衝動。そして新たなミッション
(そうだ、聞いておかなくてはいけない事があった )
帰り際、僕は不意にそんな衝動が頭に走った。しかしその時僕たちはすでに料亭からは出ていて、皆が帰路へと歩こうとしている。
僕は急いで真逆の方向へと歩こうとする早瀬さんの名前を読んだ。早瀬さんは一瞬肩を揺らした後に僕の方へと振り返る。
「どうかされましたか?」
「……実は、聞きたいことがあるんです」
「ええいいですよ。わたしが答えれるものなら何でもお答えしましょう」
僕が早瀬さんに聞きたいこと。それは僕が疑問に思うたった一つの事だった。
「早瀬さん、『クロ』って言葉の意味を何か知っていますか? 」
「色…… ではないですよね。詳しく聞かせて下さい」
「僕の担当した事件、犯人である野坂正次は何かに執着しているようにみえました。僕は聞いたんです"何が目的だ"って。そしたら──」
そう、今でもはっきりと耳に焼き付いているあの言葉。現場の最前線にいる早瀬さんなら何か手掛かりを知っているはずだ。
「"クロのために"と…… 少しでいいんです、噂でもなんでもいい。この言葉に何か心当たりはないですか? 」
「おいバカな事を聞くのはやめろ清澄。特殊部隊に長年いる俺でも始めて聞いたぞ。薬物の副作用による意味のない単語だったんじゃないのか」
口を割って来たのはジェイクさんだった。確かにジェイクさんのいう事は正しい。実際にはそうかもしれない。でも、それでも──
そんなことを思いながら僕は早瀬さんの返事を待つ。早瀬さんは足元に目線をそらし顎に手を当ててしばらく黙り込む。そうして一瞬虚空を見つめた後、ゆっくりと口を開いた。
「……分からないですね。めぐるさんは何か知っていますか? 」
「えとぉ、ぼくも分からないです」
「そうですよね── すみません清澄さん。一応本部に戻ったら調べておきます。なにか手掛かりが見つかるかもしれません」
手掛かり無し…… か、いやでも仕方ない。調べるのに協力してくれるみたいだし、一歩前進したと思っておこう。
そうして僕達は別れの挨拶を交わし、それぞれの帰路へと歩き出したのだった……
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9月12日 11:30
あれから数日が経過し僕には日常が戻って来ていた。この数日僕は、なぜかこの周辺の街の監視カメラの様子をひたすらチェックするという、なんともつまらない作業をひたすら行っていた。
この仕打ちに不満はあったものの、よくよく考えてみるとジェイクさんは僕を任務に出すことを出し渋っていて、最初から僕を任務に出させる気は無くあくまでも『緊急事態』だったからこそ、今回は情けで僕を行かせてくれたのかもしれない…… と最近はこう自分を言い聞かせている。
(でも実際僕は任務事態に成功してはいるんだし、なんであの人は僕の意思を組んでくれないんだ……)
そんな思いを抱えつつ僕は事務所に繋がる扉を勢いよく開き、大きな声で挨拶をした。
「おはようございます!」
「おはよー! 清澄君は元気だね」
おそらく徹夜明けのメガネ先輩は、その疲労を感じない程元気な声で僕にあいさあつを返してくれた。一方のジェイクさんはまだ事務所にきていないようだった。
「しかし今日"も"早いね清澄くん!」
「"も"ってなんですか! いつもアラーム設定しているから普段は遅刻しないんですぅ!」
「でもこの前遅刻したじゃーん」
「いやッ! だからあれは!……」
そうして何気ない会話をしていたまさにその時、不意に事務所の扉が開き扉の奥からジェイクさんが挨拶もせずに、ずかずかと中へ入って来た。
──なにか様子が変だ。普段ジェイクさんはどんないかなる時でも挨拶は欠かさない人だ。なのに一体どうして今日は挨拶をしないんだろう……
「ジェイクさんどうかされましたか……?」
おそるおそるメガネ先輩はそう尋ねた。ジェイクさんは自分のデスクトップPCを立ち上げ、僕達を自分のもとへ来るよう手招きをする。
ジェイクさんは動画サイトを開き、朝のニュースの映像を僕たちに見せた。
《次です。警察庁によりますと去年一年間の間で大麻などの所持で摘発された人は、過去最多の11362人に上りました。年代別では20代が4372人、20代未満は1840人と全体の6割以上を占めていて……》
「ジェイクさんこれは?」
「……なあメガネ。なんで俺たちは警察の事件に"俺たち"から調査できないんだと思う」
「それは、特殊部隊の規則で『特殊部隊の能力や技術は国または警察の許可なしに使用することを禁ずる』という決まりがあるからで──」
「それだよ。これは要するに『勝手に警察や国の仕事の邪魔をするな』って事だ。……おかしいと思わないか。どんな重軽犯罪も俺たちがいれば全部片が付くにも関わらずだぞ?」
そう言ってジェイクさんは右手の拳をギュッと力いっぱいに握りしめた。
「なんで俺たちを頼らないんだ!? 俺は10年以上前から言っているんだぞ、""俺たちに任せれば犯罪件数は激減する""と…… それなのにッ‼ なんで何も変わっていないんんだァッ!!」
「お、落ち着いてくださいジェイクさん……」
はらわたが煮えくり返ったジェイクさんを、メガネ先輩は落ち着かせようと必死に声を掛けている。そんな修羅場のような状態に陥った事務所内で、突然ジェイクさんのスマホが鳴り出した。
「はい、もしもし……」
不機嫌そうに電話に出たジェイクさんは別の部屋へ行き……しばらくして戻って来た。そして僕の顔を見るなり開口一番に僕へ向かいこう告げるのだった。
「おい清澄、お前今から任務行けるか? いや正確には助っ人なんだけどな……」
ちょっと待ってくれこの人、今なんて言った。 "任務行けるか"だって……?
「任務行かせてくれるんですか!?」
「チョうるさいって! というか勘違いするなよ。一回任務に行ったのなら、もうはぐらかす事は無いさ…… ただお前がまだ心配だから受ける任務を俺が厳選してたんだよ」
うーん過保護。先ほどまでの雰囲気が一変し、ジェイクさんはいつものようなウザイ上司へと元に戻っていた。
……しかし"助っ人"という言葉は妙に引っかかる。僕がジェイクさんにその事を聞こうとしたその時、先にジェイクさんの方から説明を始めた。
「清澄。お前が今から行う任務は"ファイター使いの捜索"だ」
「捜索……?」
「これに関しては現地で説明を受けた方が早い。これから"双景市へ向かい、早瀬に会いに行け──あ、それとだな……」
ジェイクさんはスマホを開き、ある人物の顔写真を僕に見せた。
「今回お前はコイツの任務の手伝いとして参加することになる。名前は『朝霧 隼』、お前の先輩に当たる奴だ」
襟足の長い少しくせ毛な黒髪の写真の男…… 朝霧 隼。次の任務はこの人と一緒にファイター使いを探すのか。
期待と不安の入り混じる僕の背中を押すように、ジェイクさんは僕に力強いエールを送る。
「さあ、今この瞬間から任務は始まった! 気合入れろよ清澄ッ!」
こうして僕は期待に応えるべく事務所から飛び出し、トンネルの闇へと消えるのだった。




