3 測量の新たな力
それから僕は、学校から帰って来ると普通の素振りに加え、フォーミュラが教えてくれた剣舞を自分で練習する日々を送った。
森の中の泉の傍で、『視像再生』の画面を最大に拡大して、それを見ながら少しずつ覚える。画面には美しいエルフ、フォーミュラの凄く美しい剣舞が展開する。
うっかりすると、その美しさに見惚れて動きが止まってしまうけど、なんとか頑張って覚える。正直、ちょっとずつしか覚えられない。
――けど、僕は少しずつでも進むしかないんだ。
「――ねえ、クライン、今週末あいてる?」
そう言ってきたのはシェリルだ。
週末――僕は、モンスター狩りにいかないと。
「ごめん。僕はちょっと用事があって」
「え~、そうなのお? ……土曜と日曜、街でお祭りなんだよ?」
シェリルは凄く残念そうな顔で、見つめてくる。
お祭り? 街ってファーストリアのことか。
「お祭りって、なんの?」
「花祭り。え? 行ったことないの?」
「うん」
父さんがそんな外出を許すことはなかったから、僕はファーストリアの街にも行ったことがないし、祭りのことも知らなかった。
と、そんな想いにふけってると、シェリルがすっごく覗きこんでくる。
「ねぇ……お祭り――一緒にいこうよ、クライン」
な、なんか……すごく可愛い顔で見つめてくる。
「あの……土曜日は駄目だけど、日曜日ならいいよ」
「ホント! じゃあ、一緒に行ってくれる?」
「う、うん……」
僕は頷いた。シェリルの顔がパァーッと明るくなり、満面の笑顔になる。
「やった! じゃあ、日曜日の朝、迎えに行くね!」
「う、うん判った――」
「フフフ――楽しみだね!」
そう笑顔を残すと、シェリルは去っていく。
ふと、周りの視線に気が付いた。
……なんか、クラスの男子の視線が集まってるような――
まあ、気にしない。僕は早く帰って練習しないと。
――そして週末がやってきた。
「よし! 今日は剣術Lv2を試すぞ!」
角ウサギの角は五本あるけど、もう五本必要だ。
最低でも五匹は狩らないと。
レミールに乗って、角ウサギのいる山へと向かう。
もう傷目とは戦いたくないから、少し別の場所にする。
草原に出ると、僕は周囲を見回した。
「ようし、測量! ――って、対象もはっきりしてないのに、ヘンか」
我ながらどうか、と思ったが、視界の中に変化があった。
草原の幾つかの場所に、赤い矢印がある。これは?
「――『角ウサギ』……の、場所?」
驚いたことに、それは角ウサギの場所を指し示すポインターだった。
ふと見ると、視界の右上の方に『索敵対象』という項目があり、そこに『角ウサギ』という文字が入っている。
入力した覚えはないけど――ずっと、そればかり狩ってたからか。
「けど、これは凄いぞ! 対象が発見できて、しかもその距離まで把握できる」
多分、本来はモンスターが対象なんじゃないんだろうけど。
例えば柱とか杭とか、そういう複数の対象を把握して、建築に役立てるとかそういう能力なんだろう。
けど、僕はこの能力を、最大限にモンスター狩りに活かす!
「一番近いのは――あいつか」
視界の中にいる角ウサギは五体。一番近い奴で56mほど。
僕はそっと草原の中を進み、距離を詰めていく。
矢印のポインターが動く。よく見ると、ポインターは点いたり消えたりしている。
角ウサギが一部でも茂みから見えていればポインターが点いてるが、完全に隠れるとポインターは消えていた。
「……見えない処に入ると、ポインターは消えてる。あくまで、視界に入るものを測量してるんであって、見えない敵を索敵してるんじゃないんだな」
だから見えない所から不意打ちされたら、まともに喰らうわけだ。
矢印がないからと言って、安全だとは限らない。それはちゃんと注意しないと。
対象との距離、3m56cm。もうすぐ接触だ。
そしてそいつから、僕の方に寄ってきた。
角ウサギの攻撃距離は280cm。
僕から、敢えてふみこんでやる。
「ギッ!」
角ウサギが、僕の誘いに乗った。額の角を向けて跳躍してくる。
その事で距離が詰まる。僕はそれを見越して、攻撃可能距離210cmで斬り込んだ。
「ダァッ!」
剣を一閃。角を紙一重で躱しながら、剣は角ウサギの頭を割った。
「……うん。前より、全然、動きも見えるし、剣も早く振れる。これがLv2か」
僕は満足した。素振りをし、実戦を重ねたことは無駄じゃなかった。
確実に僕は強くなっていってる!
その実感をむさぼるように、僕は次々と角ウサギを狩った。
前よりずっと楽に角ウサギを倒せる。
倒し方は、大きく言って二通りだった。
誘っておいてかわし、その無防備なところを斬りつける『かわし斬り』。
と、相手が攻撃してきた瞬間、無防備になったところを攻撃する『出ばな斬り』。
この二種類の攻撃方法に専念し、『測量』をふんだんに生かした。
気づくと僕は七匹の角ウサギを倒していた。
「ふぅ……もう、これくらいでいいか。『剣術Lv2』の感じも掴めたし。そろそろ帰るかな」
そう言って踵を返した僕は、草原の中を歩いて行く。
と、ガサリ、と背後から音がした。
まさか――ポインターから隠れていたウサギがまだいた?
振り返った瞬間、僕は息を呑んだ。
既に至近距離の中に、角ウサギがいる! ――しかも、三匹同時!
「く――」
三匹は既に跳躍して僕に襲いかかって来ていた。
どうする? 守る? いや、返り討ちにするか?
けど、『測量』を入れっぱなしの僕の視界では、その三匹の距離が正確に測られていた。
――現時点で一番近い奴が214cm、それから256cm、272cmと続く。
一番近い奴から叩く!
僕は向かって来る一番近い角ウサギを、まず真っ向から斬り割る。
と、すぐに横から二匹目! 剣を返しながら腰をまわし、二匹目を斜めから斬り伏せた。
そして三匹目、これはもう間に合うのか――
「くっ!」
僕の胸に、角ウサギの角が当たる。が、そこからなんとか後退してかわし、かわし斬り!
三匹全部を――なんとか倒した。
「フーッ、フーッ、フーッ――」
息が上がる。驚いた――いや、恐ろしかった……。
もう少しで、三匹目の角が僕の胸を貫くところだった。
もし刺されていたら――僕は死んでたかもしれない。
そう思うと、急に身体に震えが来た。
「あ……」
脚がガクガクする。侮っていた。剣術Lv2になって、角ウサギなんてもう楽勝――どこかでそんな風に甘く見ていた。
そんな甘い考えでいれば、一瞬で命を落とす。
これが実戦だ。実戦に『楽勝』なんてない。戦いは常に、紙一重の生と死の間にある……。
僕はその場で膝をつくと、うつむいて呼吸を整えた。
けど――僕は助かった。三匹の距離を正確に把握できたから、必要な順番で三匹を倒せた。この判断が間違ってたら、絶対に負傷してたはずだ。
それに三匹を斬った時の剣さばき。あれは確かに、今までにはできなかった事だ。間違いなく、剣術Lv2の成果だ。ともかくも――僕は生き延びた。
「……角ウサギを売りに行こう」
僕はそう呟くと、震える脚をなんとか奮い立たせた。




