涼川 任儀という人物
ある金髪の男子大学生は次のように証言した。
「涼川 任儀君すか。同じ学部だけどあんまわかんないっすね──あでも、めっつちゃ頭いいっす。聞いた話だと高校でも成績良かったらしいっすね」
あるチェックの服を着ている男子大学生は次のように証言した。
「涼川くんですか。友達からの話ですけど軽音サークルでギターやってるみたいですね。なんというか…… あの容姿でギターは意外でした」
ある二人の女子大生は次のように証言した。
「"涼川 任儀 "…… ねえミナそんな人いたっけ?」
「ねぇ酷いよマオ! ほら同じ学部にいるじゃんあのオタクに優しいイケメン? みたいな人」
「あー! 思い出したあの人か!! 任儀くんかっこいいよねー優しいし。でもマオいつも一緒にいるあの"ブスメガネ"きらーい」
「だからマオ! 言い過ぎだって。まーでも確かに任儀くんあの人のせいで同じ学部の人から避けられてる感じする」
「でしょ! もったいないよー。もっと関わる人選べばいいのに…… って、思ってまーす」
その他数人にも聞き込みをしたが、まともな証言は上述した3名のみ。涼川任儀…… これは思った以上に厄介かもしれない。
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「僕の印象としては"大学デビューした優等生"みたいな感じでしたね」
「最後の三組目の言っていた"ブスメガネ"だったか…… こいつがカギになりそうだな」
そうして僕の報告を聞き、広場のベンチに座っている隼先輩は腕を組んで出た情報を推理し始める。
それにしても……こんなに情報が出ないものなのだと僕は内心衝撃を受けていた。出てくるほとんどの情報は「イケメン」「優しそう」「頭良さそう」の表面的な三点のみ。ここまで来ると人とあまり関わっていないのでは……と勘繰ってしまう。
「隼先輩はどうでしたか?」
「俺からは興味深い話がでた。どうやら涼川は高校時代に同級生から嫌われていたらしい」
「え!? それどういう事ですか」
「まず、涼川は相当裕福な家に生まれていたようだ。親に甘えて育てられたせいか高校時代の涼川は自己中心的で手に負えない存在だったらしい」
先輩から出たその言葉を僕はすぐに信じる事が出来なかった。あまりにも僕の聞いた情報のイメージとかけ離れている。
だけど…… それならほとんどの人が表面的な評価しかでないのは納得がいく。涼川は関わろうとしていないのではなく、逆に周りから"関わらない"ようにされていたのだ。
「よし。じゃあ次は涼川を探そう」
そう言って隼先輩はベンチからさっと腰を上げる。
「探そうって…… 先輩が一日かけても見つからなかったのにですか?」
「昨日探した場所は涼川の自宅と実家、そしてこの大学のキャンパス内。なるべく他の人間と接触したくなかったから昨日はあえて聞き込みをしなかった」
「なるほど。情報を得た今ならまた別の場所へ捜索できると……」
確かに先輩のいう通りだけど、ならどこへ捜索しにいけばいいんだろう。やっぱり一番は涼川の所属している"軽音サークル"だろうか。だけれども活動場所を聞くことができなかったんだよなぁ──また聞き込みをしないといけないのか。
僕がそう思ったそんな時だった。
「ちっちゃい"刑事"さーん! すいませんっすー!」
そう背後からそう呼び止める声が広場全体に響き渡る。振り返ると僕が聞き込みをした金髪の男子大学生とその隣に同級生であろう青髪でセンターパートの男がこちらに向かい歩いていた。
「"刑事"…… ?」
「あはは。さすがに本職名乗るわけにはいかないと思ったので嘘ついてただけですよ…… 。そんな怖い顔しないでください」
隣から伝わってくる無言の圧にどうにか耐え、僕たちも彼らのもとへと向かう。
「刑事さん、こいつ俺の友達の友達なんですけどこいつからも話を聞いてやってくださいっす。こいつ軽音なんで」
「まあおれでよければ…… でも刑事さん涼川がなんかやったんですか?」
肩を掴み歯茎を見せ笑う金髪の大学生と、それとは対照的に今の状況に困惑している青髪の男──これは活動場所を聞く手間が省けたと、僕は心の中でほくそ笑んだ。
さっそく聞こうと僕が口を開いた時──
「それに関しては気にしないでくれ。よければ軽音サークルの活動場所に案内してほしい。それと"涼川のギター"も見せてくれ」
僕が聞くよりも早く先輩に先を越されてしまった。ちょっと悔しいけど先輩というだけあって行動が早い。
そう感心した僕だが一つだけ僕は気になる事があった。"ギター"…… 見るにするにしてもどうしてそんな事をするのだろうか。
そんな疑問を抱いたまま、僕達は軽音サークルの活動場所へと向かったのだった。
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17:58
東双大学軽音サークルは、OBの人が持っているスタジオを借りて活動しているとのことで、僕達は大学から徒歩10分の場所にある音楽スタジオにやってきた。さっそく僕たちは涼川に会おうとしたのだが……
「涼川、ちょうど買い出しで全員分の水を買いに行ってるらしいです」
「仕方ない。俺は先に涼川のギターを見てくる」
そう言って隼先輩は別の部屋へ移動していった。そうして三分ほど経過した頃だっただろうか。僕が予想した時間よりも早く隼先輩は戻って来た。
「どうかしたんですか?」
「…… 涼川のギターがないそうだ」
僕は思わず声を漏らした。ただの買い物にわざわざギターを背負っていくとは考えにくいし、消えるなんてそんなの絶対にありえない。
そう考えていた所、僕は不意に今日車で観た映像が頭からよぎる。映像では袋が急に姿を消していた。サイズは違ってもこの状況は映像に似ている……!
やはり涼川 任儀 はファイター使い。そして奴のファイターは恐らく『物を収納できる』能力に違いない。
「清澄、何をしているんだ」
そう目の前にいる隼先輩から声を掛けられ、虚ろだった僕の意識は我に返る。隼先輩は僕の目を見た後に一度だけスッと息を吸った。
「背中に汗をかいているな。焦りではなく高揚の汗──さながらパズルで最後のピースを当てはめる直前のような」
他の誰にも聞こえない隼先輩の言葉に僕の心臓が激しく脈打つ。
「ギターがない以上仕方がない…… 誰でもいい! この中に涼川の私物を持っている人はいないか!」
隼先輩はこの場にいるサークルメンバーの人たちを見渡すが、誰も目を合わせようとはしない──と、そんな時だった。一人のメンバーが恐る恐る口を開く。
「隣の部屋に置きっぱなしのペットボトル、もしかすると任儀のかもしれません」
「よし。そこへ案内しろ」
隼先輩は言葉を聞くなり足早と前へ進むメンバーの後を進む。そして数秒後すぐに戻って来た。
「皆さんありがとうございました。ご協力感謝します」
そう言って先輩はスタジオから去ろうと出口へ歩き出す。僕は驚き、そして急いで隼先輩の後を追った。速足で進んでいる先輩と僕の距離はだんだん遠くなっていく。
「先輩どうゆうことか説明してください! なんでそんなに涼川の物にこだわるんですか!」
「── 本当ならもっと『強いもの』がいいんだがな。あの中に"このペットボトルの持ち主"はいなかった」
そう僕が聞こえるようにつぶやいた後、隼先輩はいきなり立ち止まった。いつの間にか僕たちは人気のない路地裏に来ていたらしい。そして先輩は先ほどとは違うさらにはっきりとした声で僕にこう告げる。
「準備は整った。ここからは俺と俺の『ファイター』が、奴を追跡する!」
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