第六話 花祭りの日に 1 シェリルへのプレゼント
ふと、踊り子さんと目が合う。……ドキッとするほど美人だ。その踊り子さんが微笑むと、僕の前に踊りながらやってきて、僕に言った。
「君、いいね! 経験者?」
「い、いえ……初めてです」
僕は恐縮しながら答えを返す。
後ろで結んだ青い髪をふわりとなびかせて、踊り子さんはくるりと回転する。
「じゃあ、舞踊スキル持ってるとか? まさかね」
「あ……そういうのもあるんですね」
僕と踊り子さんは、対称形になって踊る。
「君、戦闘職? 実用職?」
「実用職――ですけど……」
「そう! じゃあ、舞踊家を目指してみる――なんてどう?」
「え――?」
僕が驚いてると、踊り子さんは華麗なターンを決めた。
そして僕の眼を見通すような眼で微笑む。
「わたしは踊り子のララ。――ちょっと、わたしと一緒に踊ってみる?」
「は、はい!」
僕は踊り子のララに合わせて、鏡合わせになるように踊った。
時には接近して手を握り、ターンして離れる。
時には掛け合いのように、相手の後にアドリブで踊る。
……ふと気づくと周りに人だかりができて、僕らはダンスを終えた。
周囲から拍手が沸き起こる。
ララが僕に微笑みながら近づいてきた。
「ありがとう、盛り上げてくれて。君、名前は?」
「あ――クラインです」
「そう。クラインくんね。凄くセンスあるよ、ホント、プロ目指してもいいくらい」
舞踊家のプロ?
「それって――舞踊のスキルをとれば成れるんですか?」
「ううん。スキルを持ってても、『踊れる』ってことと、人を『魅せる』ってことは別。プロは人を『魅せる』踊りが踊れて、ようやく一人前」
スキルを持ってても――さらにその先の領域があるってことか……
「あの……僕、他にやりたいことがありますんで――」
「あ、ゴメンゴメン、そんなに本気で考えないで。ただ、センスあるから、もし踊るのが好きで、それに打ち込みたいって情熱があるんなら――って、思っただけ」
ララはそう言って、笑った。
踊りが好きか――と言われると、多分、違う。
じゃあ、僕が好きなのは……
「他に……好きなことがあります」
「そっか! 好きなのは――そっちかな?」
ララは僕の、腰に差してる木剣を指さした。
「あ……はい」
「ふぅん――非戦闘職なのにね。……まあ、それでも好きな事を追及するのは、自分の世界を広げるよ。時にはそれが自分の核になる。だから天職に関係なく、好きを追及して頑張ってね。――あ、それと、ゴメンね。せっかく彼女と来てたのにね」
ララはそう言って、僕の後ろを見た。え、か、彼女って――
振り返ると――シェリルがこっちを見ている。
ララは微笑すると、シェリルのところに歩いて行った。
「ごめんね、クラインくん借りちゃった」
「あ……いえ――」
「フフ……彼すごく素敵だから、いいなと思ったけどフラレちゃった。じゃあ、後は二人で踊ってね。それじゃ!」
ララはそう言うと、僕の背中を押した。
僕はふんわりと、シェリルの前へ出る。振り返ると、ララは手を振りながら去っていった。
改めてシェリルと向き合うと、何を言えばいいのか――ちょっと判らなくなった。
「ご、ごめん、踊るのに夢中になちっゃって――」
「ううん。けど……クラインって、ダンスもできるんだね。凄く――カッコよかったよ」
シェリルがそう言って微笑む。僕は息をついて言った。
「一緒に踊ろうか。今度はのんびりと」
「うん!」
そう言うと僕らは、スローペースで無理のない感じで踊った。
しばらく踊ると、僕らは互いに笑いあった。
「お腹すいたね。――ね、出店見てまわろうよ」
「そうだね」
シェリルの提案に、僕は頷く。と――シェリルが不意に、僕の腕に自分の腕をからませた。
「え――」
「いい……よね?」
「う…うん」
僕は戸惑いながらも、シェリルと腕を組んで歩いた。
僕らは出店を見たり、音楽を聴いたり、大道芸を見たりした。
そんな事をして――あっという間に時間は過ぎて、西日が差してきた。
僕らは通りを歩いていたが、シェリルが一つの店で足を止める。
それは店、というより、一人の男が風呂敷を広げて物を売ってるだけの場所に見えた。
シェリルは腰をかがめて、その男の売ってる――アクセサリーを見ている。
「これ、凄く可愛い。――ね、おじさんが作ったの?」
シェリルは無邪気に、売ってる男にそう訊いた。
と、売ってる男が笑いながら答える。
「ああ、そうだよ。みんな、手作りさ」
シェリルはそのキラキラしてるアクセアリーを色々眺めている。
「シェリル、なにか気にいったの?」
「うん……これなんか、可愛いなって」
シェリルが一つを指さした。
シェリルの髪の色に似てる赤い結晶を嵌めたブローチ。
確かに可愛いし……シェリルがつけたら、似合うかもしれない。
下にある値札を見ると――5000ワルド、とある。
「それね――一応、真ん中に嵌めてあるのは、本物の魔晶石。魔力がちびーっと上がるはずだよ。どうだい、買うかい? おまけするけど?」
男はそう笑って言った。
「けど……ちょっと足らないかも――」
シェリルは残念そうな顔をして言った。
祭りの前に、執事から5000ワルドを渡されたのを僕は見ていた。
シェリルの家はもちろん貴族だけど、教育方針は厳しくて、無駄使いはさせない方針らしい。その5000ワルドだって、祭りのための特別な小遣いなのだ、とシェリルは言っていた。
僕は家で放ったらかしにされていて、お金も貰ってない。
ジョー爺さんが見るに見かねて、必要なものは買ってくれるし、今回も3000ワルドくれた。けど、出店のものを買ったりして、もうほぼ使ってしまってる。
けど――僕には、角ウサギを狩って稼いだ3000ワルドがある。
「――あの…3000ワルドになりませんか?」
僕はそう声をあげた。
売ってる男が、僕を見上げる。
「3000ワルドにしたら――どうする?」
「僕が買って……シェリルにプレゼントします」
僕がそう言うと、シェリルが驚きに眼を見開く。
「え! えぇ!? クライン、そんなこと――」
「貴族の坊ちゃんは、気前がいいねえ。けど、そんなに太っ腹なら、まけなくてもいいんじゃないか?」
男はいたずらっぽく僕にそう言う。
僕は男に言った。
「自分で稼いだお金が――3000ワルドだけあるんです。それしかないから……まけてもらえないかと」
僕がそう言うと、男は驚いた顔をした。
「ほう! 自分で稼いだ金ね! ――いいだろ。そういう話なら、まけてやるよ。3000ワルドだ。持っていきな」
男はにっと笑って、ブローチを僕に差し出す。
僕は3000ワルドを男に差し出した。
「毎度あり! ブローチを嬢ちゃんにプレゼントしてやりな」
「はい。ありがとうございました」
僕は礼を言うと、シェリルと一緒にそこを立ち去った。
通りの小道に入って、僕はシェリルにブローチを差し出す。
「はい、シェリル」
「あ……ありがとう、クライン」
シェリルは赤くなって――僕からブローチを受けとった。




