「虎爪一閃!!」
~~~新堂助~~~
「……なんだと?」
大佐の体が硬直した。
俺の背後、ガリオン号の方角を見て、サッと表情を変えた。
「そんなバカなことが……なぜこんなところに……」
なにぶん背後で起こっていることなので、俺にはよくわからなかった。
俺との約束を守ったジーンの銃が放つ青白い閃光が、サーチライトのように空を切り裂いている。
思ったより派手だが、そこまで驚くほどのものなのだろうか。
「精霊銃……だと……?」
ただの光線銃ではないと聞いてたけど、実は相当な代物だったのだろうか。
レアものか?
なんにせよ、これは大きなチャンスだ。
大佐の足は完全に居着いてる。
でかしたぞ、ジーン。
「あとでいいコいいコしてやるからな──」
俺は即座に仕掛けた。
半歩踏み込み、左を振った。
握りこむようにして溜めていた血を、大佐の顔面に浴びせかけた。
「む……っ!?」
防ごうにも、大佐の右腕はもう動かない。
左腕は腰だめに構えていて、足もその場に居着いていて、まともな回避行動がとれない。
しかたなく顔を倒したが、そんなわずかな動きでは、血を避けることは出来なかった。
目の辺りにべったり付着した。
視界を──
奪った──
「この……っ!」
大佐が苛立ったような声を上げた。
この状況を打破するための選択肢は、そんなに多くない。
逃走は、性格的にも選べまい。
攻撃に出るというのも無しだろう。あてずっぽうで手刀だけ振り回したところで意味がない。躱されて肉迫されたらそれでおしまいだ。
となると、大きく3つだ。
顔のバリアを解除して血を落とす。
左手のバリアを解除して顔を拭う。
左手で顔を覆いつつ、顔のバリアを解除する。
どれも一長一短。
前ふたつなら顔か左手の防御をかなぐり捨てることになる。
3つめなら胴ががら空きだが、全身もしくは一部を針状にすれば俺の二度打ちは防げる。
すべては駆け引きの問題だ。
果たして、大佐は3つめを選んだ。
左腕で顔面をかばった。
「おいおいがら空きだぜ!?」
すかさず全力で煽った。
あえてどこがとは言わなかった。
考えさせることに意味がある。
機械じゃないんだ。人間、瞬間的に考えられることには限界がある。
考えることが多ければ多いほど、少ない時間で正解にたどり着くことは困難になる。
0.0何秒かの逡巡の後、大佐の口元が動いた。
全身を覆うエーテルのどこかを針状にしたのだろう。
どこを打てば最も有効打となるかを考え、さらに俺の指摘が反映されていると考慮するなら、おそらくは胴部。あとは金的。
彼我の距離を考えれば、後頭部まで守る必要はないはずだ。
バリアを解除すれば、血なんてすぐに下に落ちる。
──だから俺は、あえてそこを狙わない。
視界が遮られているのをいいことに、テレフォンパンチよろしく全力で右腕を振りかぶった。
手の形は虎爪。指を大きく開き折り曲げた、中国拳法独特の掌形。
日本じゃあんまりメジャーじゃないが、目や鼻などの急所を狙ったり掌底部分を使って打ちにいったりの他に、引っかけることで関節技や投げへの移行などにも使える柔軟な形だ。
狙いは──左腕!
顔面をかばう大佐の左腕に、全体重を乗せた掌底を勢いよくぶち当てた。
腕ごと、バリアが解除されているはずの顔面に押し込んだ。
「ぶ……っ!?」
大佐の呼吸が乱れた。
目か鼻を潰せていれば最高だが、まあそこまでいかなくてもいい。
動揺でエーテルのコントロールを乱せれば、それで充分。
あとは──立ち直る前に仕留める。
そのまま虎爪で引っかけ、大佐の左腕を掴んだ。
肘を支点に捻じるようにして逆技を極め、有無を言わさず引き寄せた。
鋭く反転して肩に担ぐと、前方へぶん投げた。
一本背負い。
背中ではなく、後頭部から落とした。
ドゴンッといい音がした。
バリアで守られていようと、衝撃までは殺せない。
落下ダメージが、大佐の頭の中を跳ね回った。
「……!?」
大佐の目が泳いだ。
全身を覆っていたバリアが消えた。
意識が飛んだのだ。
ほうっておけばすぐに回復する程度のものだが、もちろんほうっておくわけがない。
「──シッ!」
顔面へ思い切り、肘を打ち下ろした。
遮るものは何もなかった。
肘を引くと、大佐の血と、折れた歯がくっついてきた。
顔面が思い切り陥没した大佐は、ぴくぴくと全身を痙攣させている。
立ち上がる気配は……ない。
「勝った……っ」
安堵のあまり尻もちをついた。
今さらながらどっと汗が流れてきた。
地面に触れた左手が、ズキンズキンと凄まじい痛みを訴えた。
「痛ででででで……」
それにしてもおっそろしい強敵だった。
バリアを張れる格闘者とかチートすぎんよー。
「……ま、だからこそ防御が疎かになってたって感じでもあるんだろうけどな」
大きく息をついて、空を見上げた。
青白い光がサーチライトのように空を切り裂いている。
「あれ……? あいつまだ撃ってるの……?」
不審に思った瞬間、宇宙港のスピーカーがキィィィンとハウリングを起こした。
──ジーン!
誰かが叫んだ。
御子神でも妙子でもないもうひとりの女の子が、切羽詰まった声でジーンの名を呼んだ。
──ジーン! やめな! アンタ、制御も出来ないくせに!




