3 リーダーの少年――ディッド
推測で言うと……240cmの処でも、彼の場合は危険領域だ。
「いい構えだな。まさに『剣術』スキルを持ってます、って構えだ」
ディッドが270cmくらいの距離を保ちつつ、横に動く。
僕が両手で木剣を構てるのに対し、ディッドは――鉄パイプをだらんと片手で下げたままだ。
――この距離では僕が打てないか、打っても外れるのを知ってる。
彼は笑みを浮かべて、僕に言った。
「なあ? お前、どこで実戦を経験した?」
「モンスターを狩ったり――あと色々だ」
一応、僕は答える。警戒は怠らない。
ディッドはにやりと笑った。
「やっぱり坊ちゃんだな。自分の情報を敵に知らせるなんて、みすみす相手を有利にするようなものさ」
そうか。――くそ、悔しいが、彼の言う通りだ。
「お前の実戦経験がモンスター相手だとすると――こんなのはどうだ!」
ディッドは鉄パイプを肩に担ぐと、いきなり無造作に間合いを詰めてきた。
――どうする?
僕が一瞬に躊躇をみせた瞬間、ディッドの身体が沈みこむ。
ディッドは身体を低くして、スライディングしながら僕の足を横蹴りにきた。
「むっ!」
僕はそれを跳び退いてかわす。その瞬間、ディッドの鉄パイプが、僕の足を狙った。連続攻撃か!
僕は木剣で鉄パイプを受ける。鉄パイプの乾いた音が響いた。
「いい反応だな、おい!」
力で押し込もうとはせず、すぐさま斬り返して僕の側頭部を狙って来る。
けどそれを、僕は渾身の力で跳ね上げた。
「くっ!」
間合いが向うが有利だけど、向うは片手でこっちは両手。剣圧ならこっちが上だ。
鉄パイプを跳ね上げたところで、僕は一旦、間合いを取る。
息が洩れる。一瞬の攻防だったけど――危なかった。
確かに彼は剣術スキルで戦ってる感じじゃない。が、その分、動きがトリッキーで、何をしてくるか判らない恐さがある。
「へへ……俺の奇襲を受けきったのは、お前が初めてだよ。やるじゃねえか」
「――君もね」
正直、今まで戦った中で一番、緊張する相手だ。
距離は304cm。
ディッドは鉄パイプを垂らしたまま、こちらを伺ってる。
相手のトリッキーな動きに翻弄されたら負ける。
こちらから、仕掛けるんだ!
僕は左足を踏み出しつつ、木剣を後ろに引いて構えた。
距離を280cmまで詰める。
後ろ足を踏み込んでの僕の間合いは240cm。まだ届かない。
――が、多分、ディッドは届く距離だ。
「へっ、頭ががら空きだぜ!」
ディッドが突っ込んできた。鉄パイプを振り上げて、思いきり身体を伸ばして打ちにかかる瞬間――僕は出た。
「ヤアッッ!!」
相手の攻撃する瞬間こそが、無防備になる一瞬。『出ばな斬り』だ。
ディッドが踏み込んできた事で、僕の攻撃間合いに向うから入る。
ディドは遠間を打つつもりなので、大きく振りかぶっている。
だが僕は、後ろに構えた木剣をくるりと返し、突きに転じた。
このコンパクトな攻撃なら、相手の大きな攻撃より先に入る!
「が――」
僕の突きが胸の中心に決まり、僕に鉄パイプを当てる直前だったディッドの身体が吹っ飛んだ。
「――はぁっっ!!!」
後ろにたたらを踏むが、ディッドはまだ倒れない。強靭な足腰と精神だ。
だが――それは僕も予想済みだ。
「ダアッッ!」
今度は振りかぶって、ディッドを真っ向から斬る。
ディッドが僕の追撃に気付き、鉄パイプを頭上に掲げた。
けど、相手は片手の防御だ。僕はそのまま木剣を振り下ろす。
乾いた音がして木剣が鉄パイプに当たる。一瞬の抵抗があるが、そのまま僕は押し切る。
「ぐ――おぅっ!」
鉄パイプごと木剣をディッドの頭頂部に当てると、ディッドが呻き声をあげた。
一撃入れたところで、手の内を締めて木剣を抑える。
「ぐ……う――」
ディッドが後ろによろけると、そのまま腰から崩れ落ちた。
「ディッド!」
周りの少年たちが声をあげる。
一人の少年が、僕に向かって怒号をあげた。
「てめぇ、この野郎! よくもやってくれたな!」
「待て!」
倒れたディッドが、声をあげた。
「……やめろ。この勝負、俺の負けだ」
ディッドはそう言うと、何も持ってない左手を掲げてみせた。
降参の意、らしい。
「もういいぜ、行きな」
ディッドが頭から血を垂らしながら、僕に微笑んだ。
悔しそうではあったが、何処か満足げだ。
僕はそれを見てから、シェリルに向き直った。
頷いて見せると、僕はシェリルと一緒にそこを立ち去ろうと歩き出す。
「……やっぱり、本物の剣士には勝てねえか」
苦笑まじりのディッドの声が、後ろから聞こえた。
その時、不意に僕の中で気持ちが揺れた。
「クライン?」
足を止めた僕を、シェリルが不安そうな顔で見ている。
僕はまた踵を返して、少年たちに囲まれているディッドの元に歩いた。
まだ座ったままのディッドが、僕を見上げる。
「どうした? 何か、敗者にアドバイスかい。……やめてくれよ」
「僕は非戦闘職だ」
「――なに……?」
僕の言葉に、ディッドが大きく目を見開く。
「なんだって――だけどお前、剣術スキルで戦ってたろ?」
「確かにそうなんだけど、僕は……測量士なんだ」
「測量士?」
ディッドが不思議そうな顔をする。と、ディッドは笑い出した。
「マジかよ、お前! なんだそりゃ、そんな天職聴いたこともねえ!」
「ないよね……僕も聞いたことなかったもん」
僕は苦笑してみせる。と、僕らはしばし笑い合った。
「事情があって剣術スキルは使えるんだけど――それだけじゃ、天職が戦闘職の人たちに勝てない。そう判って、自分でモンスター狩りに出たりしたんだ。君の……スキルに頼らない戦い方、凄かった。正直――スキル持ちの連中より、一番の強敵だった」
僕は正直にそう言うと、ディッドは目を丸くする。と、微笑んだ。
「そうかい……それは――いい話だな」
「だから、僕は本物の剣士じゃないし、君は剣士よりも強かった。……そう、言いたかっただけ」
僕はそう言って、ディッドを見つめた。
ディッドも、僕を見つめている。と、ディッドはゆっくりと身体を起こした。
「俺の天職は……運搬士だ」
ディッドはそう言った。運搬士――非戦闘職だ。
「それなのに――あんなに戦えたんだね」
「実際には、運搬の最中にモンスターや盗賊に襲われたりする危険な仕事だ。なのに運搬士は、上級運搬士にならないと戦闘スキルが取得できないんだ。――ヘンな話だろ?」
僕は頷いた。ここにも――スキルシステムの不合理を感じてる人がいる。
「だから俺たちは自分たちで戦闘訓練をしてる……お前、仲間に入らないか?」




