表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泣きむし測量士は、剣聖になりたい! ~非戦闘職がギリギリの戦いに臨む時~  作者: さとうはるか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/43

4 シェリルを追いかけて


 ディッドの突然の言葉に――僕は驚いた。


「なに言ってるの!? ――クライン、帰ろうよ!」


 シェリルが声をあげる。

 僕はシェリルの方を見た。シェリルが不安そうな顔をしている。


 ――多分、シェリルは彼らが下層街の少年たちだという事だけで、もう恐れがある。だから早く、この場から去りたいんだ。


 けど僕は思う。

 はっきり言うと、貴族である兄のアロガンとか、同級生のソクガの方がよっぽどタチが悪い。正々堂々と勝負して、取り巻きに手を出させず、負けたら素直にそれを認めて、僕を仲間に誘う――


 そんなディッドの方が、ずっと好感がもてるんだ。


「シェリル……僕は――貴族のソクガより、このディッドの方が信用ができる人間だと思うんだ」


 僕がそう言うと、シェリルの顔色が変わった。


「クライン! ……本気で言ってるの?」

「うん」


 シェリルは目を伏せた。少し黙っていたが、やがて口を開く。


「わたし……クラインのこと――全然、判らない!」


 シェリルは踵を返し、突然、走り出した。


「シェリル!」


 僕は呼びかけたが、シェリルは振り向かない。

 仕方なく僕は、走っていくシェリルの背中を見送った。


「おい、彼女のこと――追っていかなくていいのか?」


 仲間に起こされながら、ディッドが僕に言った。

 僕はディッドに向き直る。傍にいる背の低い少年が、ディッドの額から出る血をハンカチで拭いている。


「頭部は大丈夫? 一応、ギリで止めたつもりだけど」

「軽く切れただけだ。斬れない方が危険だから、これくらいすぐ治るさ」


 ディッドはそう言って笑ってみせる。

 と、僕の後ろにいて水月に突きを入れた少年が、声をあげた。


「おい、ディッド! こんな貴族のガキを仲間にするって――本気かよ!」

「俺は極めて本気なんだが――クラインはどうなんだ?」


 ディッドが僕を見つめた。僕はディッドを見返す。


「一緒に戦闘訓練をする話――凄く興味がある」

「そうか。けど、お前、あの子を追ってった方がいいぜ」


 ディッドはそう言って苦笑した。僕は彼に言う。


「どうせ、明日、学校で会うんだ」

「バカだな、お前! そのタイミングじゃダメなんだよ! ……しょうがねえな。戦いの時は、距離もタイミングも完璧のくせに、女の子相手だとてんでダメと来てる! ――もういいから、とりあえずあの子を追いな。俺たちに興味があったら、週末に西区の教会に来な。ほら、早く行け!」


 なんか知らないが、ディッドは僕をせかす。


「わ、判った。西区の教会ね。じゃ」


 僕はそれだけ言うと、慌ててシェリルの後を追った。

 しばらく走ると、暗くなった通りを一人で歩いているシェリルに追いつく。


「シェリル!」

「……クライン?」


 シェリルが振り返る。泣いてたらしい。

 ……ヤバイ。これは結構、ヤバかったらしい。


「あ、あの――ゴメン、シェリル!」


 とりあえず、謝っておく。と、シェリルの顔が、くしゃりと崩れる。


「クライン……ビックリしたんだよぉ! どうして急に、あんなこっちの事、脅してきた人たちの話なんか訊くの? なんで信用できるとかいうの? ――できるわけないじゃん!」


 シェリルが泣きながら、僕の胸を叩こうとする。けど、その拳は力なく、僕の胸に触れただけだ。


「ごめん、シェリル……恐かったんだよね」

「……うん」

「もう大丈夫。大丈夫だから」


 僕は慌てて、シェリルに笑顔をつくってみせた。


「――何が大丈夫なの?」

「え~とね……例えばだけど、味方だけど嘘つきで身勝手な奴と、敵だけど正直で潔い奴だったら――どっちが信用できる? ――みたいな話」


 僕はそうたとえ話をしたが、却ってシェリルは混乱したようだった。


「あの不良たちとソクガだったら――あたしはまだしもソクガだよ」

「そうか……。けど、僕はソクガとは仲良くできないけど、ディッドとは仲良くできるかもって思ったんだ。――いや、あくまで可能性だよ」


 僕は少し弁解めいた口調でそう説明した。

 シェリルは涙を拭きながら、僕に言った。


「……クラインってさ――何考えてるのか判らない時がある」

「そう――かな?」


 僕は自分の家も含めて、貴族階級とかどうも信用できないんだ。

 けど、シェリルはそうじゃないんだろう。当然だ、シェリルは本当の、いい貴族の生まれで、その階級に守られてるのだから。


「ごめんね、シェリル。けど僕は――シェリルのことは、本当に大事に想ってる」


 僕は――本当の気持ちを言った。

 シェリルがはっとした表情で、僕を見る。


「ほんと……? わたしのこと――大事って」

「本当だよ。少なくとも、今、僕も周りにいる全ての人の中で――一番、大事に想ってる」


 僕がそう言うと、シェリルが眼を見開いた。

 そして、赤くなる。


「そ……そうなんだ――」

「うん……」


 僕もなんだか、胸が詰まって、それ以上の言葉が出てこなかった。

 と、シェリルが嬉しそうに微笑する。


 あ~、ヤバかった。もし、追っかけてきてなかったら、シェリルとの関係修復不可能なところにまで落ちてかもしれない


 ――ディッド、感謝だな。僕は密かに思った。

 翌日からも、学校でシェリルと普通に過ごせて、本当によかった。


 そして僕は学校から帰ると、新たなことを試すことにした。

 それは『舞踊』スキルを試用してみることだ。


 フォーミュラの剣舞を練習する時、『剣術』を試用しても、全然、その効果は上がらなかった。

 けど、『舞踊』スキルならどうだろう? これは踊り子のララと踊った時に、思いついたことだ。


「ようし、やってみるぞ!」


 僕は一般スキルの一つである『舞踊』スキルを、『準備スキル』のラインナップに入れる。そして空の状態である『試用』スキルのスロットに、移してみる。


 これで、『舞踊』Lv1だ。僕は『視像再現』の画面を出し、フォーミュラの剣舞を再生した。


 フォーミュラの優雅な剣舞を、僕は見ながら真似る。


「……これは――」


 ――明らかに、舞いやすい!

 武術的な有効性に囚われて硬くなってた動きが、舞踊を中心とした動きに変わることによって、一部の硬さがなくなっている。


 剣舞の複雑な動きも、剣技と捉えるのではなく、純粋な舞の振り付けととらえて舞うと、すんなり身体が反応できる気がした。

 それに覚えるのも、凄く進む。


 そして今度は『舞踊』スキルを外して、素の状態で舞ってみた。

 硬い剣術の動きだけでなく、柔らかく動かす舞踊の身体の使い方を知ったことで、素でも剣舞を少し舞えた。


 一周間続けて、ようやく僕は剣舞を最後まで覚えることができた。

 ――と言っても、本当に型通り覚えてるだけだ。細部は全然、できてない。


 けど、後は細かいところを映像を見ながら調整して、直していける。

 そう思うと、また前進した気がする。


 そして週末、僕はまた角ウサギ狩りに行った。

 すんなり10匹狩ると、肉屋と魔道具屋に持っていく。

 2000ワルドの利益が上がった。


 これ以上稼ごうと思ったら、もっと上級のモンスターを狩らなきゃダメだ。

 そしてもっと稼がないと、三年後に独り立ちできない。


 ――そのためには、もっと強くならないと。

 モンスター相手は自由にできるけど、対人訓練はそうもいかない。


 僕はレミールに乗ってファーストリアまで行き、西区の教会を訪ねた。

 そこには――ディッドたちが、集団で訓練をしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ