表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泣きむし測量士は、剣聖になりたい! ~非戦闘職がギリギリの戦いに臨む時~  作者: さとうはるか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/41

2 老婆と盗賊


 店の奥にいた老婆は、いきなり僕のことを『クロスフォード家の坊ちゃん』と呼んだ。

 なんで!? なんで――この人、僕のことを知ってるの?


「あの……僕のこと、知ってるんですか?」

「ああ。クロスフォード家にはよく出入りしてたからね。……前の奥さまが存命の時はね」


 あ――そうなんだ。


「そっか……そうなんですね――」

「まあ、今の奥さんには用ないし、旦那にも用無いからここ数年は顔も出してないけど。ふん――大きくなったねぇ、クライン坊ちゃん」

「そ…その坊ちゃんってやめてもらえますか」


 僕は老婆に言った。と、老婆がにやつく。


「なあんだい、ちっとは色気づく年になったんだねぇ」

「いえ……僕は、あと三年でクロスフォード家を出される身なので――」


 僕は、思ってた事を正直に言った。と、老婆は目を丸くする。


「なんだい、そりゃ? どういうことだい?」

「いや……あの――」


 僕はかいつまんで、僕の天職が測量士だったので、父さんが僕を三年後に家から追い出すと言ったことを話した。

 老婆はそれを聞いて、憤慨する。


「なぁんて奴だい、あの男は! 実の子をおっぽり出そうとするなんて!」

「いえ……父さんにとっては、武門の家柄の方が大事だし……家にはアロガンもいるから、兄さんに家を継がせればいいと思ってるんです」


 僕の言葉を聴いて、老婆は憤慨した。


「あの性悪女のバカ息子かい!? まったく、クロスフォード家もお終いだよ! ……まあ、別に武家貴族の家がどうなろうと知ったことじゃないけど、それじゃあ奥様があんまりだよ」

「母さんのこと、知ってるんですか?」


 僕は老婆に訊いた。老婆は頷く。


「剣聖クレア・ソルを知らない者なんていないさ! あたしはクレアがまだ冒険者だった時代に、魔導具を色々世話したもんだよ。腕は一流なのに、気の優しい娘で――本当にみんな剣聖クレアを好きだったねぇ」


 老婆は懐かしそうに、そう目を細めた。

 そっか……この人は、僕の知らない母さんを知ってるんだ。


「――それで? 今日は坊ちゃん……クラインは何の用だい?」

「あ……角ウサギの角を持ってきたんです」


 僕は鞄から角を5本取り出した。


「ほぅ……これ、クラインが獲ったのかい?」

「はい」

「けど、5本はちょっと少ないね。買い取りは10本以上からだよ。10本以上になったら、1本につき100ワルドで買いとるよ」


 老婆はそう言うと、にっと笑った。


「あ、ありがとうございます! じゃあ、もうちょっと獲ってきます」

「ああ、頑張りな」


 僕はそう言われて、店を後にしようとした。と、ふともう少し気持ちが残った、


「あの……たまに、母さんの話を聞きにきてもいいですか? えと……」

「ドーマだよ。元魔導士のドーマ。――まあ、いつでもおいで」


 ドーマはそう言うと、僕に微笑んでくれた。

 店の外に出ると、もうすっかり陽が暮れていた。


「いけない、いけない。早く帰らないと――じゃあ帰ろうか、レミール」


 僕はレミールを引いて商店街を出ようとした。

 その商店街の灯りが途切れ、人気のなくなった時、不意に僕の眼の前に人影が現れた。


「おい――」


 その人影は、僕の行く手を阻むように立っている。


「その馬を置いて行け。そうすれば、命は助けてやる」


 その人影はそう言った。

 よく見ると、とかしてない髪、無精髭――不潔な服装。

 明らかに風体のよくない男だった。


 男は腰の鞘から剣を抜く。


「聞こえたよな? 死にたくなければ……馬を置いていけ」


 ――盗賊だ。

 一瞬で、僕の全身に緊張が走った。


 僕を脅して――レミールを奪おうとしている。

 いう事をきかなければ、僕を殺す……そう言ってるんだ。


 どうする? いうことをきくのか?

 ……嫌だ。レミールは、母さんも大事にしてた、母さんと一緒に乗った大事な馬だ。ずっと子供の頃から、一緒に育ってきたんだ。


「この馬は……大事な馬なんです。他の馬なら――あげますから」

「そんな時間はない。お前はここで決断するんだ。――俺の言うことをきいて、その馬を置いていくか……それを拒否して俺に殺されて、馬も結局奪われるか、だ」


 レミールを諦める選択肢はない――ということか。

 と、無精髭は突然、口元を歪めた。


「しかし……他の馬ならあげます――か。いいところの坊ちゃんらしいセリフだな。そんな事を気楽に言える立場が、どれだけ恵まれてるか考えた事もない顔だ」


 無精髭がそう言って、僕の顔を睨む。


「決めたぜ。……絶対にその馬をいただく。お前が大事にしてるからこそ、俺はお前からそれを取り上げる。さあ、どうだ……選択しろ。馬とお前の命――どっちを取るんだ?」


 無精髭はそう言うと、にぃと笑ってみせた。

 こいつは――絶対に自分が優位だと思ってる。僕がもし腰の剣を抜いたとしても、自分が勝つということを疑ってない。


 ――戦うか? 戦えるか、この男と?

 けど戦わなければ……大事なものを奪われる。

 母さんとの思い出も、僕の誇りも。


 そう思った時、僕の中で何かが一斉に沸き立った。

 僕は腰の剣を抜く。無精髭に向かって、剣を構えた。


 同時に、僕の中では忙しくステイタスを動かしていた。

 『治癒』をした後、試用スキルから抜いておいて正解だった。


 僕は準備スキルから『剣術Lv1』を試用スキルに入れる。

 そのタイミングで、無精ひげが笑った。


「ヘヘぇ、いいね! そうこなくちゃな! そうでなきゃあ――奪い甲斐がないってもんだよ!」


 無精髭はそう言って、舌なめずりをした。

 もう、戦いは始まってる。――まず『測量』!


 無精髭との距離は325cm。まだ相手も斬りかかってこれない距離だ。

 無精髭がじり、と歩を進める。距離、315cm。


 僕はレミールを戻しながら、下がる。また325cm。

 と、無精髭が言った。


「言っとくが馬に乗って逃げようとしたら、その瞬間に馬を斬りつける。そして落馬したお前を殺すからな」


 無精髭はそう言いながら、間合いを詰めてくる。

 僕の全身に――緊張が走っている。


「レミール――少し向うに行って」


 僕は軽く、レミールの背を押した。レミールが少し歩いたところで歩を止める。


「ほう、逃げ出したりせず、主人を待つか。賢い馬だな、ますます欲しくなったぜ!」

「レミールは……絶対に渡さない」


 無精髭が近づいて来る。――距離280cm。

 角ウサギなら、もう攻撃してくる距離だ。だが、無精髭はまだ攻撃してこない。


 僕の攻撃可能距離は、後ろ足を引きつけた踏み込みで210cm。

 相手がそこまで入ったら――行く覚悟がある。


「小僧……思ったより、やるな。剣術スキルを持ってるだろう? だが、小僧のお前は恐らくまだLv1。それに対してな――」


 無精髭の眼が据わる。距離は210cm、だが――僕が行く前に来る!


「――俺はLv5だっ!」


 気圧されて先に出られた!

 無精髭の剣は唸りをあげて襲いかかってくる。これは――


「飛燕連撃!」


 小手、脇腹に剣が襲い掛かる。

 ――ソクガの木剣の攻撃とは違う。喰らったら、致命傷になる。


「くっ!」


 二手目までを防御! そして三手目の膝狙いの一撃を、後退して躱す。

 ――と同時に、僕は剣を無精髭の頭に斬り下ろした。


「イヤアァァァッ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ