日はクラインの仲間入りを祝って、乾杯しようぜ!」
「え? まさか、お酒飲むの?」
「ば~か、そこまでしねえよ。食い物買って来て、パーティーしようぜ」
「お~う!」
リッドが嬉しそうに、声をあげた。
その日はパーティーをし、来週からは訓練をする、という事になった。
その日の帰り、僕はレミールの背に揺られて、少し幸せな気分だった。
――初めて、友達…というものができた気がした。
しかも、僕の家の事情まで明かして。
そんな事、貴族の子女が多い学校では、到底、話せないことだった。
……そう言えば、シェリルには僕の事情は話してない。
シェリルは立派な貴族の娘だ。僕がクロスフォード家を追い出されたら、まったく見合う相手じゃなくなる。
そうでなくてもシェリルは戦闘職で、将来は地域の武術高等学校に行くか、中央の王立武統学院に行くはずだ。
――何にしたって、シェリルと僕じゃあ不釣り合いだ。
それだけは、よく判った。
友達ができて嬉しい気分と、突然、自覚したシェリルとの距離で、複雑な気持ちになりながら、僕は寝た。
翌日からは、学校から帰ったら素振りと剣舞を覚える日々を送る。
剣舞は、『舞踊』スキルを試用してから、凄く覚えがよくなった。
――と。ふと、疑問が生じる。
スキルを使って訓練すると、その戦闘技術の知識までもが頭に入る。
通常ならば、スキル取得する人は技、知識の両方を会得して、それでいい。
けど、僕の『試用』スキルの場合はどうだ?
と、結論から言うと、『出ばな技』のようにスキルから得られる知識があって、それはスキルを試用してる間は、もちろん頭にある。
で、そのスキルの試用――例えば『剣術』スキルを抜いたら、その知識はなくなるのか?
――というと、実はそうじゃないのが判った。
ただし、試用してる最中に強く意識したものは、スキルを抜いた後も覚えてる、というのが判った。
逆に言うと、強く意識してないものは、スキルを抜くと忘れてるのだ。
そこで僕は、『剣術』スキルを入れてる間、そこから得られる知識をノートに書くことにした。
これをやると、スキルを抜いても強く意識したせいで覚えてることが多いし、仮に忘れててもノートを見るとその知識が再認識できる。
僕は自主練が終わったら、剣術スキルによって得られる知識をノートにまとめることに夢中になった。
「――ねぇ、聞いてる、クライン!」
「え! ……ああ、うん。――なんだっけ?」
「もう! 今度の週末、一緒に遊びにいこうよ」
そう僕の席の傍にきて言ってるのは、もちろんシェリルだ。
けど、週末はモンスター狩りとディッドのところに行くことで土日ともつぶれてしまう。
「いやちょっと……週末は予定があるから――」
「そうなの? じゃあ、しょうがないなあ」
「ご、ごめんね」
僕がなんとなく謝ると、シェリルは笑った。
「ううん、いいよ。また今度ね!」
「う、うん」
僕がそう答えると、シェリルは他のクラスメートに呼ばれて去っていった。
授業によっては戦闘職と実用職で教室分けして、全く異なる授業を受けることになる。シェリルが行ったのは、戦闘職向けの授業だ。
ぞろぞろと戦闘職が移動するなかに、ソクガもいた。
ふと目が合うと、ソクガは敵意剥き出しの視線で僕を睨みつけてきた。
僕は目線を逸らす。無駄な諍いは避けたい。
「――シェリル・アンバーと仲がよいようですね」
不意にそう声をかけてきたのは、天職が経理士のケリルだ。
相変わらず、眼が見えてるのか判らないほど前髪を垂らしてる。
その隣には短髪の、天職・建築士のペンターもいる。
「おいおい、いい関係じゃないの? お前ら」
ペンターは、にやにやしてるが――僕は黙ってシェリルの背中を見送った。




