4 祭りの約束
商店街の肉屋、トミーの店に行き獲ってきた角ウサギを見せる。
「お! 本当に獲ってきやがったな。しかも10匹か、いいねえ」
トミーは角ウサギを見ると、愉快そうに口にする。
「ごめん、角をまだ切ってなくて。本当は自分で切った方がよかったんだよね」
「ああ。まあけど、ちょっとコツもあるからな――今、ナイフか何かあるか?」
僕は首を振った。剣はあるけど、ナイフはない。
トミーは笑うと、僕に言う。
「冒険者たるもの、ナイフの一本くらい主武器とは別に用意しとけよ。で、今から角を切り取るから、手順だけ見てな」
「うん」
そうして僕は、トミーが鮮やかな手さばきで、角ウサギの皮を剥ぎ、内蔵を取り出して、角を取るのを見てた。
「冒険者は狩った生物を自分で捌けなきゃいけない。なんでかっていうと、自分で獲ったモンスターを喰って、命をつなぐことだってありうるからだ」
「そっか……」
そんなの多分、スキルにはないよな。けど、必要な技術なんだろうな。
僕は取り分けた角と、肉の代金1000ワルドを貰ってトミーの店を出た。
次はドーマの魔道具店にいく。
ドーマは出した角を見て、言った。
「前の分と合わせて15本か。1500ワルドだね」
「ありがとう」
僕はドーマに礼を言った。と、ドーマが僕を見る視線に気づく。
「あの…どうかした?」
「あんた、前に来た時と雰囲気が変わったね。レベルアップしたろ?」
「あ……うん。剣術スキルが」
ドーマはにやりと笑った。
「大したもんだね。まだ天職授与されて、それほど経ってないだろ? スキルのレベルアップは、早い人でも一年に1レベルって言われてる」
「一年で1レベル――かあ……」
僕が15歳で家を出るまでには、もう3レベルくらいしか上がらない――という事だ。それじゃあ剣術レベルも4。あの無精髭より下だ。
「なんだい、不満なのかい? 大したもんだって褒めてんだよ」
「いや……家を出るまでに、なるべく強くなってないと――生きていけないかもしれないんで」
僕がそう言うと、ドーマは不意に恐いくらいの真剣な眼で僕を見た。
「いいかい。早くレベルアップしたいからと言って、自分の実力に見合ってない領域に踏み込むんじゃないよ。場違いなところに行けば、待っているのは死だけだ。それだけは、注意おし」
「うん、判った。ありがとう、ドーマ」
「また、おいで。クライン」
ドーマの笑顔を見て、僕は店を出た。
合わせて3000ワルド。僕が初めて、自分で稼いだお金だ。
――どうこう言っても、僕は結局、クロスフォード家のなかで生かされてる。
つまりそれは、父さんの経済力に生かされてるって事だ。
それを外されても、僕は一人で生きて行かなきゃいけない。その準備を今から、するんだ。
そして翌日、朝からシェリルがうちにやってきた。
「ジョーさん、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「はい。この通り、息災なく務めさせてもらっております。
シェリルの明るい声と、ジョー爺さんの話し声がする。
僕は祭りに出掛ける服を選んでる最中だった。
と、ふと丸腰なのが気になる。
「まあ……何もないとか思うけど――」
実剣やナイフを持っていくのは……『重い』気がする。
僕は木剣を手にすると、腰のベルトに差した。
――ところで、シェリルがドアを開けて現れる。
「おはよー、クライン! ――え? まだ着替え途中だった!?」
シェリルが慌てて、顔を赤くして両手で抑える。
……それなら、ノックして入ればいいのに。――けど、昔からシェリルはこうなんだ。
「大丈夫だよ、もう着替えは終わった」
「あ、なあんだ、よかった!」
シェリルが笑顔で両手を顔から外す。と、その両手を後ろに持っていって、シェリルは僕を少し上目づかいで見た。
シェリルは――いつもと違って、花祭りようの踊り子の衣装を着ていた。
脚が大きく出てるミニのふんわりとしたスカート。袖が下に大きく伸びた、シースルーの上着。
赤い髪は後ろで結わえて、花飾りを髪につけている。
いつもと違う感じで――凄くドキッとした。
「踊り子の衣装着てみたんだけど……どうかな?」
シェリルが、ためらいがちな顔で訊いてくる。
「う…うん、似合ってるよ」
僕はそう答えた。本当は……凄く可愛い。
けど、そんなこと言えないんで、そんな感じ。
「へへ……うれし」
シェリルはそう言って、ちょっと恥ずかしそうに微笑んだ。
「じゃあ、いこっか!」
「う、うん」
そしてシェリルは、シェリルの家が用意した馬車に僕を案内する。
二人で馬車に乗りこむと――隣にシェリルが座ってた。
「あ……対面型じゃなくて?」
「うん――イヤだった?」
「そ、そんなことはないけど……」
シェリルが近くて――なんかいい香りがする。
なんだろう……僕は、なんだかよく判らなくなって、シェリルが話すのに、ただ頷いていた。
「あ、着いたみたい」
どうやら馬車はファーストリアに着いたらしく、停車した。
馬車から降りると、シェリルの家の執事らしき人が、シェリルに言っている。
「それでは8時に迎えに来ますから」
「うん、判った」
そう執事に答えると、シェリルは僕の方に向き直った。
「それじゃあ、行こうか」
「うん」
ファーストリアの街は、すっかり華やいだ雰囲気で、多くの飾りで彩られて、人で賑わっていた。
メインストリートの両側に、花祭りの元であるミダレザクラの並木が満開になっている。
ミダレザクラは白・ピンク・赤の三色が、一本の樹に咲く珍しい木だ。
その満開の季節に合わせて、花祭りが開かれる。
サクラの花びらが舞う通りには多くの出店が出て、祭りの買い物を楽しんでいた。
「あ――ダンスやってるよ。踊っていこうよ!」
「え……踊り?」
躊躇してる僕の手を引いて、シェリルは中央広場の方へ駆けていく。
中央広場では楽器を持つ人たちが演奏して、その楽し気な音色が響く中で沢山の人がダンスをしていた。
「ね、そもそもこのお祭りって、花の下で踊ったのが始まりなんだって」
「そ、そうなんだ――」
「あたしたちも踊ろうよ!」
えぇ?
「僕、踊りなんて判らないけど……」
「あの中央で踊ってる踊り子さんの真似をすればいいんだよ」
シェリルに言われて、広場の中央を見る。
と、用意された高台の上で、シェリルの服にも似た衣装で踊る美人の踊り子さんがいた。
長い袖を振って、踊り子さんは優雅に踊っている。その姿が綺麗で、ちょっと見惚れた。
――と、僕はふと気づいた。
なんかこの感じ、フォーミュラの剣舞に似てるかも。
シェリルが踊り子さんの真似をして踊っている隣で、僕も踊り子さんの真似をして踊ってみた。
……なんか、意外に踊れる。多分、最近、フォーミュラの剣舞を見て真似する、という事を日課にしてたので、それが応用された感じだ。
「凄い、クライン! あたしより、全然、上手!」
「いや……なかなか難しいよ」
僕は踊りながら思う――そうか。あれは剣技と思ってたけど、舞踊でもあるんだ。




