第二話 水面下のオペレーション
第二話 水面下のオペレーション
中国軍機撃墜は確定した。米軍の慎重な戦闘記録の調査の結果、撃墜は疑いようのない事実だ。
ー中国 北京・中南海ー
北京では即座に会議が招集された。
「…やつらは引き金を引いた」
誰かが静かに、はっきりと言った。だが同時に、別の声が響く。
「現時点で戦争は望ましくない」
言い終わる前に、怒号が飛んだ。
「貴様は腰抜けか!我が軍の戦闘機が撃墜されたのだぞ。それでおいて反撃せぬとは何事か!」
場が凍りつく。誰もが発言せず、沈黙が場を包む。
その沈黙を破ったのは、上座からの低い声だった。
「我々は何も失っていない。ただ、米軍の戦闘機の領空侵犯の恐れがあり出動。その道中にヒューマンエラーで墜落…違うか?」
異様な空気の中、誰も異を唱えなかった。
中国政府は「事故」と発表した。
だか数時間後、タイミングを図ったように米国防総省が会見を開いた。
「我が軍の艦載機は太平洋上で演習中、中国軍機の接近を確認。対処に向かう途上でレーダー照射を受けた。我々は正当な自衛行動を取り、当該機を撃墜した」
発表はそれ以上でも以下でもなかった。
報道は一気に火を噴いた。
中国側は即座に全面否定。アメリカは沈黙を貫く。
沈黙は、時に雄弁であった。
ー中国 龍田基地ー
「そろそろ潮時だな」
整備所にて、義勇軍パイロットが呟く。
「本国政府から帰投命令が下りた。理由は言うまでもないだろう」
演習、もとい義勇航空隊として参加していたイラン・カザフスタン・パキスタンの3カ国の航空隊は撤退を決定。
中国側はこれに猛反発したものの、すぐに龍田基地から飛び立った。
ー日本 東京・国家安全保障会議ー
「我が国が戦争に巻き込まれる危険性もあり得る」
「だが、日米同盟を蔑ろにすることはできない」
緊急で召集された国家安全保障会議では自衛隊の出動及び在日米軍基地の使用許可をしようとする総理大臣、防衛大臣とそれに反対する外務大臣、官房長官で論争が繰り広げられていた。
「静粛に願おう」
総理大臣の力強い声が響く。静かな論争ではあったが、あっという間に空気が変わる。
「我が国の安全保障を脅かす本事案は非常に危険な事態だ。そのため、在日米軍基地の使用許可。だが、航空機、艦船を除くミサイル等の攻撃兵器の駐屯は一切拒否。そして、自衛隊は自衛隊基地及び在日米軍施設の警護出動としたい」
外務大臣は何か言いたげだ。だが、総理は気にすることなく続ける。
「本事案において中国軍が活発化すれば台湾有事、いずれは尖閣有事にまで発展してしまう。決して他人事ではない」
ー岩国基地ー
夜明け前、海兵隊駐機場でF-35Bパイロットがヘルメットを被り機体に乗り込む。
「向こうも動き出すな」
「ああ、だから俺たちが行く」
短い会話、それ以上は不要だった。
機体はエンジンを始動し1機、また1機と動き出す。
ウェポンベイには実弾を搭載し、離陸していく。離陸した機体は南に針路を取った。
ー西太平洋 第七艦隊ー
ジョージ・ワシントン艦内は静寂だ。
「岩国からの航空隊、まもなく到着します」
士官の報告に艦長が頷く。
「いよいよだな」
「もう止まれない。突き進むだけです」
「艦載機、まもなく到着です」
艦長は艦橋横のウイングに出て、空を見上げる。少しして空に何個もの黒い粒が見える。その粒はでかくなり、目に見えるようになる。
艦載機は空母艦上を通過し、着陸態勢に移る。
1機が着艦、また1機と着艦に成功していく。
ー太平洋上空ー
黒い要塞ーB-52の10機編隊が空を進む。
「冷戦に遡ったな」
「違うのは、相手が引き金を引くのを躊躇しないことだ」
B-52の編隊は淡々とグアムを目指す。
ー嘉手納基地ー
「ホヤ21、コンタクト嘉手納アプローチ。」
グアムから飛来したF-22、F-35、F-16の各部隊が嘉手納基地へと向かっている。
「これはずいぶんと大がかりだな」
「しかも、これでたかが準備の一段階ってことだ」
「こちら嘉手納アプローチ。ホヤ、嘉手納タワーに合わせてください」
「ホヤ24了解」
嘉手納上空には大編隊が見え、ブレイクし着陸をしていく。
「見ろよ、ジャパンのカメラマンだ」
「はは…何も知らないってのは、時に幸せで時に残酷だな」
ー東シナ海 楡林基地ー
静かに、しかし確実に。
中国人民解放海軍の楡林基地からは演習目的で集結した空母山東、遼寧が出港した。
護衛艦を従え静かに、慎重に出港する。
「これはあくまで"演習"だ。射撃許可がすでに下りているだけでな」
公式には演習と発表されたが、明らかに演習のそれとは規模が違う。
その下で、鉄の鯨が全てを聞いている。
「あのうるさい音でバレないとでも思ったのかね?ジョージ・ワシントンに連絡。『大型艦二、その護衛艦が出港。山東、遼寧と思われる』」
「両舷微速、総員音を立てるな。追尾するぞ」
未だ宣戦布告はされていない。だが、小さな歯車はすでに動き出し、大きな歯車を動かそうとしていた。




