出会い
一か月ぶりの更新です
9月12日 12:20
僕が今から向かうこの街、双景市は昔から犯罪の多い街だと聞いている。ジェイクさんは"捜索"だと言っていたけど、本当にそれだけで済むのか見当もつかない。
「まあ、でも今は任務に集中しないとね。早瀬さんと待ち合わせのホームは次の駅か……」
慣れない電車の乗り降りに苦労しながらも、僕はどうにかして指定の駅にたどり着くことができた。でも駅のどこに行けばいいのかは指定がなかったんだよな……
僕がふとそう思ったまさにその時。視界の右側のほうから手を振っている人がいることに僕は気がついた。よく目を凝らしてみると──早瀬さん!?
「早瀬さんなんでここに!?」
「やあ清澄君。なぜって今は任務ではありませんか?」
「いや分かりますよそれはッ!」
「ははは…… 少し意地悪しちゃいましたね。依頼している我々が迎えに来ないのは失礼でしょう」
早瀬さんはそう優しくほほ笑む。とても温かくて、安心させてくれる笑顔だ。
「さて、移動でお疲れだと思いますがもう少しお時間をください。これから15分ほど車で移動しますので」
そう言われた僕は、早瀬さんに促されるようにして黒塗りのワゴン車に乗り込んだ。
────────────────────────────
車に乗って3分後、信号が赤になり車が止まった。その時、運転席にいる早瀬さんが後部席の僕に向かい声を掛けてきた。
「チャットの方に任務詳細の資料を配布しました。イヤホンの電源を付けてメニューを開き、資料を見てください 」
僕が資料を開くとそこには茶色に染めた髪をもった青年の写真と、コンビニ駐車場の防犯カメラらしき動画が添付されていた。そして僕が資料を開くと同時に車は進み出し、早瀬さんはこの青年についての説明を始める。
「今回捜索する方の名前は『涼川 任儀。双景市に住む大学生です」
「大学生って…… 一体どんなヤバい事したんですか」
「いえ、別に悪い事をしているわけではなくてですね……」
早瀬さんは僕の疑問に対して言葉を濁らせそう答える。僕は意味が分からなかった。なぜ特段悪い事をしてもいない彼をどうして僕達が捜索するのだろうと。
一瞬の沈黙の後、早瀬さんは運転している右手とは反対の手で頭を掻く。そうしてまた僕に向かって質問を投げかけてきた。
「特殊部隊の仕事内容について、どこまで知っていますか」
「えっと…… "警察単独での解決が難しい事件を解決する事" ではないんですか?」
「それも仕事の一つですね。特殊部隊にはそれともう一つ仕事がございまして──ではここで添付されている動画を再生してみてくれませんか」
僕は動画の再生ボタンを押しその映像をじっと見つめる。何も変化のないコンビニ駐車場の映像から10数秒後、コンビニから青年…… いや涼川が姿を現した。涼川の右手にはビニール袋が握られていてもう片方の手でスマホをいじっている。と、僕がそう思った次の瞬間であった。
「え!?」
「さて清澄君。映像の涼川には何が起こりましたか?」
「はい、右手に持っていたビニール袋が……」
消えていた。本当に突然プッツリと映像に映っていたはずのビニール袋が姿を消したのだ。
「それだけではありません。どうやら彼の周りでこの現象は1か月前から起きているんです。詳しくはこの動画を」
そう早瀬さんが言った次の瞬間、チャットには新しく別の監視カメラの映像が添付されていた。今度はスーパーの店内らしき映像では、涼川が買ったものを袋に詰めいざ持って帰ろうとした時には、やはり袋は消えている。
「カメラの故障や加工は確認されていません。心霊現象にしては…… 少々出来過ぎていますね。さて、では一体これはどういう事なのでしょうか?」
「──映像から涼川がファイター使いの可能性が高いのは分かります。でも今のところ涼川は何もしていないように見えますが……」
「そこなんですよ清澄君。ところで清澄君はファイター使いになると国に名前を登録しなければならない制度をご存じでしょうか?」
その言葉に僕の思考は突如制止した。今早瀬さんの口から出た"制度"の事を僕は微塵も知らなかったからだ。
「なんですかそれ、初めて聞きましたよ!」
「やはりそうでしたか。というのも清澄君はごく稀な例で、ジェイクさんに引き取られた際にジェイクさんが登録しておいたそうなんですよ」
「そうなんですか? うーん覚えてないなぁ……」
あれ、そういえば施設にいた頃の記憶もよく考えてみると覚えていないな。それどころかどうやって施設に入る事になったんだっけ。
考えれば考えるほど僕の頭は痛くなるばかりだった。
「すみません話が脱線しちゃいましたね。話を戻しますと涼川は国に名前を登録していない事が確認されているんです。これが故意なのか、あるいは知らなかったによって処遇が変わってくるんですよ」
「だから確認する必要があると…… でも確認するだけなら僕達が行かなくてもよくないですか?」
「そう思いますよね…… しかし、わたしのような一般人にはファイター使いに対抗できる手段はほとんどありません。熊を相手に狩人ではない人間がパイプだけで闘うようなものです」
「つまり対抗できる人間、すなわちファイター使いである僕達を向かわせるのが最善策だと」
そこまで言い切った僕はうつむき、気づかぬうちに大きなため息を一つ漏らしていた。2回目のミッションにしてはやっぱり重すぎるでしょこれ……
早瀬さんはそんな僕の暗い顔を見かねて何とかフォローする。
「まあ、今回は一人ではないので安心して大丈夫だと思いますけどね」
そうだ、そういえば僕は今日"助っ人"という位置づけで任務に参加するのだった。
僕はぱっと顔を上げ早瀬さんの方へと向き直る。そして早瀬さんに僕の抱いていた一番の疑問をぶつけた。
「早瀬さん、ところで今回なんで僕が助っ人なんですか?」
予想外の質問だったのか早瀬さんは一瞬肩を浮かせた後、僕の質問に対して口を開き始める。
「実は昨日この任務を担当している……朝霧 隼君は、一日かけても涼川を見つける事が出来なかったんです。それで誰か助っ人が必要かとわたしが尋ねたところ今回君を指名したんですよ」
「僕を……?」
どういう事だろうか。僕は…… 隼先輩の顔も知らなかったのに先輩は僕を指名している──?
そう考え始めた時。突如として車がゆっくりと減速し、そして停止する。
「お疲れさまでした。ここが隼君との合流場所です。そして──彼はもうすでに来ているようですね」
「な、なんだってッ!?」
途端に僕の心臓がひどく唸り始める。まだ心の準備ができない僕なんてお構いなしにワゴン車の扉はゆっくりと開いていく。
やけに大きく響く鼓動の音が僕の気持ちをさらに揺さぶり始める。
そうして、一瞬だけ視界を白く染めた外の光が開けたその時。そこには、白いニット帽を被った男が最初からそこに居たかのように、こちらをじっと見つめていた。




