「空へ!!」
~~~新堂助~~~
──ジーン! やめな! アンタ、制御も出来ないくせに!
スピーカーから、姉御キャラっぽい女の子の声が聞こえてきた。
「制御……出来ない……?」
背筋をゾクリと寒気が走った。
そのフレーズはあかん。
過去幾多の漫画や小説で使われてきた表現だが、だいたいろくなことにならない。
振り返ると、ジーンの銃は未だに輝きを発していた。
青い宝玉から生まれたサーチライトのような閃光が、なおもギュンギュンと輝度を増している。
「はああああ!? どんどん強まってるじゃねえか! 撃ってないのにあれじゃあ、撃ったらどうなっちまうんだよ!?」
「やだやだやだ! 怖いよ! 止まらないよう!」
ジーンは泣きそうな顔をしていた。
両手で銃を握ったまま、足を震わせ怯えていた。
「おい、ジーン!?」
慌てて俺は走り出した。
「どうしたんだ!? それ、止められないのか!?」
ジーンはすがるような目で俺を見る。
「わかんない……わかんないよ! 力が凄くて……うわああああん! 助けて、お兄ちゃああああん!」
──おいアンタ、なんとかしろ! そいつは古き嵐の精霊だ! 下手したら宇宙港ごと吹っ飛ぶぞ!
「なんとかしろったってああた……つか、今なんつった!? 今なんつった!? 宇宙港ごと吹っ飛ぶう!?」
規格外すぎんだろ! てか銃じゃねえよそれ、砲だよ砲!
精霊銃なんて甘っちょろい表現してんじゃねえよ!
──上だ! 空に向けるんだ! ジーン!
ガリオン号に辿り着くと、俺は一気にタラップを駆け上がった。
ジーンに飛びついて銃を奪おうとした。
「お兄ちゃん! 助けて!」
「任せろ……ってくそっ、なんだこれ!? 離れねえ!?」
先端が赤ん坊の手みたいな形をした青白い光が、ジーンの手指に絡みついている。
恐ろしく強い力だ。剥がそうとしても剥がせない。
「お兄ちゃん……怖いよ! 怖いよう!」
ジーンはボロボロと泣き出した。
「落ち着けジーン、なんとか一本ずつ剥がせ……いや、間に合わねえ! 上だ、上に向けろ!」
「そ、そんなこと言ったって……これ……力が凄くて……っ」
「くそっ……!」
俺はジーンの後ろに回った。
ジーンを抱きしめ、共に銃を握った。
体重をかけ、共に後ろへ倒れ込んだ。
射角を無理やり上に向けた。
同時に──
雷鳴のような轟音が響いた。
上に向いた銃口から、青白い光が奔流のように迸った。
凄まじいエネルギー波が雲を貫き、天の彼方に突き刺さるように飛んでいった。
あたりは束の間、太陽のような閃光に照らされた。
「きゃああああああああ!?」
ジーンが悲鳴を上げた。
「うおおおおおおおおお!?」
俺も思わず叫んだ。
エネルギー波が凄まじい気流を生み、俺たちに襲い掛かった。
俺たちはもろともに、開いていたハッチからガリオン号の中に吹っ飛ばされた。
勢いでハッチが閉じ、逃げ場のなくなった気流が船内で暴れ回った。
「きゃああああああああ!?」
「ジーン、絶対離れるな!」
俺はジーンの頭を抱え込んだ。
抗いようのない気流に吹き飛ばされて、あちこちに体がぶつかった。
天井に、床に、座席の角に、各種計器類に。
どこも硬くて、痛かった。
痛かったが、ジーンを離しはしなかった。
ジーンだけは傷つけるもんかと、歯を食いしばって痛みに耐えた。
──耐えながら、俺はそれを見た。
メインモニタに浮かんだ表示。
何かの拍子にスイッチが入ったのか、次元破砕の座標が固定され、さらに起動されてしまっている。
「やべえ……っ!」
気づくのが遅すぎた。
もう止める暇がない。
遠からず、ガリオン号は次元を破砕する。
唸り声を上げ、前方にある空間を食い破る。
「ざけんなよ!? ここには妙子と御子神がいるんだぞ!?」
気流が落ち着いてきた。
ぎりぎりのところで操縦桿に飛びついた。
──次元破砕はもう止められない。
──メインエンジンは起動している。
飛ぶしか……ない!
「うおおおおおおおおおお!」
フットペダルを踏み、エンジンを全開にした。
全力で操縦桿を引いた。
船の機首を引き起こし、空へ向けた。
ジーンの銃をそうしたように、空へ。
バーニヤが火を噴いた。
船は地上を離れ、凄まじい勢いで上昇していく。
ぐんぐんと高度を上げる。
凄まじいGが俺たちを襲った。
「きゃあああああああああ!?」
ジーンは悲鳴を上げ、レーダー士席に掴まっている。
「ジーン! 絶対その手を離すんじゃねえぞ!?」
「おにいちゃああああああああん!」
──シャアアアアアアア!
何かの唸り声のような音が轟いた。
金魚に似せた船の前面に、一対の光の牙のようなものが出現した。
ピラニアを思わせる獰猛な牙が上下に大きく開き、ガチリと噛み合わさった。
ピシッピシピシッ……パキィィィイイン!
空間にヒビが入り、割れた。
クリスタルみたいに粉々に砕けた。
多元世界へと通じる穴が、宇宙港の上空に穿たれた。
避けようがなかった。
船はまっすぐに、次元の穴へと飛び込んだ。
俺たちはなすすべなく、次元を渡った──




