2 満月の夜に
部屋に戻ると、僕はどっと疲れが出て夕食も摂らずに寝てしまった。
そして――不意に起きたのは、真夜中だ。
「もう、このまま寝ちゃおう」
そう呟いて布団にもぐったままでいたが――眠れない。
頭の中で、今日起きた二つの戦闘のことを反芻してる。
盗賊の無精髭との戦闘。アロガンとの戦闘。
思い出しては、あの瞬間にはもっとこう動くべきだったとか、こう仕掛けるべきだったかとか――頭の中で思考が回転し出す。
寝たいのに――そう思うが、考えるのを止められない。
「えぇい! もう、いいや!」
僕はいったん布団から出て、床に立った。
ふと気づくと、カーテンも開けっぱなしで、窓から月明りが差している。
妙に綺麗な……青い金色。僕は窓辺に立って、夜空を見上げた。
金色の満月。ふと……母さんを想い出した。
僕の髪は青に近い藍色。母さんと同じ色。
その髪に包まれる母さんの笑顔は、僕にとっての満月――
「……なあんて、浸ってる場合か」
僕は一人でそうぼやいた。
今のままじゃ、決して母さんが到達した『剣聖』になんかなれない。
いや、そもそも、僕は三年後に中等部を卒業したら、この家を追い出されるんだ。
そしたら僕は――どうしたらいいんだ?
冒険者になる。あの無精髭のように――
あいつみたいに? 待て、ということは、怪我して不具合が出たりしたら、スキルシステムに頼れなくなるってことか?
三年後、家を追い出されても、自分一人で生きていけるように――強くならなきゃいけない!
――そんなに時間があるわけじゃないぞ、三年間なんてあっという間だ。
一人で冒険者で、過不足なく生きていけるためには、どれくらいレベルが必要だろう? いや、どれくらい稼げるようになればいいんだ?
「そういえば――僕は今日、初めてお金を稼いだんだった」
僕はふと思い出して、角ウサギを売ったお金を出してみた。
500ワルド。角は別に売れるけど、10本から。一本につき100ワルド――ドーマはそう言ってたな。
つまり角ウサギ一匹につき200ワルド稼ぐとして、一日10匹取ったら?
2000ワルド。これを月に20日やったとして――
――え? 40000ワルド? ちょっと待って! それじゃあ、全然、暮らしていけないよね!?
ダメじゃん、全然ダメじゃん! 冒険者って、どうやって暮らしてるの?
「あ……そうか。もっと高ランクモンスターを狩るのか――」
高ランクモンスターから取れる素材は、より高価に売れるはずだ。それに討伐それ自体がクエストで、討伐自体が報酬になることだってあるはずだ。
もっと強くなって、稼げるようにならないと――
そこまで考えて、僕はふと気づいた。
「……いや、僕はそうなりたいのか?」
そうじゃない――そう思った。
なんとか稼げる冒険者に……なりたいわけじゃない。
僕は『剣聖』になりたいんだ。
そのためには、どうしたらいいのか? いや、どういう道を進んだらいいのか。
「母さんの母校――王立武統学院」
僕が口にしてみた。王立武統学院――それは全国の天職・戦闘職の人が憧れ、目指す学校だ。卒業生は士官や宮廷魔導士などの高給職が待っている。
けど、僕は卒業後の仕事に興味があるわけじゃない。
ただ――母さんがそこを卒業したって聴いてから、子供の頃から憧れているんだ。
三年後……僕は王立武統学院に入れないだろうか?
非戦闘職の僕では――相手にされないだろうか?
いや、王立武統学院は、徹底した実力主義だって聴いたことがある。
もしかしたら――非戦闘職でも、その実力次第では入学することができるかもしれない。
「王立武統学院――」
僕は月を見上げた。
月が眩しいくらいに明るい。
「僕は……あそこを目指す。実力テストで――入学できるくらいに」
僕は月を見上げて、そう呟いてみた。
今まで、ぼんやりとしていた道が――はっきり見えた気がした。
僕は――天職授与で、『剣士』が授与されたら、そのまま母さんに近づけるんじゃないか……そんな甘い考えでいたんだ。
きっと『剣士』だった母さんも、必死の努力の末に『剣聖』になったはずだ。
天職が『測量士』の僕は、もっとそれ以上に努力しなければ、きっと『剣聖』」にはなれない。けど――絶対に無理なんてことはないはずだ。
僕はフォーミュラさんの事を想い出した。
あの人に教わって、僕はスキルシステムに頼らなくても、人は能力を伸ばしていけるものだと判った。
それに――僕の『測量士』の不思議なスキル『スキル測量』には、まだまだ可能性がある。うまく使っていけば、きっと成長できるはずだ!
「うん、すっきりした。明日から、また自分を鍛える日々だ」
そう言って僕は窓を閉め、またベッドに横になった。
そう言えば、ステイタスに変化はあるかな? 何の気なしにステイタス画面を見て眺めていると、僕はある事に気付いて身体を起こした。
「あ! ――『剣術Lv2』が、取得可能スキルに入ってる!」
無精髭とアロガン、二人との戦いで僕は実力が上がったのだろう。
その脳と身体の変化を棋譜魔法が判断して、より高位のスキルを提示した。
――そういう事だ。
「ようし、これでLv2の素振りを練習できる!」
僕はすぐに、『剣術Lv2』を準備スキルの中に入れた。
「うん! ……なんか、すっきりしたな」
僕は月を見ながら、思い切り背伸びをした。
と、緊張感が抜けたのか、ちょっと眠たくなってくる。
「……寝るかな」
僕は布団に潜りこんだ。
翌日の休日――僕は森まで行って、木剣を振ってみた。
「『準備スキル』から『試用スキル』に、『剣術Lv2』を移す、と」
その状態で、僕は素振りをする。
「え――えぇっ!?」
驚いた。正直に言うと――今までの自分の素振りが、まったく間違っていた、と思うレベルだ。
軸手は使えてない、腰は据わってない。剣線はブレブレで、振りかぶりも小さい。
――もう、できてないところを挙げるとキリがない! と、思うレベルだ。
剣術Lv2にが上がることで、それまでの自分ができてなかった処が、明確に判る。それはある意味、残酷な理解でもある。だって、自分が全然、ダメなことを知るわけだから。
だけど希望はある。少なくとも、それより上手くなるちゃんとした形を、スキルシステムは教えてくれる。
後は身体の教える通りに振り。さらに『剣術スキルLv2』を抜いた状態で、その素振りを再現する努力も必要だ。
「ようし……これをやって、もっとうまくなるぞ!」
そう言ってしばらく素振りをした後、僕は不意にフォーミュラが披露した『剣舞』のことを思い出した。
「前まで、まったくできる気がしなかったけど――Lv2なら、すんなり覚えるんじゃないか?」
そう思って僕は『剣術Lv2』を入れた状態で、『視像再生』の画面から剣舞の動画を選んで再生した。
「わぁ……改めて見ると――綺麗だなあ」
いや、剣舞がだよ。剣舞が!
けど僕はフォーミュラの顔に見惚れつつ、その剣舞の動きを真似ようとした。
が――
「あれ? できない?」
すんなりいかない。九種の素振りの時は、『剣術』スキルを入れれば、すんなり再現できた。
けど今回は、その動きを全然うまく再現できない。どういう事だ?
「――エルフの剣技は、人間の剣術スキルは別の技……ってことかあ」
多分、技術の体系が違うんだ。だから、エルフの剣舞を人間の『剣術』で再現できないんだ。
……待てよ。という事は、エルフの剣技を身に着ければ、人間同士の戦いの時は、相手の知らない技を使うので有利になる――って事じゃないのか?




