第一話 静かなる嵐
プロローグ
「それ」は事故と公表された。
南シナ海において作戦行動中であった米空軍第319遠征偵察飛行隊のMQ-9が突如喪失。喪失直前のデータも問題はなく、整備上の問題とされていた。
だが、中国政府は
「我が軍のJ-20は米空軍の無人偵察機を撃墜し、これを確認した」
と公表。米軍は「そのような事実はない」と抗議したが、ペンタゴン内では調査が進められ、数週間後には事実と確認された。
米中の外交は冷え切り、各国の報道は「戦争やむなし」「憎しき米を」「憎しき中を」と味方し、対立は明確となった。
報道だけでなく、海と空でも準備は進む。
中国東側の航空基地では演習との名目でイラン・カザフスタン・パキスタンを初めとする反米諸国の戦闘機が集結。
在日米軍基地では米軍の戦闘機が集結し、戦闘態勢が整っていた。
もはや、撃つ理由は十分であった。
残されたのは、"誰が最初に引き金を引くか"と"引き金を引く口実"だけであった。
空母の艦上は常に騒がしい。
だが、この夜はいつものそれとは質が違う。
ー西太平洋 米海軍第七艦隊ー
旗艦ジョージ・ワシントンの飛行甲板では発艦作業が続く。甲板では甲高いエンジン音と重いプロペラ音が響き、F/A-18やF-35C等の戦闘機群。EA-18Gの電子戦群。E-2Dの早期警戒機群が暗闇の中所定位置に誘導されていった。
黄色いジャケットをした誘導員が、忙しく腕を振る。
ゴーサインが出され、すぐさま機体は急加速し離陸。続いて2機目、3機目と離陸していく。離陸後、旋回し編隊を組む。
早期警戒機、電子戦機もそれに続く。
ーーーーーーー
異変を最初に捉えたのは中国空軍の空警-2000だった。
空警-2000の大型レーダードームが西太平洋全体の海空域を監視している。
搭乗員は背筋を凍らせ、ただ静かに、画面を見つめている。
画面には米海軍の艦船と思われるものと中央の大型艦から次々と飛び立つ航空機だった。
「司令部に報告しろ。『米海軍空母と思われるものより、戦闘機群が離陸』と」
ー中国 龍田航空基地ー
東側諸国の演習部隊が集う龍田基地では、中国軍上官の怒号が飛び交う。
名ばかりの演習部隊の実態は、中国空軍を主軸に東側諸国の航空機を混成した即応編隊だった。
だが、複数の国が絡んでいることもあり言語の壁が生まれる。
緊急出動であるということを手振り身振りで説明する者もいれば、とにかく怒鳴り勢いで突破しようとする者もいる。
数十分後になんとか全機が離陸することができとが、この間に米軍艦載機は刻一刻と迫ってきていた。
ーーーーーーー
「龍田基地より17機離陸。IFF応答なし。義勇軍航空隊と思われる」
当然、その接近を米軍の早期警戒機も探知していた。
「メイス201、5分後に不明機と接触、警告射撃を実施する」
交信の後、AIM-120ミサイルが1発、発射された。
シーカーは起動されておらず、追尾、ロックオンもされていない。ただの空飛ぶ筒である。
続いて、国際共通周波数に通信を行う。
「こちらは米海軍航空隊。貴編隊は当空域を離れ、離陸した基地にすぐさま帰投せよ。繰り返す…」
数秒待つが、応答はない。
「メイス204、レーダー照射を受けた!」
義勇軍の回答は、レーダー照射だった。
「こちらは米海軍航空隊!すぐさま反転し、帰投せよ!」
だが、レーダー照射は続く。
「メイス201、自衛行動とし火気使用及び撃墜を許可する。但し、目標は中国軍機のみ!」
数秒後、米軍は中国軍機の1機に対しレーダー照射を行う。
次の瞬間、AIM-120は"ミサイル"として発射された。
義勇軍側のパイロットは即座に実弾発射へ移行するとは予想外だったのか、回避行動が遅れ電子妨害も十分に機能しなかった。
数十秒後、1機がレーダー画面から消えた。
空域は、すぐさま戦闘状態に移る。
レーダー照射を続けていた義勇軍側の戦闘機もミサイルを発射しようとした瞬間
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「新たな編隊がそちらに接近中」
空警-2000が、後続の米軍航空隊を捉えた。
数、能力、展開速度、いずれも交戦が不利であることを示していた。
義勇軍航空隊はすぐさま進路を変更、反転し帰投した。
米軍も追撃はしなかった。米軍航空隊も反転し、空母へ帰投する。
1機、また1機が着艦し、戦闘機隊は全機が着艦。整備員が機体の整備を行い、発艦の準備がまた整えられた。
中国側も、1機、また1機と龍田基地に着陸する。だが、行きより数が少ない。
今回撃墜された1機は中国軍J-15戦闘機であった。
撃墜機以外に損害はなく、無事に帰投した。




